16.戦士達兵器達―3
超能力が遺伝する、とそのタイミングで気付いた。
そして、未来図を想像した。自分よりも早い段階で超能力を理解させ、発現させ、鍛え、最強の超能力者にしようと目論んだ。だが、既に手に入れた超能力から業火の超能力を知った時、能力それまでは、遺伝されないのか、と愕然とした。
超脚力。その程度、燐は所持しているそれらで容易く同条件の状態を作り出す事が出来てしまう。同じ捕食を持っている、と思って期待していただけ、落下速度も早かった。
挙句、燐のその力をまだ狙う者がいた。
アルケミアの滅んだそこで、既に襲い掛かってくる連中なんていないと思っていた。だが、一般人なんて関係なしに、捨て身で襲い来る強敵がいた。
自宅を襲撃された燐は結果として、自宅を失い、朱乃を失い、敵は殲滅したが、失う者が多すぎる結果で終わってしまった。
それからだった。敵を殲滅した時点で、それでも冷静だった燐は、流石に超能力制御機関から身を隠し切る事が難しくなった、と判断した。アルケミアに続いて、少しばかり特種な超能力団体を殲滅してしまった。流石の超能力制御機関も原因調査に入るだろう。
だからこそ、燐は業火を連れて、身を隠すという意味で超能力制御機関へと逃げ込んだ。業火が超能力者だ、という情報と共にだ。そして自身は超能力制御機関の裏方として腰を落ち着かせた。
だが当然、身を隠すだけが理由ではない。そもそも、身を隠すだけであれば超能力制御機関に入る理由はない。超能力制御機関は海外との繋がりがNPCに比べると圧倒的に弱かった。日本から出るだけで十分だ。グリーンカードを作り出す事も燐であれば容易かっただろう。
実際は、違う。
――もっと、綺麗な景色が見たかった。
これは、朱乃最期の言葉である。その意味を、理解しているのは燐だけだ。
燐は覚えている。
共になってから、話した事がある。超能力を初めて知った時にいった綺麗だ、という意味を。そして、望みを。
「俺は、超能力で出来上がる世界を作りたい」
燐はカムイに、カムイだけにそう語った。
「……そうか」
朱乃とは幼馴染だった。三人とも深い仲だった。朱乃の死は共に悲しみ、共に泣いた。
カムイは既に燐が超能力者である事を知っていた。自身が超人類なのだ。当たり前だ。
そして、カムイも超人類と言う単語は除いたが、自身の事を燐へと語り、そして当然の如く協力関係を作り上げた。燐は超能力制御機関という業界最大手となった組織の内側に潜入し、カムイは外、裏で動く。
この時点で相当な戦力でもあった。だが、油断をする気がなかった。
燐が超能力制御機関から秘匿に集めた情報を頼りに、超能力犯罪者を集め始めた。より危険な情報の多くは碌が隠し通していたが、それも燐は引き出していた。碌に超能力がバレれば、すぐに手を打ってくる事は分かっていた。だからこそ、気付かれずに済んでいた。そして、目標を達成させようと神の存在を知った時点で、神の力を捕食すると決めた。
だが、それでも、燐はカムイだけは神へと近づかせなかった。燐は知っていた。超人類という名前こそ知らなくとも、超能力者を超えた存在があると。そしてカムイがそれであると。
だが、神の力は余りに強大だった。カムイが敵意を持っていると知られた時点で地球の裏側にいようが殺される可能生があったのだ。
だからこそ、『もしもの時』に備えて最終手段とした。カムイを燐はただ唯一信じていたのだ。
そして結果、燐が目的を達成する前に死んでしまう、という最悪の結果になってしまった。
覚悟はしていた。だが、それでも、幼馴染二人をカムイは失ってしまったのだ。
悲しみに暮れた。最早、目的なんてどうでも良い、そう吐き捨てる程には落ちてしまっていた。
だが、消えなかった。燐の息子である業火と、怜奈と玲奈が、その目的を繋いだ。
燐が朱乃の望みである、皆が超能力を使って作り上げられる世界を見たい、というそれを叶えようとした。それは失敗に終わったが、業火が、玲奈を利用し、怜奈の願いを、怜奈と共に叶えようとしていたのだ。当然、それは目についた。
燐に息子を頼むなんて義理堅い余りに普通な言葉を掛けられた事はなかったが、そう言われなくてもこの行動は間違いではないよな、とカムイは信じて、接触する事にした。
業火のために、出来る限り疑われない程度の下準備として、ドクトルこと、一部界隈では最高の研究者一族とまで呼ばれる行平との協力を得ていた。そして、業火を引き込む形で、業火の参加へとカムイは収まった。
安藤玲奈という女性を、既に失った怜奈へと記憶改変の力で完全に変えてしまったその業火の狂いっぷりを見て、カムイは燐と業火は決して違わない。業火は確かに燐の血を引いているとカムイは実感し、確認し、そして、協力を惜しまないと宣言した。
カムイはこの時もやはり、超人類の団体からは離れていた。昔に比べて更に離れていた。今や連絡すら取り合わなくなっていて、超人類同士での殺し合いに勝利してから更に超人類としては孤立していた。
だからこそ、知らなかった。
(郁坂流は……超人類だろうな)
否。流は違う。超人類の団体連中は流を超人類とは判断しなかった。
当然、当初はマークされた。記憶、所属、所在等ありとあらゆるモノが不明瞭なままポッと出てきてそして、無能力者のまま猛威を振るったかと思えば一年も満たない内に複合超能力者として名前が売れた。
だが、違う、と判断されたのだ。
それ故に、カムイは間違えた。
この時代が、超人類の最期になる事を知り得なかった。
そもそも、流には超人類すら倒す事が容易いと評価されていた神がついている。その加護だけで、圧倒的な猛威である。
「……それに、佐倉を倒したあの男、尋常じゃない」
流はその恐怖を確かに感じ取っていた。
「それは気になるよね。超能力使わなくてもあれだけ強かった佐倉藍斗を簡単に殺したっていうんだから」
「それに超能力をも封じたんでしょ? そういう能力なのかな? だとしたら最悪だね」
純也、瑠奈と続いたその言葉を、流は否定した。
「違うんだ。超能力は確かに発動されてた。接着……だったか。確かに効いてた。その男も確かに動けなくなってた。だけど、違うんだ。まるで、超能力なんて通用しないとばかりに急に動き出したんだ。無視する、って感じが近い様に感じた」
超人類を知らない。故に、そこに気付け無い。何か超能力でそうなったのだろう、としか想像が出来ない。
「……敵は、業火だけじゃないって思ってた方が良いみたいね」
瑠奈が真剣な表情で呟く。
「当たり前だ。俺だけがマークされてるとは思わない。一度流にカムイも見られているからな。ドクトルの研究だって恐らく知られている。『人工超能力』に関して知られているかは別だが、恐らく、来る、と分かっているだろう」
夜中。闇に紛れて大軍勢で移動をしていた業火達一軍隊は共有した無線で業火の話しを全員が耳にしていた。
業火も最早、超能力制御機関にいた時の彼とは全く違う存在となっていた。狂ったのではない。最初から狂っていたのだ。
力を手に入れた。守るべき者を取り戻した。
だが、そんな業火でも懸念している事がある。
(……流の内に隠された超能力が、問題だな)
業火は流が奏を取り返しに来た際の接触で、理由、原因、真実は不明だが、『恐らく流に』、超脚力を『消失』させられてしまった。ドクトルの開発した人工超能力のβ版に上手く適合した業火はその後天的超能力によって複合超能力者にはなっていたが、流の力と思われるそれには脅威を感じていた。
「どうした。業火」




