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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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5.臨戦態勢―4


 だが、それは恭介達に到達する直前。そこで、何かにぶつかって、止まった。

 零落の超能力による、氷のシールドが、職員室の廊下側に張られたのだ。爆風すら通さない氷のシールドは、砕けて飛んできたガラスの破片を受け止めて床に落とし、吹き飛んできた扉を受け止めて砕き、爆風の進行を許さなかった。

 爆風で先の光景が分からなかった。校庭の方は特に変化はない。

 暫くしてから爆風が去り、消えてやっと、そこにあった二つの影を見つける事が出来た。大小の二つの影。恭介と桃が並んでいるその影と似ていたが、風貌は全く違う。

 職員室前方の扉があった場所。そこにいる大きな影は、肩の下まである長髪と、厳つい表情が特徴的な、若い男だった。そして、その隣りにいる小さな影は、ツインテールにした長い髪と、幼げながらどこか大人っぽさも感じさせる風貌をした、中学生くらいの女子。

「神威家の二人だね。長男の亜義斗あぎとと、菜奈なな

 零落が眉を顰めてそう呟いた。続けて流が呟く。

「龍介を取り戻しに来たか。手間が省けたな」

 そう言って、流が手で零落へと合図をすると、零落は頷き、職員室の三分の一を仕切っていた氷のシールドを消滅させた。ガラスが砕けるようにして、消えたそれは、空気中に解けるようにして完全に消滅した。

「……言うまでもないだろうが、」

 亜義斗が言う。それに応えるのは、代表として数歩皆より前に出た流だ。。

「分かってる。お前さんの所の次男、龍介の回収に来たんだろ? すぐに持ってくる。待っててくれ」

 流は落ち着いた様子だ。彼もそれなりに修羅場をくぐり抜けてきた人間だ。こんな状況でもしっかりと落ち着いて払っている。

 そう言った流は、亜義斗と菜奈を一瞥し、手で後ろに合図をした。

 すると、背後にいた光郷が頷き、NPC日本本部へと閃光を使って移動した。残った光の軌跡は、零落がノックをするように叩く事で、あっという間に消滅した。

 五秒程だろうか。光郷は再度、光の尾を引いて、その場へと戻ってきた。当然、脇には龍介を抱えている。龍介は意識はあるようで、光郷に抱えられ、ここに登場してすぐに、亜義斗と菜奈の存在に気付いたようだった。

 だが、何も言わなかった。忌々しげな視線を二人に叩きつけるだけで、歯は食いしばったまま、口を開きはしなかった。こんな情けない状況に陥ってしまっている自分が、腹ただしいのだろう。

 龍介のその酷い有様を見た亜義斗と菜奈の二人は、流石に目を見開いて驚愕した。当然だ。敵である恭介だってこの姿を見た時は視線を逸らした。

 龍介のその姿を見た、亜義斗と菜奈は、どうしてなのか、二人でこそこそと話始めた。

 てっきり、すぐに怒りに身を任せ、襲いかかってくるとNPCメンバーは思っていたため、その行動には少し気を抜かされた。

 暫く二人で話した後、亜義斗が答えを言う。

「返してもらおう。龍介を」

 亜義斗のその言葉に首肯して、流が手で光郷に合図をすると、光郷はゆっくりと、警戒しながら亜義斗の下へと向かい、そして、両手足がない達磨状態の龍介を渡した。

 亜義斗は龍介を抱えると、

「……帰ろう。結果はどうなるかわからないが」

 そう龍介に呟いた。光郷にもそれは聞こえていたが、反応はせずに無視して、数歩そのまま下がり、踵を返して流達の下へと戻った。敵に背中を見せるのは宜しくないが、零落達が敵を見ているし、この状況だ。

 全員が亜義斗と菜奈を見守る。龍介をあれだけの目に合わせた後だ。亜義斗や菜奈まで今、どうにかしようとは思っていなかった。それに、彼等は二人で、NPCの恭介、流、琴、零落、光郷の前に立っている。その覚悟は、認めなければならない。

 亜義斗達はNPC連中と睨み合っていたが、攻撃を仕掛けてきている様子はなかった。相手が攻撃を仕掛けてくるまで、NPCの連中だって動かない。

 暫くの睨み合い。それは、実際の時間にして数秒程度の時間だったが、当事者達は恐ろしい程に長く感じていた。

 そして、その数秒後、亜義斗と菜奈は背中を見せた。そして、職員室から、一度も振り返ることなく去っていった。

「あっけなく出て行ったな」

 緊張の糸が切れた恭介が、安堵の溜息と共に吐き出した。

「あいつらは神威業火の指示通りにしか動きません。戦う必要はない、龍介を回収してこいとでも言われてたのでしょう」

 光郷はそう言った後に、溜息を吐き出した。

 見た目の戦力ではNPCが圧倒的に有利だった。幹部格三人に、代表と、その息子。対して相手は代表の子供だろうが、たった二人だった。あの状況で、しっかりと目標だけを見据えていたのだ。龍介を回収さえすれば、目的を果たす事だけできれば、十分だったのだろう。戦えば、不利なのはわかっていたはずだ。

「どうする? 追った方がいいかな?」

 零落が首を傾げた。だが、流は首を振った。

「これは宣戦布告なんだ。龍介のあの様を神威業火に見せつけて、こちらの力が圧倒的なのだ、と教えてやるんだ。煽れば、敵も顔を出す。そのチャンスを狙って、新兵器の問題も片付けたいと思っててね」

 そう言って、流は笑った。その笑顔に諭されるように、零落は素直に頷いて沈黙した。

 その後、光郷が捉えた新兵器の様子を見に戻り、零落がNPCの奥に避難していた皆の下へと行き、流、恭介、琴の三人で校舎の状態を見て回った。

 外には警察と消防が既に来ていたが、まだ、校庭にすら入ってきていなかった。NPC内部の連中が足を止めるように上の人間に連絡したのだろう。警察連中は野次馬を止めていた。消防連中はまだ、消防車の周りで延々と準備をしていた。

 流が携帯電話を懐から取り出し、中の人間に連絡をした。警察と消防の突入許可を出したのだろう。

 校舎は悲惨な状態に陥っていた。三階、二階は半壊していた。校庭にも、裏にもその破片が砕け散って落ちていて、その悲惨さは校庭や裏を見るだけでも推測ができる程だった。

 龍介と新兵器の一件があったため、もとより翌日の学校は臨時休校にするつもりだったが、この有様ではどちらにせよ通学等出来ないだろう。それに、暫くの間復旧できるとは思えない。他の学校と協力して、他の学び舎を用意しなければならない。文化祭なんて、もってのほかだろう。

 そこらの手続きは職員や執行部に任せるとして、流達にはやる事がある。

 一般人を巻き込う様な真似。マナー違反を起こしたジェネシスに、龍介以外のまた別の事で、処罰を与えなければならない。暗黙の了解を守れない。守らないのであれば、NPCの動きもまた、変えなければならない。

(新兵器も、全部片付けてしまいたい所だな。追撃を掛けて、神威業火にダメージを与えなければな)

 流は考えを巡らせる。

 返しはしたが、神威龍介の、ジェネシスの上にいる人間の超能力を奪い、無力化したのだ。

 これは、宣戦布告であり、そして、臨戦態勢への突入の合図でもあった。




    19




「業火様から入った報告書だ。全員目を通しておけ」

 巨大な、縦長な会議室。そこに、一五人の影があった。会議室の最深に立つ、若い長身の男がそう言って、その場にいた全員に書類を数枚、手に取るように指示を出した。その指示を受けて、それぞれが部屋の半分の面積を占める、中央に置かれた部屋に合わせるように長いテーブルに置かれた資料を手に取り、目を通し始めた。

 リーダー格の男の存在は明瞭だった。男の名はセツナ。名は業火に付けられたコードネームである。

 資料が全員に回った所を確認して、セツナは纏うスーツの袖から腕時計の姿を見える位置に出し、時刻を確認した。昼過ぎだ。まだまだ、時間はある。

「さて、」

 セツナが言いかけた所で、

「それよりエンゴの野郎はどうする」

 若い男が口を挟んできた。金色に輝く髪を逆立てた、右目の下に不可解な模様のタトゥーが入った男。イザム。そう呼ばれる男だ。

「エンゴは……、」セツナは考えた後、数秒で、「いない者と考える。NPCの中に、超能力を奪う力を持った人間がいるという話だ。NPCに捕まってしまった時点で、あいつはもう、私達の様な力を持っていないと考えるべきだ」

 言い切った。

 この連中、情報を持っている。

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