16.戦士達兵器達―12
(あぁ、わかってるさ、親父)
流は続ける。
「ま、とりあえずこれからも変わらないさ。これからも逃げ出した業火の暴走を止めるためにNPCを動かす。俺達で超能力を悪用する連中を止める。これからも殺し合いが続くだろうが、これからも変わらずよろしく頼むよ。お前ら」
そう言って笑う。
(わかってるさ。お前は俺じゃないって言いたかったんだろ)
流は笑んでいる。
不安なんてない。どうしようもない過去をどうにかしようなんて思っていない。思う事はあるが、琴に対しての愛情なんて消えているし、典明達がどうなったかも気にはなってもどうこうするつもりはない。どうこうするつもりがあったとしても、どうこう出来やしないのだから。
良く理解している。本人が一番分かっているの良い例だ。
「そうだね。これで流が変わるわけでもないし。結局流は流のままだって事なんだよね」
純也が言い、
「そうだよねー。何が変わってるのかも分からないくらいだし。あ、強くはなったよね。複合超能力ってだけでもそうだけど」
「うんうん」
瑠奈が言って、祈里が頷いた。
随分簡潔に話しが済んだと流が思う程だったが、周りはそれ程に気にしていない。
それよりも、純也と瑠奈が気になるのは、
「ところで、結局祈里ちゃんは奏ちゃんに戻るの?」
「それ、私も気になってた」
そこだ。結局、本来の奏は死に、祈里が神という絶対的な力で奏に代わっていたというのが事実で、それらを瑠奈も純也も認めて理解していたが、流が恭介だった、という事実に対して抱く感覚とは違い、どうしても、奏と祈里を同じには出来なかったのだ。
それは二人共同じであり、それを口にはしないが、感じ取りはしていた。
それに対して祈里は、苦笑して応える。
「あはは……。それがねぇ、私も暫くしたら奏ちゃんに戻るんじゃないかって思ってたんだけど、そうならないみたい? 結局の所、元が神である祈里だったわけだから、祈里が戻ってきてしまった以上は、祈里が残るんじゃないかな。自分で祈里祈里言うのってなんか違和感ある」
つまるところ、
「あーなるほどな」
流は理解した。神の力を持ってしても結局、流以外には奏は祈里の姿で認識されていたのだ。それ故、デフォルトの状態、肉体や精神は結局は祈里のモノであり、奏となっていたのは神の力による重ね書きの状態だったのだ。
奏という存在は、神の力によってほぼ完璧に、祈里という存在に溶け込んでいたメッキに過ぎなかったのだ。祈里がそのメッキを破って戻ってきたのだ。敗れたメッキは元に戻らない。
神の力を再度発動し、奏に戻る事は可能だろう。
分かっていた。流は理解している。それを祈里も察している。
「どうしようか? 私より奏ちゃんの方が良いかな?」
イタズラに祈里は笑む。今や既に、流にも祈里のその姿が見えている。完全に奏が消えた証拠なのだろう。
いいや、と否定を吐いて流は首を横に振る。
「結局、奏は燐に殺されたんだよ。あの時。それに、俺がいた世界とは違うんだ。流が奏とくっつかなくても良いだろ。そりゃ、碌さんに奏に、苗字ももらって、郁坂家には数え切れない程の恩があるが、なんつーんだろうな……。こうなるのは必然っていうか、こうなるのも必然っていうか……。なんだろうな。俺は結局、あの時奏を失ってたってもしかすると、気付いていて、祈里の優しさに触れていて……っていうか、」
急に俯いて、あーもー、と無駄に変な声を上げた流は顔を真っ赤にして顔を上げ、祈里を見て、
「お前の事が好きなんだと思う。いなくなられるのは胸が苦しくなる程に悲しい事だと……思う。だから、そのままでいてくれ」
しっかりと、そう、強く、言い切った。
何偽りのない本心だった。こっ恥ずかしさはあったが、決して、嘘は吐いていないと胸を張って言える程の心からの言葉だった。
それを聴いた祈里は目を見開いて驚いた表情を見せており、純也と瑠奈はニヤニヤとしていた。
フェードインする様に徐々に顔を赤らめた祈里は、一度、振り切る様に視線を斜め下へと下げて流から目を逸らした。真っ白な肌がりんごの様に赤くなるその様子は見ていてとても美しかった。
すぐに、視線を流へと戻した祈里は、どこか照れくさそうに、からかうように煽る二人を完全に視界の外へと追いやって、応える。
「……うん。ありがとう。これからも、ずっと、よろしくね」
盛り上がったのは言うまでもない。数々の命を伴う戦場に出て、年齢からは想像も出来ない程くたびれた様子になった皆だったが、それでも、何も考えていない学生の様にただ、盛り上がり、笑った。
久方ぶりの酒を呑み、祈里の手料理を食べ、ただ、新たなスタートに馬鹿騒ぎをした。
その翌日、隣の空いていた土地に買い手がついた事を知った。そしてその一週間後、そこに春風衣奈と見知らぬ男が住む事になる事を知った。
零落一族との連絡を任務先で取れる様になり、いろいろと体制の代わっていた零落一族をNPCの支部へと引き入れる事が出来た。垣根を筆頭に、各地に点在していた強力な力を持つ超能力者を幹部格へと昇格させ、彼等を筆頭にした各地の支部の力の強化に成功した。その途中で、業火がジェネシスという会社を設立した。未来を知る流は当然阻止するために動いていたが、そこに関しては業火が先を行く形に収まり、結果としてジェネシス創設を許してしまった。
流は、焦らなかった。
祈里が戻ってから数ヶ月もしない内に、祈里が身ごもった事を知り、未来をその手で作り変える決心を固め、命を捨ててでも世界を良き方向へと導く覚悟をしたからだ。
だが、死ぬつもりも当然なかった。流の父親である流は死に、母親である奏も死んだ。だからこそ、その命に変えても、とは決して考えなかった。
恭介が生まれてからも、流は止まらない。
ジェネシスの肥大化は止まらなかったが、NPCの肥大化はそれを上回っていた。メイリアを筆頭とする海外勢の力は計り知れず、超能力の本場は日本かアメリカと言われるまでにNPCの力は増強した。が、同時に海外にもジェネシスの様な超能力を悪用する組織が現れ、メイリア達は暫く手を離す事ができなくなってしまった。
『業火との再戦も果たした』
だが、再度引き分け。今度は完全な引き分けで、互いに撤退せざるを得ない状況に追いやられたのだ。
未来が、自身の知っている状態に近づいて言っている事は、流も気付き始めていた。だが、機微な矛盾は未だに多く残っており、機微とは言えない程の存在感を放っている。それが、未来は変える事が出来る証明であると流達は信じていた。
恭介が生まれたのとほぼ同時期、春風家でも桃という名の娘が生まれた事を知った。離婚や再婚の話しを知ったのはその後だった。
NPCは巨大化した。完全な独立組織であり、ジェネシスの様な表向きは通常の会社を装っていて、と隠れ蓑を用意しているのとは全く別の存在で、今や、日本の超能力者は彼等に見張られているか、ジェネシスに隠れているか、と言われる程にまで上り詰めた。
そして、時間は加速する。
36
「会うのは三度目だな」
「何を言っている……?」
流の言葉に、セツナは眉を顰めた。幹部格を引き連れ、NPCへと襲撃したは良いが、予想外の展開に追いやられているのはジェネシス幹部格連中だった。
(聴いていた話しと違うではないか……。いくら何でも、郁坂流が、バケモノ過ぎる)
セツナも、ミコも、ミメイも、キリサキも、ウェルも、レコンも、ベルトラも、エミルも、アイトも、イニスも、キーナも、マイトも、イザムも、先に殺されたエンゴ以外は――業火に言われた通り、全力でいくために――全員集結させて、確実にNPCを壊滅させるために動いていた。
だが、その実力差は圧倒的であった。




