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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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6.新体制―2


 恭介はまぁ、良いか、と荷物を自室に置きに二階へと向かい、またリビングへと戻ってきた。二人はまだ料理をしていて、大介は食卓で暇そうにテレビを眺めていた。

 大介と向かい合う席に腰を降ろし、恭介もテレビを眺め始めた。テレビにはバラエティ番組が映し出されている。芸人が笑いを取っている。それにたまに反応して時折笑いながらぼけっと過ごしていると、琴ができたよーと言って愛と共に料理を運んできた。

 食卓に並べられる豪華な料理を見て、恭介は思わず緊張してしまった。

 今まで、どうしてか奏は恭介にだけは冷たかった。理由はあると信じているが、とにかく、料理も質素なモノが多かった。恭介が晩飯を用意するようになってからは、恭介の料理の腕前の問題で大したモノは作れなかった。だが、今、目の前に広がっているその数々の料理、自分で食べていい料理を見て、恭介は、琴がいて良かった、と心から思ったのだった。

 琴が恭介の隣りに腰を下ろして、愛が大介の隣りに腰を下ろして、いただきます。

 大介も、恭介と同様にその料理には驚いていた。まさか、奏のいなくなった今、ここまでのモノが食べられるのか、と感動していた。

「どーかな? きょーちゃん。見ての通り、愛ちゃんと作ったんだけど」

 琴がニコニコしながら恭介に訊いた。当然、恭介は頷いた。

「旨い。マジで旨い」

 ガツガツと食べながら、

「いや、本当にありがとう。まさかこんな飯が食卓に並ぶ日が来るとは思わなかった」

 恭介はそう言いながらも、次々に御飯を口の中に放り込んでゆく。

 琴はあははと照れくさそうに笑いながら、

「また、良かったら作りにくるよ。喜んで貰えるなら嬉しいし」

「おう。また、頼むわ! つーか毎日でも来いよ!」

 最早、恭介は琴と自分が恋人の関係にある事を忘れているようだ。それほどまでに、食事に興奮していた。

 恭介が大介に振ると、大介も頷いた。異議を申し立てる人間がいるはずがなかった。愛はもとよりである。

「う、うん。……出来る時は来るよん」

 少し照れながら、戸惑いながら、琴は頷いた。微笑んだ。

 まさか、こんな状態にまで慣れるとは、と思っていただろう。単純に、今はまだ言葉では言えないが、幸せだ、と感じていた。




    26




 闘技場。隣り街のアーケード北。某ビルの地下に、一番近いモノが存在した。まさかこんな場所に、と恭介も思わず目を見開いた。

 ここで霧島雅は活躍していたのか、と思いながら、恭介はNPCの存在を隠すため、身分を偽ってエントリーした。その後はホール内を見て回り、数分後には控え室へと入った。

 控え室に転がる二つの死体には驚いたが、そういう場所だから仕方がないのだ、と自分に言い聞かせながら恭介は貴重品をロッカーの中に突っ込み、鍵をかけて、アナウンスが流れるのを待った。受付で説明は全て聞いてきた。当日の相手は、直前になるまで分からないそうだ。

 暫くすると入場するように指示を出すアナウンスが薄暗い控え室の中に暗いトーンで流れ、恭介は控え室を出た。

 控え室を出ると暫く通路が続き、その先に観客席とリングが見えた。既に、客席は埋まっていた。全員が法外な賭け事をしているのか、と思うと普段の世界とは全く別な世界に足を踏み入れている実感が少し沸いた。

 リングへと入ると、ほぼ同じタイミングで反対側からリングに上がってくる人間が見えた。若い、女だった。女がリングへと進入した途端、客席から歓声が上がった。煽る様な声も聞こえるが、それらを聞いていると観客のほとんどが新参者の恭介ではなく、この女を目的に見に来ているのだと分かった。客のほとんどは女に賭けて安定して稼ぐ事を狙っているだろう。僅かな数が、新参の恭介に賭けて大儲けを狙っているだろう、と予測が出来た。

 若い女だ。年齢は恭介達より少し上だろうが、まだまだ、若い。そして、顔こそ綺麗だが、首から傷がはみ出している。それなりに戦ってきた証だろう。

 怜悧な瞳が恭介を睨みつけていた。

 二人がリングへと上がると、重い音を鳴らしながら、天井から鉄柵が降りてきた。その鉄柵は地面に先を付けるまで完全に下がりきり、恭介達の逃げ道を塞いだ。客席と完全に絶たれてしまった。

 恭介は女の視線を受け流して周りを見回した。三六○度、どこを見ても鉄柵が縦に伸びていた。その向こうに、客席が見える。その恭介の行動が怯えていると見た連中がいるのか、逃げられないぞ、という煽りが聞こえてきた。

 もとより、逃げる気等ない。

 恭介は女と向き合う、女は相変わらず恭介を睨みつけたままだった。完全に敵とみなされているのが分かった。

 だが、怯まない。睨まれた程度で怯みやしない。

 恭介は挨拶代わりに言ってやる。

「そんな睨むなよ、愛佳さん」

 知識、で得た情報だ。それを吐いただけ、だが、この場でそれは彼女を驚かすに値した情報だった。

 鉄柵の外にある巨大なモニターに目を向けると分かる。そこには、『キョウ(恭介のエントリー名)vsメイ』と堂々と書かれているからだ。

 相手の本名を明かす規定なんてない。だからこそ、相手は驚いた。

 なんで私の名を、と思っているに違いないが、相手は動揺を隠すためか、何の反応を見せなかった。

 そんな愛佳の様子に恭介は気だるそうに嘆息して、そして、その直後、開始のアナウンスが鳴り響いた。

『只今より、キョウvsメイの対戦を開始します!』

 やたらとテンションの高いアナウンスと同時、ブザー音がけたたましく鳴り響いた。開戦の合図だった。

 だが、恭介はまだ、動かなかった。先手を打つ気がなかった。ただし、相手はそうではない。即座に恭介との距離を詰めてきた。前方真っ直ぐへの全力疾走。相手は数秒もしない内に恭介の目の前に迫っていた。

 そこからの、蹴り上げ。恭介の胸元目掛けて正面下から愛佳の蹴りが打ち上がった。

 恭介はそれを確かに見切り、小さなバックステップで後方へと飛び、それを避けた。が、後方に飛んだ事ですぐ後ろにはリングのロープがある端にまで追いやられてしまった。

 そこに、愛佳は更に数歩せめて追撃に入る。恭介の背後を潰してからの、拳、拳、拳、蹴り、拳。恭介はそれら全てを戦闘経験を活かし、受け止め、受け流す。

 映画のアクションシーンの様な二人の応酬に観客は沸いた。

 愛佳の拳が恭介の顔面を狙う、が恭介はそれを首を僅かに動かすだけで交わし、受け止め、受けが流して恭介は愛佳の背後へと回った。そして、距離を取った。恭介はリング中央の位置に立ち、愛佳は恭介と端の間にいた。

 そこで、愛佳も足を止めた。相変わらずのしかめっ面で、恭介を睨み、そして、静かに問うた。

「攻撃する意思はないの?」

 相手だってそうだ。闘技場で生きてきた人間だ。恭介が攻撃を仕掛けるタイミングがあるにも関わらず、仕掛けなかった。それくらいは理解している。そのタイミングをわざと出現させたりもして、恭介が攻撃してこないのを確認しての、質問だろう。

 それに対して恭介は、

「俺はお前さんが超能力を使わない様子を見て不思議に思ってたところだ」

 言い返した。

 恭介の挑発的な言葉に、愛佳の顔が歪んだ。

「そう、だったら見せて上げるから」

 そう宣言して、愛佳は、腰を低くして構えた。戦いを経験してきた様子が、その構えから見て取れた。

 愛佳がそう構えて、低くした態勢をバネにするように、駆け出した。そして、再度最初のように恭介のすぐ目の前に突っ込み、そして、拳を振るう。恭介の顔を狙った攻撃だった。この戦いで二度目の顔を狙った正面からの一直線の拳を、恭介は一回目と同じ様にして避けた。

 愛佳の拳が恭介の顔の横にある状態だった。が、しかし、愛佳は超能力を発動する。

 一瞬の出来事だった。恭介の顔の横に突っ込んできた拳から、何かが、恭介の顔に向かって飛び出してきた。

「!?」


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