16.戦士達兵器達―9
直後、流が跳んだ。うねる様な動きで真っ直ぐ一直線に業火へと突っ込んだ。
「ッ!?」
業火はその予備動作の全くなかった流の動きに反応を遅らせた。瞬間移動で躱そうとするが、間に合わない。
流の身体が業火へと突っ込んだ。同時、流の身体から恐ろしいばかりの電撃がはじけ飛ぶ。二人の肉体が直線上にある実験機材を倒し、どかし、そして一気に壁際まで業火は追い詰められ、流は彼を壁へと叩きつける。
稲妻がほとばしる。部屋中の機材へとその矛先は誘導され、部屋の中が次々と焦げ始め、そして燃え始める。
「落ちろ! 業火ッ!!」
「クソがッ!! おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
部屋が燃え上がり始める。蛍光灯やらガラスやらが次々とひび割れ、砕け散る。熱風が襲いかかるが、そんな事は気にならない程の汗がこの一瞬で吹き出していた。
瞬間移動。業火が流の背後へと出たのは直後。稲妻は相殺させていた。
流が素早く振り返ったと同時、稲妻が消えた。が、それを大袈裟に見せるかの如く、流の身体はその場から弾ける様に消え去った。
が、当然、それは業火の超能力によるモノではない。
「!!」
流が消えたとほぼ同時だった。業火の目の前に突如として業火の身の丈よりも直径が僅かに大きい黒い空間にあく穴の様な何かが出現した。
「まっず……!!」
自由格納だ。見間違うはずもない。自由格納のそれが一気に業火目掛けて迫ってくる、が、業火は咄嗟に横へと飛び出してそれを回避した。が、それが故、目の前には流の拳がある。
一撃。強烈な一撃を業火の鼻面は受けてしまう。
「ぶっ、」
超能力による相殺もした。だが、それでも有り余る程の流の力。鼻梁が砕け、曲がる。鼻の穴を塞ぐのかと思う程の大量の鮮血が鼻腔から吹き出す。思わず後方へとよろめき、視界が歪んだと気付けたのは次に視界が明瞭になり、流の次の拳が迫ってきていると気付いてからだった。
二撃。当然、流は待ちやしない。
左フックが業火の右頬を僅かに下から穿った。
視界に映る光景が一瞬にして天井へと向いた。燃え上がり、材料も剥がれ、中身が剥き出しになったその光景。身体も、僅かに浮いた。
が、立て直す。
この場、この瞬間、この世界、今、互いに決して負ける事の出来ない戦いが繰り広げられている。
互いとも、絶対に譲らない。譲った方が全てを失い、勝者のみが先を生きる希望を得る事が出来るのだ。
障壁、障壁、障壁。
流の三撃目。拳は咄嗟に二人の間に展開された障壁三枚の内、二枚目までを砕き、三枚目に衝突した所で、弾かれた。
「くっそッ!!」
半歩下がり、痛む右手を引いて体制を保つ流。そこを狙って一歩踏み出す業火。
業火の拳を、顔を逸らして裂けた流だった。業火の空振った拳は壁に衝突し、壁を激しく穿つ。が、それで留まる程、この戦いは遅くない。
膝蹴りが流の鳩尾を折る。
「がっ、は、」
鮮血が吹き出す。その衝撃で口内のどこかが切れて口腔に鉄の風味が広がり、味が染み付く。
くの字に折れ曲がった流の身体に容赦無い業火の二撃目は叩き込まれる。下を向いていた顔面を打ち上げんとばかりのアッパーカットを叩きこまれた流の状態は一気に持ち上がり、足も地面から浮いた。
そこに、業火の、その形を刃へと変えた右手が突き刺さる。
が、落ちる。
流の身体は、重力や体重だけではどうしようもないであろう早さで一気に地面に伏せる程に落ち、業火のその攻撃を頭上で空を斬らせた。燃え上がる炎がその衝撃でゆらめき、部屋の中の影を歪ませる。
咄嗟に足が出る業火だったが、斜め上へと突き出す様に立ち上がる流はそれを弾き、そのまま、業火へと突っ込んだ。かと思うと、勢いと流れを利用した攻撃で流は足に強い力を込め、床を踏みしめ、業火を突き出す様に彼の腹部を殴り飛ばした。
すると、勢いが全て乗った状態で業火は後方へと大きく吹き飛び、その直線上にあったありとあらゆるモノ、挙句の果てには燃え上がる炎まで吹き飛ばして、業火は壁へと突っ込んだ。
壁は脆くなんてない。耐火性もあり、まだ、火もつき始めたばかりだ。だが、業火の体重、それに吹き飛ばされたその勢いが勝り、壁は崩れ置いた。
やっと発動したスプリンクラーに炎が揺られる中。砂塵もそれに落とされて景色は思った以上に明瞭に流の目に映っていた。
「はぁ、はぁ……。クソヤロウ。まだ立つんだろ。速くしろ……」
まだまだ時間は経過していない。だが、攻撃が詰まり過ぎていた。既に血まみれな互い。肩で息をする流がスプリンクラーの雨に打たれながれそう呟くと、壁が壊れ、その下に積み上がっていた瓦礫が吹き飛んだ。
「ッ、」
流はそれを身を僅かに傾けて避け、視線を戻すと、流と似たような状態でそこに立つ、業火の姿を確認する事が出来た。
「当たり前、だ……」
業火も呼吸が上がっているのは分かる。
互いに、互いが同じ様な状態だ、と理解している。
だからこそ分かる。まだまだ、この戦いは始まったばかりなのだ、と。
再度、跳ぶ。今度は同時だった。
出発、疾駆、衝突まで二人の姿は常人には見えない程だった。気付けば部屋の中央で衝突し、互いに僅かに後退しながらも踏みとどまった。そんな状態だった。
そこからは、再度激しい攻撃の応酬だった。攻撃で攻撃を防ぎ、超能力と対応する事の出来る超能力で相殺し、防御とする。そんな一歩間違えれば一瞬で吹き飛ばされてしまいそうな程の光景が連続していた。
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
流に強烈な一撃を食らわされ、既に左目が塞がりかけていた業火は懇親の力を発揮した。追い詰められた人間程、実力を発揮出来るというのはまさに火事場の馬鹿力の事であり、そして今、それが証明される。
業火の蹴りは、サイコキネシスにより咄嗟に業火の動きを制御しようとした流のそれをも振り切って、流の胸部に強く突き刺さった。
「グッ!!」
ワイヤーアクションかと思うほど綺麗に、流の身体は大きく後方へと吹き飛ばされた。が、流とて、まだまだ負ける気はない。
瞬間移動をし、業火の背後へと出た。
が、しかし、慣性を殺せなかった。
「!?」
瞬間移動で、慣性は消えるはずだ。だが、消えない。
それはつまり、業火が今の今まで隠していた超能力をここでやっと使ったという事である。
業火が振り返ると同時、流は業火が先ほど崩した壁の穴のその向こうへと消えていた。
激しい音は轟き、響いて聴こえていた。
見えている。見る超能力は既に持っていた。業火はスプリンクラーが止んだ今も、砂塵巻き上がる事はないが、それでも通常では目を凝らしても見えない程の暗闇の中に消えた流のその姿を見る事が出来ている。
立ち上がる姿が見えた。
「……チッ、」
その光景を見て、ただ舌打ちをした。
ここまで来て、既に互いとも理解をしている。
もうすぐ、戦いは終わるだろう、と。
「……おい、クソヤロウ」
暗闇の中から、声が響く。
「…………、」
業火は応えない。だが、聴いている。
流は歩き出した。暗闇というどん底から這い上がる様に、光を求めて手を伸ばす様に。
「お前の望みは大体わかってる。俺が複合超能力者だからだ。お前の気持ちなんて手に取る様に分かる。お前の考えている事なんて手に取る様に分かる。だからこそ、言ってやる」
流の姿が暗闇から滲む様にして現れ、それは一気に鮮明になる。
「それじゃお前のやってる事は燐と変わらねぇじゃねぇか! このクソッタレがッ!!」




