15.再始動―3
仕事の面接を連想するようで流自身もそれにはあまり良い顔をしなかったが、仕方のない事だ。今、流が率いる新勢力は流含めてたったの四人しかおらず、メンバー全員で話し合いをするのも当然だ。
わかりました。と市華達は礼を言って、家から去っていった。
その後そのまま、四人は市華達について話し合いをする。
「リーダーってのが気になるな。ICについて、調べて何か出たか?」
流が自然と純也に問う。すると、純也は横に首を振った。既に調べていたのだ。
「いや、全然だね。少なくともネット上には一切話しが出てないと思う。ICなんてどこでも使われてる様なワードだしね。探すのも大変だったし、探しても見つからないし」
そうか、と頷いて、流が続ける。
「で、どうだった。お前達的にはどうなのよ」
全員に問う。一人で決める気はさらさらなかった。
「うーん。仲間が増えるのは正直助かるよね。でも、まだ、あの子達がどんな人間のか分からないし、さっ流が言ってたけど、やっぱりリーダーって子にも会ってみる必要があると思う」
奏は会話中から考えていたのだろう。応えを出すのは早かった。
続けて、瑠奈が応える。
「私はとりあえず、入れてみれば良いんじゃないかなって思った。悪い子達じゃなさそうだし、何より、あの感じ、本当に戦闘に慣れてないっていうか、戦闘を知らないって感じに見えた。仮に何か敵対する様な事を考えてたとしても、こっちで対処出来るんじゃないかなって」
「なる程……。チェイサーは?」
「そうだね……。一応、ポン……、瑠奈ちゃんと同じ考えかな。言われてみれば、だけど、確かに、あの子達はまだ、戦いを知らないって思えた。どこまでっていうのか分からないけど、人も殺した事ないんじゃないかな」
そこまでで流が奏に視線を送ると、奏は静かに頷いた。
「じゃ、そういう事で」
と流がまとめた。
市華達を仲間にする事は決定として、早急にリーダーと顔合わせをさせてもらう、と決まった。
その夜、流は自室で、先にベッドに入っている奏と、ベッドに腰掛けて二人で話していた。
奏が体調不良なままで、この家に来てからずっと、夜はこんな感じだった。奏は足から腰まで布団に入れ、ベッドの上に座って微笑んでいる。
流が一度、奏に言っていた、『全てが終わったら』というタイミングでは決してないが、それでも、一緒にいれる事はとても嬉しい事だった。今、自身が動けないせいではあるが、流が任務に出るときは心配で仕方がないが、無事に返ってきた時には心の底から安心出来る。それと同時に、とても幸せな、何か満たされる様な気持ちでいる事が出来る。
そんな生活が、嬉しくて堪らなかった。早く任務に共に出れる様になって、心配する事しか出来ない状況は打破したいと思っているが。
奏の頭を撫でてやりながら、流は奏を眺める。
奏の体調が悪い理由は正確ではないが、良く分かっている。
業火の暴走を止めるだけでない。業火に会い、そして、その仲間ドクトルに会い、奏の治療法を問いただすのも流の役目である。
故に、流は焦っている。奏が知らない奏が不死身な理由を、彼は当然知っている。知っているからこそ、焦る。この、四人で和気藹々と楽しくしている空間は、流にとっても本当に素晴らしい空間で、奏も似たような状態だろう、と想像出来る。
奏は、幸せになれば死ぬ事が出来る様になってしまう。
それは、神が仕掛けた、郁坂奏という存在が幸せに死ぬための優しい罠である。
(奏を早く、安全な暮らしに導きたい)
流は願っている。自身がどうなっても、奏だけは幸せに、そして、命の心配等する必要のない安心な生活をさせたい、と思っている。
流が来るよりも前から、奏はずっと超能力社会に足を踏み入れて、敵と戦ってきたのだ。
普通、奏くらいの年齢の女性であれば、大学にでもかよってわいわいと騒いでいるのが普通だ。そういう普通の暮らしをしても、悪くはないだろう、と流は思っている。
だからこそ、頑張れる。奏がいなければ、頑張れない、と言い切れる程、愛していた。
「…………、」
互いに無言のままでも、何の問題もないまま、時間はゆっくり、過ぎ去る。
「……今日は、動かなくていいよ」
と、朝一で流は純也と瑠奈にそう伝えた。
二人とも驚いた様な顔をしていたがそんな事は無視して、話しを進める。
「一応、昨日の内に入村兄妹には連絡を入れておいて、今日会う事になってるんだ。リーダーってのにも、当然。警戒のため、とりあえず俺だけで行ってくる。自由に休んでていいんだけど、俺から連絡あったら、多分ピンチの時だからさ、その時だけ来てくれれば良いから」
と冗談の様に笑う流を見て、瑠奈と純也は、多分連絡はないんだろうな、と思った。
流だけが、家を空けた。二人は自然と家に残っていた。
何かと任務任務で外出してばかりだ。事務作業の大半は流が勝手に隠して自身で処理してしまうため、二人は家に帰れば単にゆっくりできる普通のサラリーマンの様な時間で日常外出していたため、休みの日は、休みの日らしく、家でゆっくりする事にした。それに、口にはしないし、すれば気にされてしまうため気を遣ってまで言う事は絶対にないが、奏もいる。体調不良で自然と外出を控えている彼女を置いて、二人で出かける気にもならなかった。
そして、流は一人、隣県まで府中へと向かっていた。東京都内外れとはいえ、東京に拠点を構えた事は選択として間違ってないな、と運転しながら、流は思っていた。
都会の道は混んでいる。冬の寒さもあって、車内は送風程度では暖まらず、自然と暖房を入れてしまっていた。
窓が曇り、雰囲気が濁る。
東京はまだ雪も降っていないらしく、茨城にいた時と比べれば対して寒くないと思えるが、実際に体験すれば、外れの田舎の寒さは身に沁みた。
目的地に到着するまでの運転はまだ慣れておらず、見慣れない景色というのもいくらでもあった。
そういうほんの僅かな事でも新鮮な気持ちを抱けるというのがまた特別で、流の一直線にばかり向かってしまう考えを上手く足止めし、切り替えていた。
不安は募っている。奏の事は誰にも話せないし、それ故に急がねばならない事も誰にも言えない。
誰もがいろいろと抱えている、と分かっている。故に尚更言えない。
特別決めている事でも、決まっている事でも、誰かが口外しているわけでもないが、実質、流は今の団体をまとめる頭となっている。例え小規模団体や組織だとしても、頭の担う責任は重い。それに、小規模が故、パワーバランスがとれておらず、言葉そのまま、頭が潰されれば身体が死ぬ状態にある。
今回、ICの申し出は嬉しくて仕方がない程の、増員という申請ではある。
だが、何か、違和感を感じている。その違和感が悪い方向へと動くモノ、と言い切る事は出来ないのだが、あの市華と千佳、入村兄妹の言動や様子から、何かおかしいな、と流は疑っていた。
仲間達にどうするか聴いた時に、戦い慣れていないという言葉に、その違和感の正体を求めたが、まだ、その違和感が消滅はしなかった。
流は思っている。
(きっと、リーダーとやらに会えば、わかるんだろ)
そう、思いながら、目的地へと急いだ。
府中は落ち着いた印象のある街だ、と流は思っている。所々都会な雰囲気も持ち合わせているが、割りと落ち着いていて、住宅街も閑静な住宅地という感じで良い。暖かな印象を与える街だ、と今は、思えた。
思い出せばまだ、最初の頃の話しだ。
この街で、初めて襲われたのだ。




