4.雷神―3
「でも、気をつけてくれ。お前を呼ぶくらいだ。警視庁総監からの依頼だ。失敗は許されない」
流が念を押した。
NPCは国そのものとのコネクションが、当然ある。当然だ、NPC以外に、超能力のスペシャリストは存在しない。表だった事は警察連中に任せて、裏で動く超能力団体を相手にするのは、NPCだ。と、なれば当然、仕事を回すためにもオネクションは必然的に存在する。
「分かった。任せてください。諜報に潜入は、幹部連中の中でも得意な方ですからね」
そう言って、書類を持って桜木は部屋を出て行った。流はその背中を視線だけで見送る。桜木が出て行って、流は嘆息した。
久々に幹部格を動かす事になった。それが彼の心配に繋がっていた。単に久々だから、ということもあるだろうが、ここまで表だった事件の裏に付く、という事は更に久々だ、という事実もあるからなのだろうか。とにかく、心配だった。
今回、桜木が担当する事になったその事件は、連日、ニュースやワイドショーで騒がれるような、そんな誰もが知る流行りの事件な訳だ。それにヤクザ関係が関わっている、という情報は表の世界でもいくらでも出ている。それを信じる人間、信じない人間はそれぞれだが。だが、ほとんどの人間は、メイデン、つまり超能力団体が関わっているとは知らないだろう。
今回のそれは、大事過ぎる。早急に解決すべき問題である事は分かっているが、それでも、新たな団体に、大事過ぎる事件が、流の不安を煽っていた。
「……、一応、他の幹部格も呼んどくかなぁ……。雷神は戦力も、諜報能力も高いから、うーん。送るなら戦力かな。だったら、いや、全員戦力としては申し分ないし……」
と、考えた流が出した結論が、
「そうだ。恭介と桃ちゃん、琴ちゃんに手伝わせよう。当然危険なのはなしで。あいつらは――幹部格になれる素質があるしな」
何か思うこともあるようで、流は危険な仕事だと分かっていても、そう決めたのだった。
12
都内、二三区内の某所にある、元総理『林吉郎』の息子、『林吉孝』の所持する超高級、高層マンション。その最上階にある二部屋の内の一つ。宝石店『ラングジェア』の女性オーナー『女雅美結衣』の所持する部屋。そこが事件現場だった。
二部屋しかないフロア、ということでその部屋は恐ろしく広かった。所謂所の高級マンション。一部の金持ちしか借りることはおろか足を踏み入れることも出来ないそんな部屋。部屋番号は一○○二号。
「なるほどね、芸能関係の一部の金持ちにセックス部屋だか何かで解放してたわけだ、この部屋を」
その広い部屋の広いリビングルームに、桜木はいた。中には証拠保存のためか、警察がいた痕跡がいくつか残されていたが、今、この場には桜木以外の人間はいない。当然だ。現在時刻は夜中の三時。大事と分類される事件だが、ある程度の時間が経過しているため、この時間までの調査はないのだ。
そこに、桜木は進入していた。
いくら警視庁総監直々の任務とはいえ、警察もそんじょそこらの連中はNPCや超能力の存在を知らされていない。つまり、極力表の人間との関わりを、任務中持つのは好ましくないということ。故に、この状況。
「俺が童貞だっての分かってんのか。畜生。生臭いったりゃありゃしない。いや、血なまぐさい、か」
桜木は辺りを見回す。痕跡や証拠は、全て警察連中が持って行ってしまっただろう。桜木がここに来たのは、ただ、見に来ただけ。それ以上でも以下でもない。
現場を知っておけば、事件の想像はしやすい。そのために、来ていた。
桜木はある程度部屋の中を見て回ったら、桜木はそそくさと部屋を出た。事件自体の解決は、警察に任せておけば良い。それに今回の加害者である芸能人、歌手である『押田護』は、既に判決を受けている。解決自体は早いだろう。そう、表の話だが。
メイデン自体の調査は、執行部の人間に任せてある。情報が入り次第、ヤクザ等の裏の人間や、芸能界との関わりを調べて桜木が叩き潰す。
そのままの足で桜木は次の目的地へと向う。その道中で、ある三人と合流する予定だった。
二三区内、某所、有名な待ち合わせ場所。深夜四時。
桜木が待っていると、そこに恭介、桃、琴の三人が現れた。そう、流が追加、した、協力者だ。
「幹部二人ってのもまた、大掛かりな仕事なんだろうね」
桃が眠そうに呟いた。
四人は軽い挨拶を交わして、歩き出す。いくら土日休みの、土曜の深夜、日曜の早朝とはいえ、眠いものは眠い。普段昼間の生活をしているのだから、尚更だ。突然生活リズムを帰ろと言われても無理な話である。そのため、桃と恭介は隠そうとしているが、眠そうではあった。琴はやはり幹部の人間。慣れているのか、大したことはなさそうにしている。
歩きながら、
「これから、どこに行くんだ。桜木?」
恭介が聴いた。
「聞いてないのか?」
「指示は桜木君にもらえって流さんから言われてるよん。私はあくまで、二人の上司役」
桜木の疑問には琴が応えた。
さいですか、と呟いた桜木は、説明をする。
「事件の事については流石に知ってるよな。今から向うのは押田護と、女雅美結衣との繋がりがあると見られるヤクザの事務所ね」
「そこで、何をするの?」
桃が首を傾げる。
「潰す。全員、殺す」
「潰すって……!! そんな事して大丈夫なのか?」
驚いて目の覚めた恭介が訊く。
桜木は対してそれに関して、思う事は内容で、適当な雰囲気で応えた。
「大丈夫だよ。全員死んだ状況なんて抗争とか、そんな適当な理由で流されるよ。一般人が相手にする連中じゃないし、NPCの存在や超能力を把握してる人間なんて一部しかいないから」
それに応えたのは琴だった。琴も幹部だ。こういう経験も豊富にしてきたのだろう。
「その通りだよ。きょーちゃんも、桃ちゃんもこういうのには今回で慣れておきなねぇ。私達は、確かに善意的な団体かもしれないけど、漫画とかに出てくる善良団体じゃない。目的のためには犠牲を払うこともあるし、汚いこともしたりするからね。まぁ、結果だけを見れば確かに善良的な団体ではあるけどね」
琴の言葉は優しいが、厳しい。これが、現実なんだ、と見たくないものを突きつけられているようだった。だが、言っている事は事実、現実。そこから目を背ける事等、できやしない。
「心配ねぇよ。俺の覚悟は決まってる」
「私も」
恭介と桃が頷く。二人ともそれなりに任務も、何もかも、経験を積んできた。普通の高校生では体験出来ないような事をしてきた。綺麗事ばかりが、正しくはないということはとうに理解していた。
四人は一度タクシーを使って、とある豪邸の前に来ていた。都心の外れの方にある高級住宅街の一角を占める、その住宅街の中でもランクが数段上と見える家。古い和を連想させる平屋だが、その広さと妙に整った小奇麗感が凄まじい。
そう、この場所が、ヤクザの本部であった。
「すげぇ広いな」
そのあまりの広大さに恭介は思わず感心した。桃も目を輝かせているようだった。
「さぁ、行くぞ」
そんな二人の感想は置いておいて、桜木が先人を切った。それに恭介、桃と続き、最後尾には琴がついた。
巨大な門を抜けて玄関へと来る。恐ろしく豪華な装飾が施されていた、巨大な玄関だった。時間が時間だ、当然鍵が掛かっている。
鍵は、桜木がなんとかする様だ。
と、その瞬間だった。
「全員動くな」




