14.沈黙からの解放―9
ゆっくりと起き上がり、恭介は正面を見据える。やはり、霧島雅は、向かってきていた。瞬間移動で。
(瞬間移動か!? 超能力の追加があったようだな)
恭介は一瞬ですぐ目の前に出現した霧島雅に対応する。超能力は、使われた。だとすれば、恭介も使わない余地はない。
恭介は正面から襲い来る、衝撃砲をに追って向かってくる霧島雅の膝蹴りを避けるために、瞬間移動して、彼女の後方、距離を取った位置に移動した。
その瞬間移動に対応し、振り返って恭介のその姿を捉えた霧島雅は、すぐに瞬間移動で彼の目の前に出現した。
着地、と同時に、霧島雅は衝撃爆散を放つ。放射状に飛散される不可視の衝撃に、恭介は逃げ場を失うが、そこで、恭介の姿が消えた。
(今のを避けた!?)
と、思うのも束の間。恭介が次に現れたのは、変わらず、霧島雅のすぐ目の前だった。恭介は、瞬間移動を今の衝撃爆散を避けるためだけに使用したのだ。
いくら、霧島雅の超能力が増えようが、彼女自身が強くなろうが、恭介の、熟練度には、まだ、追いつけない。超能力の使用者として、恭介は、霧島雅よりも、格上だった。
霧島雅が次の攻撃を放つよりも前に、恭介が彼女に攻撃を仕掛けた。
ただ、手を伸ばしただけだった。が、恭介の手が避けきれなかった霧島雅の右上腕に触れたと同時、そこは、燃え上がる。
「ッうううぅううううう!?」
霧島雅は今のその光景に驚き、反射的に瞬間移動で後退していた。が、そこに燃え上がった炎は、振り切れなかった。
着火。恭介が頻繁に使用する、つまりは熟練度の高い超能力である。
触れただけで、火を点ける、という炎の超能力。それは、垣根や零落希美の炎を操るモノとは違う。点ける事に特化した超能力であり、熟練度を上げた事により、恭介の今の攻撃は、そう容易く消えなくなっている。
「何!? あっつッ、消えない!?」
霧島雅は何度も何度も腕を振るうが、肉体に灯された炎はそう簡単に消えやしない。
が、霧島雅も手練だ。慌てふためくのは一瞬未満で、次の瞬間には、新たに得たモノであろう、風の超能力を発動して、炎の沈下を試みるが、
「無駄だ」
それは、隙。挙句、炎は消えない。
恭介が右手を正面に構えていた。そして、マジシャンを気取る様に指を鳴らすと、そこから稲妻が一直線に飛び、炎の沈下に勤しんでいた霧島雅の、脳天に直撃した。
と、同時、霧島雅は大きく仰け反り、そのまま、仰向けに大きく倒れた。
今の一瞬で決まった雷撃を見て、恭介は改めて電気程対人戦で便利なモノはないな、と思った。
右手を振ってから戻して、恭介は意識はあるが、麻痺してしまって動けない霧島雅から視線を外し、デスクに構えたままの神威業火を見る。霧島雅を指差して、そして、いたずらに問う。
「さて、どーすんだよ。この状況」
この時、恭介は千里眼を発動していた。そして、既に見ていた。
恭介のその言葉の直後、神威業火の部屋の奥、つまりは、神威業火の後方に横に綺麗に並んでいた窓が、全て砕けた。そしてそこから、侵入してくるは当然、奏、メイリア、エミリアが飛び込んできた。それと同時、恭介の脇にあった部屋の入り口の扉が開き、海塚、一閃、が出現した。
神威業火は一閃にまず視線を送ったようだったが、亜義斗の様に仕掛けを使用しは、しなかった。
「思ったよりも頑張っていたようだな、恭介」
海塚が言って、恭介の肩を叩き、そして、神威業火の正面へと出た。そんな彼が腕を横に振るうと、神威業火の身の周りに、隙間なく埋め尽くす様に、剣やら、銃器やら、ありとあらゆる海塚が保持する武器が、その鋒、銃口を神威業火へと向けて、彼を狙った。
そして、その後ろには奏達が囲む。
圧倒的有利な状況に――には、なっていなかった。
故に、海塚はこう、言う。
「……神威業火。大人しく霧島雅の身柄を渡してもらおう。それだけだ。それ以外は望まない。霧島雅の身柄さえ確保できれば、大人しく引く」
殺しは、しない。いや、正確には、出来ない。
これだけの戦力が集まっていて、攻撃体勢を整えていようが、可能性があがったに過ぎない。敵の力は計り知れない程に高いと分かっている上で、未知数。むやみな戦闘はやはり、好ましくない。
そこまで言われた所で、神威業火は深い溜息を吐き出し、目を伏せた。
その後、ゆっくりと立ち上がる。それに連動して、海塚の出現させている武器の先が全て神威業火を狙って動いた。
立ち上がった神威業火に全員が警戒した。そして、そのタイミングで、零落希華が海塚達が入ってきた扉から入ってきて、その光景を一番後ろから見ていた。
(……生でこうやってしっかりと対面するのは、始めて……かな。神威業火。見て分かる。感じる。バケモノだ。あの年寄り。耄碌しても良い歳だけど)
零落希華も、そう感じ取ってすぐに現状を理解した。
深い溜息の後に瞼を上げた神威業火は、静かに、口を開いた。
「一番の反応を見せたのが、流の息子か」
その言葉に気付いたと同時だった。
奏の目の前に、恭介がいた。必死の形相で、奏の目の前を、右から左にすぎる様に、恭介が流れた。その光景を見て、敵襲だ、と気付いたのは一秒未満後だった。
恭介の稲妻を迸らせる手中には、見知らぬ男の焼けただれ、痙攣して震え続けている奇妙な顔があった。
「全員透明化してやがるッ!!」
手中に顔面を収めた既に死体となった男を投げ捨て、恭介は叫んだ。恭介が投げた男は近くの壁にぶつかって頭から床に落ち、嫌な音を立てて崩れ落ちた。
全員の集中が、神威業火と倒れたままの霧島雅から外れた。外れてしまった。
と、同時だった。神威業火は軽く腕を振るった。ただ、それだけだったが、霧島雅の姿が、その場から消えた。その光景を見ていたのは、一匹の敵を片付けたばかりの恭介と、目の前の敵を失った奏の二人だけだった。そして、その二人はその光景を見て、気付いた。やはり、最初から、奪わせない事等彼には容易いのだ、と。
恭介はすぐに周りを見回した。千里眼を発動したままで、だ。
が、ここにいるNPCメンバーは、全員が、強者である。
海塚は足音や気配、から敵の位置を察して、出現させた剣でその見えない身体を貫いて、一人、片付けていた。奏はどうやってのか、気付いたその時には足元に首のない死体が転がっていた。メイリアもほぼ同様。零落希華は自身の周りに漂わせていた氷の粒子を使用して敵の位置を把握し、不可視のまま氷漬けにした様だ。亜義斗には見えているのだろう。鼻血を出して倒れている死体が彼の近くにあった。そして、一閃の足元には、上半身と下半身が、落ちている。
全員、無事に敵を撃破したようだった。
が、今殺した連中は捨て駒だったのだ、とすぐに気づき、そして、恭介が今、神威業火が何をしたのか、という事にも気づいていた。
恭介が部屋の隅を面倒そうに見上げている中で、海塚が言う。
「こいつら、透明化持ってるだけじゃないか?」
奏とメイリアが頷いた。
そして、恭介が視線を皆へと下ろして、言う。
「撮影されてたみたいだな。カメラが仕掛けられてる。一つだけだが。あと、外にはメディア連中か。野次馬も合わせてすっげぇ数になってる」
「見える範囲に神威業火はいる?」
零落希華が問うと、恭介は首を横に振った。「千里眼の効果が及ぶ範囲内には、恐らくいない」
続けて、カメラが埋め込まれているであろう壁を指差して、続ける。
「カメラの近くにテープはない。受信機が他の場所にあるんだろう。それを流して、俺達はテロリスト扱い。……ありきたりすぎるだろ」




