16.戦士達兵器達―6
流がまず警戒するのは当然、あの男、カムイである。これだけの人間が狭い廊下に跋扈しているというのに、カムイは味方を巻き込む事なく、誰よりも早く流へと到達している。
「ッ!!」
速い。そして、強い。
超振動する刃を拳で真正面から叩き割る程の力だ。構えたナイフ一本でどうにか出来るなんて当然思っていない。左手には、拳銃を戻していた。
放つ、発砲する。連続してトリガーは引かれる。マガジンに残っていた全ての弾丸が、放たれた。総じて一○発。だが、その全ては、カムイに向かっても何故か、別の誰かへと当たったしまう。
間違いなく、カムイへと銃弾は向かっていたが、カムイはその全ての弾道を読み、更に、それを見てから避けるだけの身体能力を持っている。
(早すぎんだろ……ッ!!)
気付けば、目の前にカムイの姿がある。左手首を叩かれ、拳銃が落ち、その痛みで現実を認識させられる。咄嗟に右手を振るい、致命傷等狙わず、ただ攻撃を当てようと流が小さく腕を振るってカムイの腹に鋒を触れさせようとするが、それすら、許されない。ナイフはカムイの腹部に触れる前に、弾かれた。
「ッ!! くっそ!」
即座に床を蹴って後退し、同時、稲妻を飛ばす。光の速度で突き刺さる攻撃すら、カムイには伝導しない。稲妻はカムイを避けて追うように流に迫っていた敵の一人を殺したに終わる。カムイは後退すらしない。咄嗟の判断で流は自身のすぐ目の前に自由格納による異次元への漆黒の扉を出現させるが、カムイはそれを、引き裂いて迫る。
「そんな馬鹿げて……!!」
今まで有り得ない、を見せる側だった流は今、目の前で有り得ないを展開されていた。
カムイの両手が開かれると同時、自由格納、搬出のそれは空気中に散った。
超能力が通用しない。一切だ。まるで、その人体には超能力が受付ない様に設定でもされているかと思う程の、無敵っぷりだ。刀による物理的攻撃も効かない。超能力による攻撃も一切通用しない。
(一体、どうなってやがるんだ……!!)
流は今までで一番の、危機感を抱きながら、
「遅すぎるぞ。郁坂流。期待はずれだ」
その言葉と共に、拳を叩きこまれ、再度すぐ後ろの壁へと肉体を叩き付けられた。が、それだけでは済まない。壁が映画のワンシーンの様に粉砕され、それによって散った破片が流の全身を激しく殴打しながら、流の身体を校舎の外へと放り出した。
「!!」
急に足下がなくなった感覚に、流は冷静な対処を一瞬送らせてしまった。だが、一瞬だ。それでも、その一瞬でカムイは流を追っていた。
一般人には極力見せられるか、と言わんばかりにカムイは空中で落下し始めた直前の流へと到達。更に、彼を掴み、再度校舎へと収めると言わんばかりに投げ込んだのだ。
流の身体は校舎一階部分の横のから壁、窓枠ごと粉砕して校舎内へと滑りこむ。
激しい音と瓦礫が散るその衝撃が走っていた。
「ッがァアアア!!」
流が一階廊下へと滑り込み、すぐに立ち上がったが、脇腹にガラス片が刺さり、血が滲み出しているその現状に流は対応を遅らせた。校舎の外で、カムイが綺麗に着地したのは分かった。だが、その前に既に、敵が迫ってきている。
一人は、見覚えがあった。
(後から増援で来た奴だ……)
激痛の走る脇腹を無視して、流は即時対応をする。
気付けば、ナイフすら手から離れている。拳銃も刀の柄も上だ。残るはサブマシンガンが二丁だが、そのどちらもが衝撃でダメになってしまっていた。
既に武器は失われた。
強力な複合超能力者になった今でも、流が武器を使うのは、単純にそちらのほうが慣れていた、からである。未だ流は超能力の切り替えや使用タイミングを掴む事が苦手で、武器との攻撃の併用で苦手をなんとかごまかしていただけだ。
「くっそ……」
故に、無駄だと分かっていてもなお、自由搬出から、一番固いであろう剣を取り出した。右手にそれを構え、そして、目の前に迫りつつある男の姿を見る。
間違いなく、幹部格だ。
男は仲間すらをも蹴り飛ばし、弾き飛ばしながら一直線に流へと向かってきていた。が、近距離戦闘の超能力者ではない。男は近づきつつも、その手から攻撃を放っていた。
それは、全てを受け付けない超高熱の何か。レーザーの様に暫く軌跡を描く残り型をする攻撃だったが、それの本質が何なのか、は流にも分からなかった。だが、それには触れる事すらがマズイ、と本能が震えて警告を発していた。
壁が、床が、天井が、そして敵が、レーザーの様なそれに触れた全ては次々と触れた部分を切断され、落ちていく。敵の同士討ちで勝手に敵の数が減るのは問題ないが、攻撃だってそれだけが飛んでいるわけではない。
攻撃を避ける際、振り返って身を低くした流は、カムイの胸元をレーザーが横一直線に通りすぎたその光景を見た。胸元を確かに這ったレーザーだったが、カムイの纏う服に横一直線の切れ目を入れただけで、結局は何の効果も発揮していなかった。これだけ、校舎も人間もメッタ斬りにして暴れまわっているその攻撃さえ、カムイはもろともしない。
カムイは、歩きながらだが確かに迫ってきていた。レーザーのせいなのか、二階で迫ってきた様な素早さはない。だからこそ、流はまず先に振り返り、れーざーを放ち、振り回しながら接近してきている男を狙う。
レーザーの男が無差別に暴れまわっているせいで、他の敵はカムイ以外、接近してこようとはしなくなっていた。遠距離から何かを打ち出している連中も数名見えたが、それも乱雑に振り回されるレーザーによって打ち消されてしまっていた。
それを、なんとか流は避ける。避ける度、ガラス片の突き刺さった脇腹から血が吹き出し、激痛が全身に広がるが、それで怯むわけにもいかない。
荒ぶるレーザーを避け、そしてタイミングを測り、流は手にしていた剣を投げた。まるで、小型のダガーを投げんとばかりに投げられたその剣は、一部分をレーザーで焼かれ、確かにその部分は落としたが、確かに男の首を断ち切って、その向こうの壁へと突き刺さっていた。
レーザーが止んだ。と、同時、カムイ含めた敵のその全てが加速した。
だが、流だってそれは流石に予想が出来ている。
上を見上げた。どれだけの敵がどの位置にいるのか、と判断し、そして、流は今度は意図的に二階へと向かって瞬間移動を発動した。
やはり、二階へと着地は成功する。業火は既に奏達の下へと向かったのだ。阻害する理由はないだろう。
だが、恐ろしい程の音と共に、流が着地した場所の足下が、窪み、割れ、流は一瞬の内にその消失したと言っても過言ではない程の崩れ方をした床から大量の木片と瓦礫と共に落下し、一階へと背中から落ちた。
「ぐあ、」
そして、目の前には、カムイの姿。と、共に持ち上げられた足がある。
咄嗟に横へと転がって振り落ちてきた足を避ける。カムイの振り落とされた足下は、床を砕き、足を陥没させた床へと埋める程の力があった。それは、いくら強化した所で、頭蓋を一撃で砕く程の力がある、と見てすぐに分かった。
咄嗟に起き上がる。が、脇腹の痛みと連続する出血によってそれが僅かに遅れてしまった。
そこに、カムイの容赦無い蹴りが叩き込まれる。
真っ直ぐ、突き飛ばす様なその蹴りは流の胸元に叩きこまれ、起き上がったばかりの流を斜めに飛ばし、すぐ側の壁に衝突させ、その反動で床に彼を転がした。
「ッ、」
即座に立ち上がる。今度は大丈夫だ。だが、血が滴る。
余りに、強すぎる。流が超能力を選択するのを遅らせているとは言っても、それを無視する程にカムイは速い。




