14.最後の防衛―8
が、超能力制御機関にも移動系超能力者はいる。
牟礼の超無制限操作から外れ、牟礼の背後に着地した女だったが、着地その直後、横っ腹に突っ込んできた何かに圧され、郁坂家玄関前からは弾き飛ばされた。
「よっし!」
村田瑠奈が、入れ替わる様に立っていた。敵の女の横っ腹に自由移動の勢いを加えたドロップキックをくらわし、確かに、攻撃を当てる事に成功した。
が、相手は移動する事で鉄壁を誇る事が出来る相手だ。飛ばされ、地面に足がついたその瞬間には、既に村田へと突っ込んできていた。
「かっ、」
衝突、し、どちらとも、大きく郁坂家外壁へと突っ込む様に飛んでいってしまった。
「瑠奈ちゃん!!」
牟礼が咄嗟にそう叫ぶが、既に遅い。牟礼の前にも敵が迫ってきているし、そして何より、敵の女は、村田を無視して、振り返り、正面から迫ってきていた別の敵を相手した牟礼を、背中から蹴り飛ばした。
「っ、やっぱり!!」
体制を立て直した村田は、今の敵の動きを見て、やはり、流が目的か、と気づく。
田口が、視界の端で動き出していた。
脇に二人のクローン兵を連れながら、真っ直ぐ郁坂邸へと進行していた。
「っ、させないよ」
村田が即座に自由移動を発動。無理な体制からのスタートだが、自由移動にそんな事は関係ない。
が、先に、村田よりも先に、敵の女は動いていた。牟礼の体制を崩させた後、女は完全移動にて、生き残り達を次々と、『怯ませる』。
そして、そうして出来た隙を、田口が駆け抜ける。
「させるか!」
優流が手を伸ばす。
田口の脇にいた複製兵士の一人を屠る。が、反対側にいたもう一人が、次に伸びてきた優流の手から、更に田口を守る。
が、護衛は消えた。
「ッ!!」
が、田口は、振り切った。優流の伸ばした手が田口に届きそうだったが、完全移動の女が、それを遮る様に優流の手を弾いた。
そうして、田口一人が郁坂家へと入って行ってしまった。
「!?」
全員が、気付いた。
既にこの状況だ。負けが決定している事は理解している。最期の最期、何故か敵が流を狙っている事に、気付いていた。そして、敵が何を目的にしているのか定かではないが、彼等が、流に到達してしまえば、最期、だと気付いた。
「僕が行くッ!!」
そんな状態で、真っ先に飛び出したのは、今まで、郁坂邸の前で防衛陣を組んでいた生き残りとは別に、敵の外側から敵を屠り続けていた佐倉だった。流の危機を察して、即座に飛び出してきたのだ。
敵の追従を許さない、という意味では、彼こそが、最強の防御を誇っている。完全移動も、移動し続けていない限り、その手からは逃れる事は出来ない。
完全移動の女が、敵を郁坂邸から遠ざけようと動いていた。が、村田を吹き飛ばし着地をした時点で、佐倉を見つけたが――、その瞬間、女は動けなくなっていた。
次々と田口が流し込んだ強者達が次々と動く。そんな中で、ただ、唯一、邪魔だ、と佐倉に睨まれた幹部格の女は、一人だけ、恐ろしい程の重力でも浴びてるかの如く、女は、仰向けに地面に落ちた。それから、一切動けやしない。
「何……?」
それを間近で見た村田は、思わず首を傾げた。
大勢が、いや、仲間達全員が、佐倉の超能力を知らないからだ。
(何だ今のは……?)
優流でさえ、その光景には違和感を覚える程だった。
優流達を襲っていた田口一派の強者達は、即座に最重要な敵を佐倉と判断し、邪魔されないように佐倉に狙いを定めて動き始める、が、今現状、佐倉の邪魔をする連中は、佐倉にとって、障害でしかなく、それを排除するための躊躇いなんて一切ないのだ。
慈悲がどう、人間がどう、生死がどう、などからまず関係ない。
佐倉は玄関を超える直前で振り返り、そして、発動した。
大勢が、その場で雪で冷たく、血で汚れ、死体と肉片で生臭い地面へと突っ伏したまま、動けなくなった。
その直後、敵なんて一切気にせず、佐倉は玄関の中から侵入した。
「良くやった、佐倉」
いい加減、仲間だな、と大勢が佐倉に対しての評価を改めたその戦場は、人数こそ相変わらず大と数えきれるだけ、であるが、戦力的には、耐えるには問題ない状態にまでなった。
田口が戦場を放棄し、そして、佐倉が止まらなかった事が、この結果を生み出したのだろう。
当然、大勢がまだまだ襲ってきている。優流達が退く事は出来ないが。耐えれば、結果が出ると信じなければならない。
佐倉が、戻ってきたのだ。
この状況で優流よりも先に阻害者を探して外に出て回っていた人間だ。彼が戻ってきたという事は、何かがある、という事だ。流をただ、守るという目的の可能生もあるが、恐らくは。
佐倉はすぐに、足を止めた。玄関入ってすぐ左、流の部屋の扉は壊れており、すぐにその姿は見えた。
「手を止めろ。流に何かした時点で殺すぞ」
佐倉はそう言いながら、流の部屋へと入る。
流の側に立ち、手を下ろそうとしていた田口は、手を止め、佐倉の方を見た。
が、手は流の額へと下ろした。
「何が出来るのか言ってみろ」
そう言って、手を置き、まだ能力は発動せずに、田口は佐倉と向き合った。
流石の佐倉も、眉を顰めた。何かがある、と察した。
この時点で、佐倉は流に形状記憶がかかっている事も知らないし、それが、貴音の死後も継続されている事や、ましてや貴音が死んでいる事さえ知らない。そして、当然、田口が阻害者である事も、知らない。
だからこそ、可能生で全て考慮せざるを得ない。
だからこそ、動けない。頭の中では、田口はまだ、無能力者の一般人だ。だが、感じる違和感は無能力者ではとてもじゃないが出せない圧倒的な威圧感を持っている。何かが絶対ある、と思わせるだけの、度胸がある。
(何を、隠していやがる……?)
勘ぐりつつも、
「そうだね。お前を殺す事は容易くこなせるよ」
「そうかい。だが、逆に言ってやろう。私は、今、流を殺す事が出来る。どうだ、取引しないか」
「取引?」
突然の言葉に、佐倉は眉を顰める。
田口とて、この状況は完全な優位ではないと理解している。
阻害者の力がある。が、それはあくまで、超能力に対しての効果でしかない。現状、佐倉と一対一で向い合ってる状態で、いかなる発動をしてこようが、確かに佐倉の超能力は田口には通用しない。大勢に対して発動するのとはわけが違う。この距離で、一対一だ。それに既に、佐倉に対しての発動はしている。絶対に、接着の効果は受けない。
が、どちらとも、人間であり、田口は自身で良く理解している通り、攻撃、防御に関しては、とことん弱い。それは超能力の話しだけではなく、人間として、肉体的にも、だ。
今、超能力を封じられているとはいえ、佐倉というバケモノ級の戦士が田口に攻撃を仕掛ければ、死は免れない。仲間達は外で優流達と戦っていて足止めを喰らっている。それは佐倉も同じだが、圧倒的にこの面では不利なのだ。
流という人質がいるからこそ、田口は佐倉と対等に語れているのだ。
「なんだい、取引って」
聴くだけは、聴く。
そして、言うだけは、言う。
「私の目的は、郁坂流に『勝った』という実績だ。正直、殺さなくても構わない。正確には、その実績が証拠として残っているだけでも良い。そうすれば、私は郁坂流に何もせずに、後は軍を引くだけで済む。どうだろうか。そのために協力してもらえないだろうか」
これが、互いの妥協点だ。
流は死なない。それどころか、それさえ済んでしまえば、軍を引く。超能力制御機関側にとって、現段階で考えれば最高の条件だ。
田口側から見ても、勝利は確定していて、欲しいモノは手に入る。その後、帰れる。それだけだ。当初の目標から、何も変わっていない。
その提案に対して佐倉は、




