12.遅効性毒素―12
そこからは、連撃。一切の防御なんてしない。攻撃に攻撃を叩き込んだ。恐ろしく素早い攻撃を繰り出した。一撃は僅かに重さを失ったが、それでも十二分に力強い攻撃だった。
それを、ケイジは避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける。攻撃に転じさせやしない。
「ぐっ……!!」
ケイジは圧倒的に圧されていた。今まで条件反射に頼りすぎていた罰だ。条件反射の効果のせいで勝手に身体能力が引き上げられていただけであり、結局、元の身体能力というのは、それに追随して僅かに上がった程度で、考えて恐ろしく速度の速い攻撃には、対応しきれない。
故に、条件反射は切れない。発動をやめれば、すぐに斬られてしまう、とケイジもわかっていた。
(強い……)
わかっていた。
相手が、格上である事は出会った時からわかっていた。見て、流の異常性は理解していた。だが、引くわけにはいかなかった。
超能力を過信していたわけではない。だが、自身の現在の身体能力では遥かに及ばないとわかっていた。
だからこそ、まだ、戦う。
戦って戦って、メンバー達と合流する。そう決めていた。
今まで、ずっと、彼だけが長く、暗殺部隊で生き残っていた。銃弾をも避ける程の動きが出来るのだ。攻撃が当たらない。そう簡単に死ねるわけがなかった。彼が生きている限り発動する事のない、第三の条件を発動させる機会も一度としてなかった。
だが、今のメンバーは全員、長く暗殺部隊にいる人間だった。今まで短い期間で激しい入れ替わりをしてきた暗殺部隊のメンバーの中に、メンバー間の認知が生まれていた。
だからこそ、持ってはいけない情が湧いていた。特に、今まで部隊の頭でありながら一人で戦い続けたケイジは。
気づけば、全員生きて帰ってくるのが当たり前になっていた。どれだけ権力を持っている人間であろうが、どれだけ強い超能力者であろうが、全員が全員の不得意分野を補って完璧に任務をこなしてきた。だからこそ、仲間意識が芽生えてしまっていた。まるで、物語の主役級達の様に。
だが、そんな事、しったことか、と吐き捨てるのが流である。
激しい攻防の中、既に宣言は済んでいる。
終わっているのだ。
ついに、ケイジは覚悟を決めた。
反撃の隙を自身で見つけ――はしなかったが、流が敢えて見せた隙に見事におらされ、条件反射を全力で後押しして、攻撃に転じた。
横から一撃を叩き込む。が、それは流の刀に防がれる。が、ケイジのもう一つのナイフが、真上から、流の首から腰まで一気に叩き斬ろうと、降り落ちる。
が、流はそのナイフが自身に触れる直前、一気に身を低くして、その攻撃を避ける様に、一気に前へと出た。
ケイジの振るったナイフの刃は、空を斬る、が、拳は流の肩に当たった。だが、同時、流の頭はその避けるという動作のため、ケイジに突っ込んでいて、ケイジを大きく後退させた。
そして、突き刺さる。
「ぐあッ!!」
ケイジの動きが、壁に背を着けた状態で固まる。
刀は幾度となく振るっていた。壁も床も天井も、全て穿たれていた。流の超振動する特種形状型日本刀だ。当然壁だの天井だのの素材に、その刃が負けるはずがなく、深い溝を作っていた。
その溝に、ただ、ナイフを指していただけだった。柄の部分が埋まる程度の穿たれた後を見つけ、そこにナイフを準備しておいた。そして、ケイジが自らそこに突っ込む様に動いただけだった。
当然、戦いの中でナイフに違和感を覚えられては厄介だ、とケイジの視線を誘導したり、何かに触れて落ちたりしない様に、散々気を使って動いていた。
「ッくっそ……!!」
ケイジが、なんとか背中に突き刺さった、自身のモノ程ではないが、刃の長いナイフを引き抜こうと両手を壁へと押し付けて、前へと出ようとするが、出来ない。そう、容易くない。
激痛が襲っている。敵が目の前にいる状態でナイフを手放す事も出来ず、壁を押しきれない。足の踏ん張りだって当然効かない。そしてなにより、敵が、目の前にいる。
流は何も言わなかった。死刑宣告はとっくに済んでいる。
拳銃を取り出し、銃口を、血が滲み出し、服に染み付き始めたケイジの鳩尾辺りに突きつけた。
そして、引き金を、容赦なく、一瞬の迷いもなく、全力で、その人差し指にありったけの力を込めて、引き絞った。
銃弾は、連続した。
弾数が余っている事は関係ない。ただ、単純に、より確実に、邪魔な敵を排除しようとしただけだった。
拳銃を数発程鳩尾へと叩き込んだ後、そのマガジンに入っていた銃弾が切れる前に流は刀をしまい、その手でサブマシンガンを持ち、拳銃と入れ替える様にして、既に、事切れているケイジの胸元から頭へとなぞるように手を動かしながら、発砲を続けた。
恐ろしいばかりの銃声が連続した。
その最中、ケイジの条件反射、条件三、自らが死ぬ時は、死んだ後でも、攻撃を放つ。という条件を下に、ケイジの右手が僅かに持ち上がったが、流の死体蹴りとまで言える程の容赦無い人体破壊が、その手を流自身が気づく前に、落とさせた。
サブマシンガンのトリガーから流が人差し指を引いた時には、既にボロ雑巾状態の、真っ赤に染まり上がったケイジだった肉塊が彼のすぐ側に落ちている状態だった。首もちぎれかけており、その先の頭部は頭部と認識出来ない程に崩れ落ちており、流がナイフを壁から引き抜こうと一歩踏み出して踏みつけた際、完全に、ただの肉塊へと変貌してしまった。
「呆気無いな」
とだけ、踏みつけた肉の塊を蔑んだ流は、先を急ぐ。道を進む。
これが、彼との戦いが目的ではない。目標は――、
「効かんよ」
「なんでだよ」
戦っていた。
誰と、簡単だ。勝てない相手が多すぎる。そうなれば、勝てる人間が自然と対峙する事になる。
零落家現当主、零落優流が相手をしている。
No.7はまた、面倒な相手に当たったな、とは思わなかった。接近して、すぐに気付いた。成城とは違う、と。
成城の場合は、攻撃を当てる事が出来るだけの女、だった。強いとも思わなかったし、勝てないとも思わなかった。だが、優流はまた違う、と感じている。
(こいつが……零落家だよな)
感じ取っていた。互いに名乗らなかったが、それでも、互いを、互いとも気付いていた。
(親父の言っていた例の奴だな)
だが、好都合。
流か、優流なら勝てるとあの零落家前当主が言っていたのだ。間違いない。
優流はNo.7と合流してしまったそこで、娘二人を先に行かせた。流石に、娘達に相手させる程度の雑魚ではない、と判断した。そして、ここまでの道中で、彼は流をまだ、見ていない。
だとすれば、やる事は一つ。
(ここでこいつは殺しておくべきか)
殺す。
零落家に弱点があるとすれば、任務にほとんど出ず、視界がある程度狭くなってしまっている事だ。故に、No.7が他所の人間だと全く気づけ無い。だが、それがどうした。
圧倒的な力がある。敵と戦う、という超能力社会においては、その種類の視界の狭さは、ほとんど問題にならない。
No.7が大きく床を蹴って後退した。優流に近づき過ぎる事を恐れたのだ。
No.7の、影響腐食が全く通用しない。触れて、最大限にその手、その超能力に集中しても、全く零落優流は腐らない。
それが、零落優流の超能力なのである。
そして、No.7の超能力は、ほぼ最強といえる程のモノではあるが、故に、数すくない、その超能力が通用しない相手には、格好の獲物となってしまうのだ。
成城とは違う。目の前の男は、超能力が通じない相手なのだ。




