16.戦士達兵器達
16.戦士達兵器達
六月半ば。ここ最近になって、流の耳には仲間達から、ある同様の情報が次々と送られてきていた。
それが、違和感だらけの、複合超能力者との遭遇だ。
複合超能力者との遭遇は、ある程度なら考えられる。だが、余りに数が多い。挙句、その複合超能力者達は、戦いの途中で勝手に、まるで、最初から死んでいたのかと思うほど自然に死ぬと言う。何もせず、戦いの最中発作でも起きたのかと思う程に、余りにも急に死ぬという。
「……一体どういう事なんだろうね、これ」
「なんだろうねぇ」
純也も瑠奈も、この報告には首を傾げていた。
「本当に、謎だね。本部メンバーはまだ接触してないみたいだから分からないけど」
奏も、知らない。
だが、
「…………、」
流には、心当たりがある。
思い浮かべたのは、当然業火の顔と、最後に彼と戦ったあの、奏を救出する際の出来事を思い出した。超脚力だけでなく、間違いなくそれ以外の超能力を使ってきた業火。そして、その後にみた、奏を実験台にしようとしていたあの男の姿。
「多分だが……っていうか間違いなく良くない事が始まってるな」
流が言うと、全員が頷いた。
「なんだろうね。すっごい、嫌な予感がする」
奏の経験が疼いている。悲鳴を上げようともがいている。
流も純也も瑠奈も、全く同じ違和感を抱いていた。
戦いが始まる前のあの嫌な雰囲気を全身で感じ取っていた。
(業火め。ついに動きだしたな……)
本部メンバーには手を出していないようだが、間違いなくNPCを狙ってきている。
業火達がNPCをを狙ってきている。と、いう事は、ついに、邪魔だから殺す、という準備が業火達に出来た、という事である。
(新たな超能力を更に得たか。業火め……だが、それはこっちも同じだぞ)
六月に入った時点で、流達の尽力により、警察関係との提携も確立し、更に、病院丸々一つを専用にする事も出来た。奏は今病院に通っているところである。超能力関係にも知識がある医者で、他のただの医者よりは詳しく診察や治療をする事が出来るらしい。正直な所、奏の体調不良は原因不明であり、あまり期待するなと医者にも言われていたが、いるだけでもまた違う。
支部もあれからまだ一ヶ月と経っていないが、急速に数を増やしていた。もとより名前だけがない状態で構えていた所も多々あり、すぐに展開できたのも事実だ。
準備は整っている。
「……正直に、話すわ」
流は三人の前で、静かにそう言って、業火について思い当たる事を全て正直に話した。当然、このタイミングになっても、奏については話す事はなかった。
聴いた三人は、各々驚いていた。だが、誰もがありえない、とは言わなかった。
そして、不意に話しだしたのが、純也だった。
「……前に、あの、燐さんの襲撃があった後に、少し、神威の一族について調べた事があったんだけど」
そのあまりに突然な発言に、全員が耳を傾けた。
「歴史については当然わかりはしなかったんだけど、ただ、一つだけ、気になる事があったんだ。それが、バツイチだったって事」
「バツイチ……それ、初耳だ」
奏が驚いた様に言う。なんだかんだ何年も同じ小さな村で育った身だ。奏が知っているのは燐派閥の襲撃によって死亡したあの女性のみだ。他になんて知らないし、その話しは本当に初めて聴いたのだ。
「へぇ。なんか意外。でも、それがどうしたっていうの?」
瑠奈が首を傾げる。流もここまでは瑠奈と同じ感想を抱いていた。
それには、純也も頷く。
「うん。ただの個人的な事だよね。で、それと関係してるとは断言なんて出来ないけど……怜奈ちゃんさ、最後にあった時、様子がおかしかったんだよね。誰か、知ってる?」
三人に純也は問いかける。瑠奈も流も首を横に振った。だが、奏だけがすぐには反応を示さなかった。眉を顰め、不満気な表情を見せている。まるで、何か思い当たる節があると言わんばかりにだ。
当然、知っていればこのタイミングで言わない理由はない。
「どう? 奏ちゃん」
純也に促され、奏は話しだす。
「少し、違うかもしれないけど。私、希砂さんが、怜奈ちゃんに超能力を使った瞬間を見たんだ」
「希砂さんが……?」
この言葉だけで、流は特に、その重要性に気付く事が出来る。
田口との戦いの最中で生死不明のままになってしまった希砂悠里。彼女の超能力は強力な記憶改変である。記憶を帰る力だ。それを何故、怜奈に使用する理由があるというのだろうか、と流達は考える。
「なんか、業火君もいて、正直、変な空気が漂ってたから、隠れてずっと見てたの。遠くから、だけどね。全部終わった後、希砂さんに聴いたけど、応えてくれなかった」
「そんな事があったんだ」
これに関しては純也も知らなかったようで、頷いていた。
頷きつつ、考えを頭の中で整理して、そして、言う。
「うん。これはあくまで予想なんだけど、今の奏ちゃんの話しも合わせて、推測してみたんだけど……やっぱり、業火君は、玲奈ちゃんを呼び戻したんじゃないかな」
「は?」
流石の流も、純也のその言葉にはそんな間抜けな反応をせざるを得なかった。
そう思っていなくとも、自然と反論しそうになるが、その前に純也が口をかぶせた。
「そもそも、業火君が怜奈ちゃんに特別な感情を抱いていなかったのは分かってた事なんだよ。玲奈ちゃんを実の父親に奪われて、あれから業火君もどことなくおかしかった。そして、実の父親の様に裏切った。何かが、狂っちゃってるって感じるんだよね」
「…………、」
その言葉には、頷かざるを得ない。
業火のどこかが、おかしい、とは誰もが思っていた事だ。流だってずっと警戒していた。
「…………、」
まさか、とは思った。
「目的が、あるだろうな」
流の呟く様な一言に、純也が特に頷いた。
「そうだね。きっと、これだけの事をする理由がある。燐さ、燐の時だって、神の力を手に入れるっていうのは分かってたけど、神の力を手に入れてどうするなんて話しは明確になってなかった。これが、さっきの話しで言いたかった事なんだけど、きっと、燐と業火の二人の意思は重なってるって思うんだ。あれだけ嫌っていたから、そうじゃないような気もしてたけど、状況はとっくに変わってる」
「そうだな」
そこで、流が席から立ち上がった。立ち上がってすぐに、
「チェイサー。今の業火達の居場所、できれば拠点を探しだしてくれ。極力早くな」
「任せて。追跡者の力を久々に使う事になりそうだ」
嬉しそうにそう言って、純也はすぐにリビングから出て自室へと引きこもった。
「流、どうするの?」
瑠奈が彼を見上げると、流は自信満々に応える。
「業火に、原因、理由、全部直接問いただしてやるんだよ」
NPCもまた、迎撃の準備が整ってきている。
だが、まだまだ、敵が消えたわけではない。
流を狙う連中の数は未だ計り知れない。何故ならば、彼の首には価値があるからだ。今、NPCが世界中に点在する事で、流の首までの距離が遠くなった。が、故に、彼の首の価値は跳ね上がっている。ただ金になるだけでなく、名誉や力の誇示にも繋がるのだ。
業火達以外にも、流を狙う影がある。
「……そうさな」
それを、ドクトルは独断で狙う。
業火には『超能力軍隊』を率いらせると宣言し、且つ、それとは別に、勝利とより安全な研究のために、ドクトル自身も、独断で様々な助力をしようと目論んでいた。
リアルにいた経験は伊達ではない。大組織にいるからこそ出来る事があり、ドクトルはいた時に手に入れたツテをずっと、面倒だと思いつつも温めていた。




