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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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3.宗教団体




3.宗教団体





 十月。恭介達は翌月に迫る文化祭の準備を熟す時期だった。一年生の時に経験してはいるが、それでもまだ、新鮮な気持ちで取り組める。

 放課後は相変わらずNPCに琴、桃と入り浸り、時折任務にも出て、恭介は着々と経験を積んでいった。が、超能力の収穫は余りなかった。今、恭介が所持しているのは強奪をはじめとして、雷撃、瞬間移動、能力移動の三つに、任務で得ることの出来た着火、の四つである。どれも、まだまだ慣れは甘く、雷撃以外は使い方を工夫でもしなければ戦闘には使えないようである。特に金井雅人から奪った能力移動は、使う機会が極端に少ないため、自由に使える様になるまでは、相当な時間がかかりそうである。

 NPCでの訓練、作業まで終えて恭介と桃、琴が学校を出たのは夜の八時過ぎだっただろうか。普段は気を使われ、早く帰してもらうのだが、今日は少し遅くなった。

 日の沈んだ帰路を歩く三人。もう夏の暑さは残っておらず、肌寒い。制服も冬服に変えても良いと学校から指示が出ているくらいだ。

「寒くなってきたねぇ」

 桃が腕をさすりながら言う。彼女はまだ、冬服には変えていなかった。この恭介達の通う高校、秋や春用の中間服がないのが不便である。

「そうだな。もうすぐ冬だ」

 恭介が適当な返事を返す。

「文化祭ももうすぐだね! 初めてだから楽しみだなー」

 琴が浮かれている。

 琴はNPCで仕事をずっと熟していて、学校行事というモノをほとんど知らない。本当に楽しみなのだろう。

「ウチのクラスなにやるんだっけか」

「今更!? もう今準備してるじゃん! 普通の喫茶店だよありふれた!」

 まさかの恭介の発現に琴が驚く。そうだ、今日もそのための準備をしてきたばかりだ。準備とはいうが、正確には打ち合わせ程度である。今の段階でクラスを装飾したりしても、授業の妨げになるだけだ。

「蜜柑ちゃん、すごいやる気あったねぇ」

 桃が天を仰ぎ見ながら言う。星がいくつか出ていたが、ところどころ雲も見える。

「そうだね。蜜柑ちゃんなんか、親を呼びたいとか言ってたね」

「そうだったな。典明は他校から来る女の子に期待してたが……、そもそも、他校から来る人間もそう多くはねぇだろうに」

「そうだっけ? 去年は結構来たような気がするけど」

「そうだったか。あんまり覚えてねぇや」

 恭介は昨年の文化祭の記憶があまりない。一時的な記憶喪失、というわけではないが、大した思い出があまりないのだ。つまらなかった訳ではないが、楽しめたわけでもない、ということだ。

 桃はそれを察して少し不満げな表情を浮かべる。当然だ、昨年、恭介と同じクラスで、一緒にあちこち回ったのは桃なのだから。

 そんな桃の表情には気づかない、恭介だった。




 翌日、学校。昼休みの教室。

 五人で同じグループを作って、昼食後の雑談の時間。

「文化祭楽しみだなぁ!」

 そう第一声を放ったのは典明だった。本当に彼は他校からの来訪者(主に女子)が楽しみな様で、常に浮かれている。準備や打ち合わせにも率先して出ていて、やる気を感じさせる。大成功させてやろう、という意気が良い。

「そうだねー。超楽しみ。一年に一回の祭りだしね」

「修学旅行の時もそんなこと言ってたよな、蜜柑」

 恭介の突っ込みに蜜柑が頬を膨らませる。楽しいからいいんですーと言って怒ってみせた。

「そういえば、修学旅行ってどこに行ったの?」

 修学旅行の後に転入してきた琴がそう訊く。

「京都だよ。ベタに金閣寺とか見てきたの」

 桃がそう言う。

「いいなぁ、京都。行ったことないし!」

「そうなのか。まぁいいところだよな」

 恭介はそう言って、蜜柑へと向き直る。そして、訊く。

「蜜柑は親を呼ぶんだっけか」

「うん。そうだよ。まぁ来てくれるかわからないんだけどね」

「わからないって?」

 首を傾げる琴。琴が両親と離れて暮らしている、というのは周知の事実だ。両親も琴程の身体能力と洞察力、それに超能力があれば、安心して一人にさせているのだろう。

 そんな琴からすれば、両親が娘の晴れ姿を見に来ない、という感覚がまず薄い。故の、疑問だろう。

「ちょっとねー、最近の話なんだけど、ウチの両親、少し面倒な事になっててね。それで、文化祭来てもらって少しでもその面倒が解消されればなーって」

「面倒?」

 恭介がつけこむ。だが、

「あははー。そこら辺はプライベート。内緒でね」

「まぁ、そういうなら」

 それ以上は踏み入れない。

 だが、少しばかり気になった。超能力云々ではなく、単純に、友人への心配として。





 放課後、NPC日本本部。会議室。

 次の任務についての軽いブリーフィングをやる。そう流に呼び出されたのは恭介と琴、桃の三人。

「今回の任務はまぁ……なんだ、標的の超能力自体は恐らく大した事のないモンなんだが……」

 流の表情がいつになく曇っている。その表情を見て、三人とも面倒な任務なんだろうな、と察した。

「相手はここ最近、この街にもその勢力を伸ばそうとしている宗教団体だ。団体の名前は『フレギオール』。新手の詐欺団体なのは間違いない――が、」

「そこに超能力が関わってるんですか?」

 琴が首を傾げる。

「その通り。まぁ、良くある話だ。宗教団体関係の任務もこれが初めてじゃないし、そのやり方も恐らく、今までのソレと変わらないだろう」

「どんなのなんだよ」

 恭介が急かす、と流は一度の咳払いの後、話始めた。

「フレギオールという団体はある『能力』を売りに一般人を騙して入会させ、金を巻き上げている。その能力が、『他人の生年月日や生い立ちを知る能力』――っぽいんだが」

「なんか微妙な能力だね。少なくとも殺傷能力はなさそう」

 桃が言う。そうだ、任務というからついついジェネシスの戦闘員相手かとこの時点から身構えていたが、どうやら戦闘能力がる超能力ではないらしい。

「そう。だが、超能力を悪用して詐欺をしているには変わりない。そんな奴からは超能力を奪っちまえばいい。ってことで、恭介のいる班である君達の出番ってことだ。フレギオールのトップである『五十嵐喜助』から超能力を奪ってこいってことだ」

「五十嵐喜助、ね」

「まず場所だが、」

 そして、詳細が話された。任務の決行は次の土曜日。

 話が終わり、いざ、三人が帰ろうと席を立ち上がった時だった。

「あぁ、そうだ。一応、確認なんだけど、」

 流が全員を呼び止めた。三人は何か、と振り返ると、何故か困ったような表情の流が、後頭部を掻きながら言う。

「お前達のクラスに、近藤蜜柑って子がいるだろ。まだ確認は取れてないんだが、その子の親、両親が、フレギオールに入信してるかもしれない。気を付けてやってくれ」

 それを聴いた三人は、今日の昼休みのあの蜜柑のあの発言に納得が出来た。そういう事か、と三人とも、蜜柑を心配するのだった。

 会議室を出た三人は今日のところの仕事を終え、三人で帰路に付く。学校を出て、相変わらずの道を歩く。時刻は夜の七時前。夕刻。赤く染まった空が眠気を呼ぶようだった。

「蜜柑の両親が、ねぇ」

 恭介が呟くと、琴も桃も唸り声を上げた。悩ましいところではあるのだろう。

「蜜柑ちゃんは探らないでくれーって感じだったモンねぇ」

「うん。無理に探るのはね」

「つっても、フレギオールとやらと関わる以上、蜜柑の両親とどういう形でかはわからないけど、関わる事にはなると思うんだけどな」

 はぁ、と溜息が三つ。

 面倒な事になりそうだ、という気持ち、と、友人に何かなければ良いが、という難しい気持ちが入り乱れていた。

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