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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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6.新体制





6.新体制





「私、NPCの福岡支部に行く事になったから」

 流の葬式の控え室で、奏は残った息子達の前でそう言った。言い切った。ただでさえ暗い雰囲気の場が更に暗くなった。

「なんで?」

 愛が首を傾げた。その表情は前日に泣きすぎて腫れていた。目も当てれない状態だったのは、言うまでもない。

 大介は愛の隣りで、沈黙していた。ただ俯いて、視線も上げやしなかった。

 そして恭介は、ただ呆然と奏の話を訊くのだった。

「お金の話もそうだけど、お父さん……郁坂流っていうNPCの一番上、つまりは頭を失った事でNPCは半分パニック状態なの。だから、私が九州を暫く見る事になったって事」

「事情は分かるけどさぁ、」

 大介が口を挟んだ。

「引越しも終わったばかりでさ。子供だけを置いてくメリットはあるのか」

 あるわけないでしょ、と奏は首を横に振った。

「仕方ない事なの。生活は、それぞれに任せるわ」

 言って、恭介を見て、

「恭介、あんたに全て、任せるから」

「……おう」

 恭介はただ頷いた。それだけだった。




 流が死んだその日、恭介は奏にそれを報告すると、思いっきり胸ぐらを掴まれ、壁に押し付けられた。押しつぶされてしまうかとも思った。恭介は、抵抗が出来なかった。ボロアパートの壁が壊れるのではないか、とまで思った。

「あんたがッ!! あんた、が……」

 語尾が弱くなる叫びが響いていた。近所の事なんて考えていなかった。だが、奏の力が弱くなるのは分かった。

 恭介は何も言わない。自身の胸ぐらを掴む奏の腕を持ちはするが、抵抗はしなかった。身体を支えているだけだった。

 何かを振り払うように、頭を振った奏は、そこで恭介の身体から手を話した。かと言って、恭介が落ち着けてるわけでもなかった。恭介はただ俯き、ごめん、と呟いただけだった。

 そんな恭介に追撃が入る。

「……ッ!! アンタ……アンタが流を殺したのよ。『変える事が出来なかった!!』」

 言葉全ての意味は理解できていなかったが、ただ恭介は謝った。そして、察していた。奏は、何かを言おうとしているが、言えないでいる、と。




 両親がいない、兄弟だけで暮らす新居で、新年を迎える事になった恭介達。数日が経過して、皆冷静さは取り戻した。そして、皆が皆、ジェネシスに対する復讐の心を持ち始めていた。

 暗くなんてしている場合ではなかった。今すぐにでも動いて、ジェネシス幹部を滅ぼし、神威業火を殺したかった。だが、恭介はまだ、所詮隊員でしかない。

 NPCの新リーダーがまだ決まっておらず、活動を再会できていなかった。それまで、全員が正月休み、という事で待機とさせられていた。

 恭介は昼飯を兄弟全員でリビングで済ませた後、自室に篭っていた。父親の事は確かにショックだったが、当然、冷静さは恭介も取り戻していた。だが、単純に、新年を祝う気はなかった。祝える状態ではなかった。

 八畳程の恭介の部屋。二階の端に位置するそれ。部屋にはベッドと机、本棚にテレビ棚、テレビにゲーム機、と極々普通の装いになっている。

 恭介はベッドに腰を降ろし、据え置きのゲーム機の電源を入れて、ワイヤレスのコントローラーを手にとってテレビを見た。起動音と同時に画面が映し出され、ホーム画面を表示した。それを操作して、ゲーム本編へと移る。

 恭介はゲームは人並みにする程度だった。特別上手いわけでもなく、下手でもなかった。つまり、適度にしかしていなかった。だが、ここ最近、する時間が増えてきた。

 恭介はNPCの活動を制限されている今、やる事がなかった。かと言って、外に出る気もなかった。

 が、そんな恭介を心配する人間は大勢いる。そして、その中には、行動を起こす者もいる。

 恭介の部屋の『窓』が、ノックされる音がした。

 突然の出来事に恭介は思わず身体を震わせた。思わず持っていたコントローラーを手放してしまった。

 気づいて、恭介は気だるそうに立ち上がり、そして、カーテンで遮った窓まで行き、カーテンを思いっきり開いた。そうして見えてくるのは、隣りの家の、窓――から、身を乗り出している長谷琴。

 恭介が窓を開けると、恭介の脇から飛び込むようにして、部屋着の琴が恭介の部屋の中に進入してきた。

 琴は立ち上がり、部屋を見回して、

「何? ゲーム中だった?」

 挨拶。

「いや、今始めた所だ」

 恭介はそう溜息を吐き出して、再びベッドに腰を下ろした。それを確認した琴は、恭介の隣りにそっと腰を下ろした。

「私もゲームしたい」

 琴は言う。落ちているコントローラーではなく、ゲーム機本体の側に置かれているもう一つのコントローラーを指差して言った。

 二人用の用意は出来ているようだ。恭介は無言で腰を浮かせてコントローラーを取り、琴に渡した。そしてそのまま、説明もせずに二人で出来るゲームを始めた。

 二人でレースゲームをしながら、会話を交わしていた。

「ねぇ、きょーちゃん?」

 車がカーブに差し掛かると同時、琴の身体も釣られて傾いた。

「なんだよ」

 そっけない返事。

「最近私に冷たくない?」

「はぁ?」

「ほら、その反応とか」

「そーでもねぇぞ」

「そうかな? あ、あけましておめでとう」

「おめでとう。今年もよろしくな」

「うん、よろしく」

 恭介の操作する車がNPCを全て追い越し、トップに躍り出た。琴の操作する車はその後に続いていた。琴は、相変わらず車が曲がると一緒に自身の身体も傾いていた。

 今日は一月三日。まだまだ正月気分は抜けてない者が多いが、二人はNPCでの流の一件があってから、馬鹿騒ぎなんてできていなかった。NPC日本支部の幹部として、琴だって相当仕事をこなして来た。流の死の影響は恐ろしい程にあった。だが、それでも、琴は今、笑う。

「あー」

 琴が残念そうにそう漏らした。ゲームは恭介の勝利で終わった。

「もう一度、やるか?」

「うん。次は負けないから」

 そしてゲームは続く。

「ずっと聞きたかったんだけどさ、きょーちゃん」

「なんだよ?」

「きょーちゃんって、彼女いたことある?」

「あるぞ」

 即答。そして、返事のすぐ直後に琴の表情が固まった。そして、琴の操作する車が見事にスリップして壁へと突っ込んだ。

 琴が笑顔のまま固まった。が、すぐにコントローラーを操作して、車をコースの中に戻した。そして最下位で琴の操作する車はレースに戻った。

 一度の咳払い、何かをごまかすようにそうして、琴は言う。

「へー。どんな子と付き合ってたの?」

「普通の奴だよ。普通の奴」

「相川高校の子?」

 そこで、ゲームの画面に『START』という文字と三角のマークが表示され、ゲームが一時停止された。琴が何か? と恭介を見ると、目を細めて、眉を顰めた恭介の表情が向けられていた。

 そんな面倒そうな表情をする恭介は、言う。

「しつこいな、んなモン知ってどーすんだよ」

 恭介が怒っていないのは分かっていた。ただ、あまりにも面倒そうな顔をするモノだから、琴は、引くしかなかった。

「あはは、ごめんごめん」と、笑って、「そうだよね。昔のことだもんねぇ」

 そう言って、コントローラーを握り直した。そして、ゲームが再会される。

 また、会話も再会された。

「きょーちゃんさ、」

「なんだよ」

 恭介の視線はゲームの画面から、離れやしない。

 そんな恭介の横顔を一瞥して、すぐにゲーム画面へと視線を戻した琴は、静かに、言った。

「私と、付き合ってくれないかな」

 再度、ゲーム画面が一時停止となった。

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