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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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4.雷神




4.雷神




 十月某日。恭介達の地元のファミリーレストランにて。そこに集まっていたのは恭介、典明、桜木――そして琴の四人、というのが当初の予定だったのだが、それにプラスして近藤蜜柑が加わっている。

 結局、様々な事情があって、五人で来ることになった。

 既にそれぞれの注文は届いていて、食べながら、談笑していた。

「大将! このデミグラスハンバーグ定食おかわりで!」

「定食おかわりっておかしいだろ! しかも三回目だぞ!」

 桜木の懇親のボケ――実際に食すのだが――に恭介が突っ込む。突っ込みきれていないが。

「大丈夫だ。恭介! 今日は俺、金下ろしてきたから!」

「そうじゃねぇよ!」

 席は四人の席に二人の席をくっつけて無理矢理六人の席にした、三人と三人で向かい合うようになる大きな席だ。壁の方に蜜柑、典明、桜木が座り、通路側に、琴と恭介が座っている。自然とその席になっていた。

「しかしまぁ、こうやって見るとカップルみたいですなぁ、お父さん」

 蜜柑が恭介と琴を見て、典明に振った。

「そうですなぁ、母さん。この二人ヤっちまってますぞ。おほほ」

「何言ってんだこの馬鹿二人は」

「いや、私はヤっちまいたいんだけどね」

 琴の台詞に、渋い表情をして何処か遠くを眺めている恭介と、そんな恭介をつまらなそうに見つめていた琴を除いた全員の動きが固まった。

 最初の言葉を発したのは、桜木だった。

「なっ……、お前らまだくっついてなかったのか!?」

「そこかよ! つーかそれは昼に言っただろ!」

 恭介の鋭い突っ込み。そうだ、桜木には既に昼休みの時にこの事情については答えを返していた。

「ま、まぁでも、確かに、俺も付き合ってないのは知ってるけどよ。もう付き合ってはいいんじゃねぇかと思ってた」

 典明がそう言う。いかにも他人事、という雰囲気を醸し出しているが、言っている事は的を射ている。

「そうだよねー。琴ちゃんが転向してくるまで、恭介は桃ちゃんの彼氏みたいになってたけど、琴ちゃん来てから変わったよね」

 典明の言葉に、蜜柑が便乗する。

「お前ら何言ってんだ」

 恭介が断ち切った。空気を読んでいない、と言われればそうかもしれない。だが、恭介はそう言いたくて仕方がなかった。呆れていた、といえば聞こえは悪いかもしれないが、恭介は何を馬鹿な事を、と思っていた。

「桜木には言ったが、忙しいんだよ。琴は分かってるだろ?」

 恭介が隣りでニヤニヤ、楽しそうに笑んでいる琴に振ると、

「まぁねぇ」

 と何処か得意げに答えていた。

 ここで、桜木はただ唯一、察していた。こいつら、近い内にでも付き合うんじゃねぇか、と。

 一件すれば恭介にはその気がない。琴にはある、という二極状態に見えるが、そうではない、と桜木は思った。

 雑談をしながら食事を進め、桜木が五つ目のデミグラスハンバーグ定食を平らげた所で、帰る事になった。

 帰路。途中までは全員道が一緒だ。恭介、琴、典明に至っては住んでいる住宅街の区画がほぼ一緒だ。

 楽しそうに話ながら帰る蜜柑を見て、恭介は思うことがある。

 フレギオールの一件以来、やけに蜜柑は明るい。かと言って、何かが変わった、と自ら言ってはこない。そのため、訊く気にもなれない。無闇矢鱈に踏み込んだ話をするのは、野暮だ。

 だが、確かにあの日から蜜柑には変化があった。今直接見てみて、過去に見た蜜柑の姿と照らし合わせて、確かに違いを感じ取る事が出来る。出来ている。

 何かがあった。そう気付いた。だが、何があったかはわからない。

 だが、それが、蜜柑にとってプラスになるならば、それで良いか、と思った。踏み込んで訊く理由はないように思えた。だから、恭介は、少なくとも今は、訊かないでおいた。

 途中で、蜜柑と桜木を別れ、恭介と典明、琴は自分達の住む住宅街の方へと向かった。

 二人になった桜木と蜜柑は、二人で歩く。

 そんな最中だった。桜木が不意に足を止めた。どしん。と音がした気がした。

「ん? どした?」

 蜜柑も釣られて足を止める。

「…………、」

「ん?」

 ふぅ、と息を抜くような溜息。深呼吸。そして、桜木は言う。

「全部分かってる。お前が、『母親に虐待されてた事』も、お前が無理矢理、母親の手によって特異の力を与えられた事も」

 雰囲気が、変わった。場が凍りついた。秋の寒さとは関係なく、身震いがした。

 蜜柑は――『隠してきていた事実』を、見破られた事に、驚愕していた。

「な、なんで……あ、いや、何言ってるの? 桜木……」

 動揺が出てきてしまっていた。蜜柑はそれでも、ごまかそうとしていた。だが、見上げる先の桜木のいつになく真剣な表情を見て、分かる。

 これは、ごまかしは効いていない、と。

「ごまかす必要はない。何、俺は敵じゃない。デブを舐めるな。敵だってならすぐにでも追い詰めてるって」

「…………、」

 蜜柑は押し黙った。先程まで、恭介に明るくなった、と見られていた蜜柑は既に、消え去っていた。

 ふぃ、と場を切り替える嘆息をした桜木は、

「本題に入ろう。……、お前の母親、近藤林檎の居場所に心当たりはないか?」

 蜜柑は、目を見開いた。蜜柑の母親、林檎。まさかその名前を、同級生から訊く事になるとは、思いもしなかった。

「な、なんでお母さんの名前が……、」

 動揺を隠しきれない蜜柑を差し置いて、桜木は話し出す。

「近藤林檎はフレギオールの信者だった。が、二週間前。『ある一件』がフレギオール内で起こった。公開はされていないが。その一件、つまりは二週間前から、お前の母親、『近藤林檎は姿を見せていない』」

「…………、」

「俺は、近藤林檎の捜索をしている。当然、その特異の力の関係で、だ。近藤さん。知っている事があれば、教えて欲しいんだ」

 沈黙。そして、数秒がそのまま経過した。日が暮れた、薄暗い町並みには、哀愁が漂っていた。

 夜風が涼しい。虫の鳴き声が遠くから聞こえてきていた。

「っ、はは……桜木君ってそんな人だったっけ?」

「仕事用の顔があるんだよ。普段は食ってばっかりのただのデブだがな」

 そう言って、桜木は場を和ませるように笑った。釣られて、蜜柑もおかしそうに笑った。

「うん。敵じゃないってのは分かるよ。私の敵は、お母さんだけだから」

「事情を知ってるから頷く事は出来る」

「はは……。でも、残念だけど、お母さんの居場所は知らない。一応、アメリカに出てるお父さんにもそっちに連絡が行ってないか電話してみたけど、知らないって。本当に、私から見ればただの行方不明だよ。当然、フレギオールなんてイカレタ宗教に嵌ってたんだし、何かがあるとは思ってるけどね」

「そうか。なら、悪かった」

「ううん。っていうか、桜木君って何者なの?」

「…………、」

 僅かな沈黙の間。そして、桜木は、少し考えてから、応えた。

「近藤さんが、協力を約束してくれるなら、教える事が出来るんだなー、これが」

 言っている事の意味は理解できないが、喋り方が、普段の近藤に戻ったように思えた。

「協力? ……良くわからないけど、協力するよ。知りたいし」

「ははっ、素直だな」

「素直なのが取り柄なんです!」

 場は完全に明るくなった。友人同士が語り合うそれに、最も近づいていただろう。

 ごほん、というわざとらしい咳払いの後、桜木は応えた。

「NPC。NPCっていう、超能力者が集まる組織で働いてる」




    10




「さて、そろそろNPCにも慣れてきただろうし、上層部の話をしておくかな」

 翌日、NPC日本本部内、会議室の一角。そこで、飯塚学が恭介、桃を前にしてそう言った。

「そういえば知らないな。幹部の人間とか」

 恭介が言う。

「そうだね。えーっとぉ、一番上が、流さんなんだよね。言われてみれば……、他の人、知らないや」

 桃が困ったように首を傾げていた。

「そうそう。二人を信じないわけじゃないけどね、やっぱり段階を踏んで説明することがあるんだよ」

 あはは、と笑ってそう言った飯塚は、さて、と会議室の前方にあるホワイトボードに向き合って、ピラミッド状の構図をような何かを書き始めた。

 そして、

「まず、NPCの創設者にして、名づけの親であって、世界中に存在するNPCの代表を務めるのが、ご存知、恭介君のお父さん、郁坂流さんだ」

 ピラミッド状の構図の一番上に書かれた『創設者:郁坂流』と書かれた場所を指して、そう言った。

「そして次に、」

 ホワイトボードに書かれた郁坂流という言葉から伸びる線を辿ると、幹部、執行部、という二つの文字に辿り着く。飯塚はその幹部と書かれた方を指差して、

「幹部、簡単に言えば、表で活躍する上層部だ」そのまま、その横に並ぶ執行部を指差して、「執行部は、裏で活躍する上層部の人間だ」

 指を戻し、幹部と書かれた場所を差して、説明を始める。

「まず、幹部は現在、六人の超能力者が存在している。全員が、流さんに認められた力のある超能力者だ」

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