16.戦士達兵器達―7
そこに、雑魚が一気に接近するが、立ち上がる流に攻撃を合わせる事が出来ず、攻撃を空振らせ、立ち上がった直後の流の拳に吹き飛ばされた。飛ばされた敵は背後から迫ってきていた敵をも巻き込んで倒れていく。
が、振り返り直すと目の前にはカムイ。
「くッ!!」
カムイの右アッパーが、流の腹部から突き上げる様に叩きこまれた。
「がっ、」
激痛、と共に一瞬の強烈な吐き気が流を襲った。その次の瞬間には吐血。これでもか、と思うほどの量が喉を通って外へと漏れだす。今の一撃だけで内臓が全て潰されたのではないかと思う様な一撃だった。
が、それで済むはずもない。
身体をくの字に折れ曲がらせた流の頬に、右フックが叩き込まれる。顔がぶれ、首から頭が取れたのかと思うほどに視界がぶれる。が、続いて逆にもブレる。たった三撃。だが、意識は吹き飛びそうだった。
が、堪える。堪えて脱出、反撃の期を伺う。だが、堪えるが故に苦痛に悶える事になる。
最早言葉にしている余裕はない。喉すら潰されたのかと思う程でもあった。血が溢れ、喉なんて鳴りはしないのが現状。
全身がひび割れてしまったかのようだった。全身のありとあらゆる箇所が裂傷を負って鮮血を吹き出しているのかと思うほどの激痛と出血が流を支配する。
「ッ……、が、」
恐ろしい程の威力を誇る拳に、流の超能力は相殺するためにあれやこれやと発動こそするが、それをも相手は上回ってくる。相殺なんて、出来る威力ではない。対等ではない。超能力として、全く種類が違う。
脇腹に叩きこまれた蹴りが流を持ち上げ、壁に叩き付け、彼を床へと落とす。
ここまで来た時点で、カムイ以外の敵連中は近づこうとしなかった。誰もがカムイの攻撃を一撃も受けたくない、と遠巻きにその光景を見るだけに収まっていた。
膝をつける。なんとか倒れる事だけは避ける。
そんな流のか細く、だがうるさい呼吸音と、あちこちから瓦礫等が落ちる音、そして、カムイの声だけが響く。
カムイはどこか遠い目をして、――業火達を――見た後、残っていた連中に通達する。
「お前達は業火を追え。こっちはもう問題ない――が、向こうは少しばかり手こずっているようだからな」
(手こずってる……?)
顔も上げられない状態で、流はカムイの言ったその言葉を聴いて、見る超能力を発動させ、そして奏達を見た。
すると、思いの外、奏達は善戦しているようだった。負ける、と思っていたわけではないが、業火達もきっと何かを準備した上で、出ているだろうと思っていた。だが、良い。
見る力も弱まってきているが、『応援』もどうやら奏達の下へとはたどり着いているようである。
「さて、」
連中が移動を始めた足音とその衝撃が床を伝うのを感じさせながら、流は立ち上がる。壁に手を付け、体重を預け、震える足、力の入らない身体を奮い立たせて立ち上がる。その動きと一緒に、血が溢れだす様に落ちる。
「…………、」
流は理解していた。ぼやけた視界の先に移るカムイという男。流は名前も知らないその男は、本当の意味で人間ではない、と。
超能力者の弱点は人間である事、と良く言われるが、それを克服しているのが、超人類である。
つまり、超能力者ですら一つしか明確なモノはなかった弱点が、全くないのである。超人類は人類の二段階上の存在だ。見た目こそ人間であれど、その本質は全く違う存在であり、言葉そのまま、人間ではない。
流が圧倒的な強さで今まで言われてきたバケモノという言葉とは意味が根本から全く違う。言葉そのままの意味で、バケモノなのである。
「終わりだ。郁坂流。業火の、燐の、そして朱乃の願いのため、お前は邪魔だ。恨みは特に思い当たらないが、死んでもらおう」
「ッ、」
流は何かを言おうとした。だが、当然、この状態ですぐに言葉を吐き出す事などできやしない。血が僅かに口から吹き出し、そして、その直後、ふらふらの流の胸部に超人類全力の一撃が叩き込まれた。
流の身体はパチンコ球の様に廊下の壁、天井、床に衝突し、弾かれながら廊下の最深部にまで、反対側にまで一気に吹き飛ばされ、挙句、突き破り、瓦礫をも吹き飛ばして外へと出て、金網のフェンスにやっと受け止められ、流は落ちた。
轟音が轟いたが、校舎内で反射し、外にはあまり漏れだしてはいなかった。ただ、余韻として、校舎内のあちこちの瓦礫が落ちる音と、フェンスが軋む音だけが暫く響いていた。
超人類であるカムイはただ動かずに、視線だけを向けて砂塵舞い上がるその先に見える流を見つめた。
動かない。流血も激しい。全身の骨が砕け散っていると言える程である。
「……悪いな、郁坂流」
そう呟いて、カムイは踵を返した。
問題は、これからまだ、山積みだ。
奏達は業火達に善戦していたが、応援が送られた。更に、今からカムイがそちらへと向かう。あれだけ強く、更に複合超能力者としての力を覚醒させら流を一方的に叩き殺したカムイが、向かうのだ。
奏は、死ぬ事はない。だが、勝敗は見えていた。
(情報通りの複合超能力ね……ッ!!)
業火と対峙していたのは、奏だった。奏も一直線に業火に衝突をしたし、業火も真っ直ぐ奏を狙って戦闘は開始された。
互いに、複合超能力者だ。だが、業火の方が、超能力を多く保有できている。それが、業火とドクトル、それにカムイが開発した後天的超能力もとい、人工超能力である。
まだはっきりとした情報は取れていないが、個々の『許容量』や『適合力』によって投入する事の出来る能力の種類、数に違いがあり、業火はそのどちらもが高いという結果が今は出ている。大勢、そのどちらもが一種類にも見たず、人工超能力を一つも投薬する事が出来なくて、死んでいった。だが、近い未来、その不可能も可能になると、ドクトル達は睨んでいる。
その研究を進めるためにも、流達NPCは障害でしかない。故に、殺す。
業火の超脚力は流によって失われた。が、それを補わんとばかりの全身強化が施されている。これも超能力であるが、ありとあらゆる保有する超能力と、併用して常時発動してある。
彼が地を蹴れば地は割れ、彼が突っ込んだ場所は穿たれる。
そんな強力な力。それを相殺する事は今の奏にも可能ではあるが、いかんせん上手くいかない。
業火の拳をその矮躯で弾く様に振りきった奏。身体が大きい分、業火は攻撃から次の攻撃までの動きが物理的な面でどれだけ速度を出そうが、到達を遅らせてしまう。
身体が小さい分、懐に潜り込めば奏は圧倒的に有利だ。が、それは業火も分かっている。風力、重力、空力、火力に電力。ありとあらゆる保有する力を駆使して懐に潜ってきた奏を下がらせる。
(自分で言うのも何だけど、複合超能力って本当に面倒ね……!!)
奏も様々な超能力を駆使してそれに対応する。だが、距離はある程度まで縮まれば、再度離される。
そんなやりとりを何度も繰り返している内に、敵も味方も数を減らし始める。だが、敵は、それでも数を増やす。
「応援……、応援が来た。敵のッ!!」
市華が怒声を上げた。その声に反応して皆が、気付いた。そして、絶望した。
今の今まで、なんとか対等に戦ってきたのだ。戦略の減り方も均等と同等だった。だが、たった今、覆されてしまった。
「こっちに応援って……」
業火の蹴りを相殺し弾き、バックステップで距離を取り、奏もその咆哮を見て、呟いた。
当然、考えた。今、流と数名が相川高校にいて、襲撃を受けている事は分かっていた。更に、その数名が既にやられたであろう事も推測出来ていた。
だからこそ、怖かった。流の方にも応援を寄越されているのか、それとも、既に流は、と。
目つきが変わる。覚悟が変わる。そして、この局面に来て、奏が変わる。
「流を殺せば、日本を沈めてやる」




