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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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7.幹部格―2


 恭介が即座に反応したが、琴が苦しそうにしているのを見て、足を止めた。恭介は炎上を止め、暑さを肌で感じながら、琴に駆け寄った。

「ったく……」

 琴はそんな事を苦しげに吐き捨てて、氷の剣を燃え盛る炎の中に投げ込んだ。恭介は彼女を支えて、傷を見る。影の棘は掠めただけに見えたが、それは穿っていると言える程に深い傷だった。琴の足に力が入っていないのが分かった。

 窓の外、下の方から騒ぎが聞こえてきた。突如として空から降ってきたキリサキに一般人が驚いているのだろう。

 部屋はまだ燃え盛っている。恭介は負傷したリーダーに変わって言う。

「桃、部屋の炎と琴を頼む。俺はキリサキを追う!」

 そう言って、恭介は即座に瞬間移動。このビルの一階に下りて、即座に外へと駆け出した。

 桃は部屋で大炎上するモノに水をぶちまけ、炎を消し、琴に寄り添った。肩を貸して、歩いて一階まで降りる。その間に琴がNPCにキリサキと接触して負傷した事を含めた全てを報告した。




 恭介がビルの外へと出ると、そこに犇めいていた一般人連中が全員、北の方へと向かって駆け出していたキリサキを視線で追っていた。それを確認すると、恭介も即座に駆け出した。瞬間移動を使えば早いが、これだけの人間がいる中で、そう易々と超能力を使えるわけがなかった。

 キリサキがマナーを守るとは思えない。だが、こちらとしては守らねばならない。相手がどう考えているかまではハッキリとはわからない。だが、恭介は今、とにかく、キリサキを追うしかなかった。

 キリサキも訓練を積んでいるだけあって、体力を持っている。だが、洋介もそうだった。

 キリサキが向かったのは新宿駅だった。東南口にはこの時間、帰宅のために電車に乗る人間が多く集まっていて、それはもう視界も悪かったし、空気も悪かった。駅の階段の端にある喫煙所には団体がいて、そこの人口密度は相当なモノだった。

 キリサキはそんな人間をかき分けて改札へと続く階段を上り始めた。その異様な行動に周りの人間はざわつき始めたが、恭介が続いた事で更に周りの喧騒は大きくなった。

 キリサキが階段を駆け上がったその横のエスカレーターに恭介は飛び込んだ。

 改札前で、恭介がキリサキに追いついた。

「テメェ!」

 叫んで恭介がキリサキを捕まえようと首根っこをつかもうと手を伸ばしたが、キリサキは寸前のところで改札を飛び越えて新宿駅の中へと飛び込んだため、恭介の腕はからぶった。これ以上騒ぎを大きくするのは好ましくなかった。だが、追うしかない。

 恭介も改札を飛び越えた。周りの人間が眼を見開いて驚いていた。駅員が恭介達を追いかけ始める。

 事の動きが早いため、携帯電話等で動画を取れた人間はいなかった。それは運が良かった。だが、これだけ騒げば、一人くらいは警察に通報し始める。それに、駅の中には警察もいる。

(余計に超能力が使いづらい場所に入りやがって!)

 キリサキは周りの人間等お構いなしに人の波をかき分け、どんどん進んでいき、そして、ホームへと繋がる階段を飛び降りた。恭介も当然続く。駅員も警備員も、駅で待機していた警察もそんな二人を追って階段を下り始めた。

 キリサキはホームの人混みを押しのけて、そして、そのまま、彼は線路上に飛び込んだ。ホームから悲鳴が上がった。キリサキが押しのけた事でホーム上の人間の三人程、線路上に落ちた。恭介も即座に飛び込もうとした。

 だが、そこに、回送なのか、緊急のメンテナンスが必要になったのか、新宿駅を通過する列車が、通り過ぎた。悲鳴は更に増えた。

「ッ!!」

 恭介は寸前で止まった。目と鼻の先を、電車が高速で通り過ぎた。血しぶきが恭介の顔面に飛んできた。それが、キリサキのモノなのか、ホームに落とされた一般人のモノなのか判別はつかなかった。

 駅員までもが悲鳴をあげているようなそんな状況で、恭介は余りに冷静過ぎた。人が死ぬ様は、見すぎていたし、それに、明確な目標も見えていた。

 パニック状態の中のホーム。電車が通りすぎると、ホーム下に身を隠していたキリサキが線路上に出てきて、その先へと走り出したのが見えた。先程の血はホームに落ちた一般人のモノだったようだ。肉片が線路に付着している。良く見れば、吹き飛んだ一般人の腕や身体の一部がホームに落ちていた。

 恭介は即座に線路上に飛び降り、キリサキを追った。ここで逃がすつもりはなかった。駅員達が恭介に何かを叫んだが、降りてくる事はなかった。

 駅の先、トンネルになっているそこにキリサキは飛び込んだ。恭介も即座に飛び込んだ。そこは光源がほとんどない、影の世界。そして、人がいない。

 超能力を使ってくる。ホームの向こうから聞こえてくる叫び声を後ろにしながら、恭介は辺りを見回した。暗闇の中。うっすらと明かりはあるが、身を顰めているのか、影の超能力を使って暗闇に溶けているのか、キリサキの姿を見つける事は出来なかった。

 こうなれば先と一緒だ、と恭介は全身を即座に燃え上がらせた。それと同時に、聞こえてくる恐ろしい音。そして、風、存在。目の前に見えてきたのは、電車の正面かお

「おぉおおおおおおお!?」

 恭介は即座に横に身体を翻した。そのすぐ横を、電車が、通り過ぎた。恐ろしい程の風で恭介は電車に身体を引き寄せられるが、耐えた。風と音が通り過ぎると、恭介はふらついていた態勢を立て直した。恭介の目の前を通り過ぎた電車は新宿駅で止まった。まだ、電車を止めるまでの時間が足りていなかったようだ。今日の新宿駅は更なるパニックに陥るだろう。

「キリサキィィイイイイ!!」

 恭介が辺りを見回しながら叫ぶが、反応はなかった。返って来るのは恭介の叫びのエコーだけだった。

 チッ、と吐き出して、恭介は逃げ道を探すために再度辺りを見回した。扉が一つあった。それが、外へと通じる道なのかは分からない。開けた跡がないため、そこからキリサキが逃げたとは思えなかったが、この中にはトンネル内に入られた時点で彼を追うのは不可能だった。恭介は仕方なく、その中へと進入し、辺りを見て人がいないのを確認した後、瞬間移動を使って脱出した。




 キリサキはトンネルの暗闇の中に身を隠しながら進み、トンネルの外へと出た。と、同時だった。空気が炸裂する音がした。それは、自分から、だった。

「!?」

 キリサキには反応出来なかった。いや、誰もが反応出来るはずがない。それは、光の速度でキリサキの上半身と下半身を引き剥がし、通り過ぎて直角に二回曲がってキリサキの目の前に戻ってきたのだから。そんな芸当が出来るのは、一人しかいない。

 閃光。

 光郷明路は線路上に降り立った。眼鏡を中指で上げて位置を直して、真っ二つになったキリサキを見下ろす。上半身のキリサキが、光郷を見上げていた。切断面から鮮血が溢れ、線路を真っ赤に染めていた。

「お前等ジェネシスの幹部格の力等、所詮その程度だと言う事だ。今までずっと、超能力の悪用と戦ってきたNPC(我々)を舐めるな」

 琴の連絡から、まだ十数分しか経っていなかった。だが、その間でキリサキの(正確には恭介の)移動を確認して、新宿まで飛んでこれるのは、光の速度での移動を可能とする光郷くらいなモノだ。

 光郷はそう吐き出すと、一瞬で線路の外へと移動して、ポケットから携帯電話を取り出して、海塚へとコールした。

「ジェネシス幹部格の男、キリサキとやらを倒しました。新宿駅のところです。はい。恭介君達には本部に戻る様に連絡をします。えぇ、回収班を。ジェネシスは勝手にメディアの操作をするでしょう。後は、誰かが動画等をとってなければ良いのですが」

 そういって光郷は一度通話を終えて、次に琴に掛けて引いて良いと指示を出した。恭介は瞬間移動で既に琴達と合流していた。

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