2.兄弟―4
「つっても、俺達だけでどうこう出来る問題じゃないかもしれないんだろうしな」
「そうだねぇ。夏休み中だったらもう少しどうにか出来たかもね」
「今更だな」
「うん」
はぁ、と溜息を吐き出して琴が立ち上がる。もう行くか、と恭介も続いて立ち上がった。
九月に入って夜は冷えるようになってきた。二二時前。それなりに肌寒く感じ始めていた。
「早く帰るか」
「そうだね!」
二人はそのまま歩きでバス停へと向かう。乗ってきた地元のバス停まで出るモノはこの時間になるともうなくなってしまっているが、近くまで行くバスはある。
二人が歩いている間、金井雅樹やその追っ手が来ることはなかった。撒いてからそれなりの時間が経っている。今頃相手は恭介達の文句を吐きながら何処かで暇でも潰しているのだろう。
二人がバス停に付くとタイミング良くバスが来た。二人は乗り込み、地元へと向かう。
数十分で地元の外れの方へと到着した二人。その頃には時刻は二三時にまでなっていた。
街頭の少ない夜の田舎のあぜ道を二人は歩く。見通しが良いからハッキリと分かる。周りに人影はない。
虫の鳴き声がまだ五月蝿い道。だが静かで、慣れていなければ、不気味にも思える田舎の夜道。
「ここからだと家までどれくらいかかるの?」
不意に、琴が訊いた。
「そうだな。二○分くらいじゃねぇかな。わからないけどよ。そういえば長谷さんの家、俺の家とか桃の家とかから近いんだっけか?」
「そうだよー。桃ちゃんの家なんてもうすぐソコってレベル。桃ちゃんは知らないみたいだけどね」
「って事は、前の俺の家とも近いのか」
「そうだね。あの火事があった所で、今更地になってる場所だよね?」
「そうそう。びっくりしたモンだ。マジで。夏休みの最後、典明と遊んだ帰り、家が燃えてて、その数日後にはあっと言う間に更地にされてって、なんか話が進む速さに驚いたモンだ」
「そういえばだけど、その更地、今日『基礎』できてたよ?」
「は? なんで」
「土地の買い手でも突いたんじゃないの? 大分早いとは思うけど」
「いやいやいや。あそこ、土地も親父のだから」
「ん? じゃあ、なんでだろうね?」
そうこうと雑談をしながら進んでいると早く進むモノで、恭介の予想したその二○分はあっという間に過ぎ去り、恭介の仮住まいのボロアパートに到着した。
アパートの下。自転車が並べられているそこで、恭介は「送っていこうか?」と建前を念の為に置いておく。
当然、琴は暗闇でも目が効くし、恭介以上の戦闘能力を有し、敵が襲ってきても対抗できる事が分かっている。
「あはは、それ、何の冗談?」
琴も冗談だと思ったのだろう。おかしそうに笑って大丈夫だよ、と答えた。
そこで二人は別れ、明日も休みだが、言葉にはしなかったが明日の休みの間に今回のこの一件をどうにかしよう、と考えて、帰宅した。
帰宅して、ボロアパートの一室へと戻った恭介。電気は消えていた。両親の姿はない。仕事か、出かけているのか。大介と愛は寝ていた。パジャマ姿で並んで寝ていた。
二人を起こさない様に足音を殺し、部屋の中央に置いてある食卓へと向かう。そこに腰を下ろして、一服。走り周り、疲れていた。少し休憩したらシャワーを浴びようと思った。
そんな中で、気付く。目の前の卓袱台に置かれたメモに。
「ん?」
なんだこれ、とそのメモを見てみると、
『新しい我が家が決まった。イロイロすっ飛ばして完成は約三ヶ月後。暫く帰れないので書いときました。楽しみにしときな。流』
それを読んで、基礎ってそういうことか、と恭介は納得した。
翌日。曇り模様のあいにくな空。雨は振りそうではないが、湿気がやけに肌に障る。
恭介は朝から前の自宅の前に来ていた。基礎が出来上がっていた。今日は休日だ。恐らく今日、作業が進む事はないだろうが、また明日にでもなれば木の柱が立てられる事だろう。いや、鉄か。基礎が出来上がっているという事は、ここに新居が立つのだろう。大体三ヶ月後、クリスマス辺りだろうか。
また、ここに戻ってこれるのか、と恭介は少し嬉くなった。生まれた時から住んでいた場所だ。戻ってこれて嬉しくないはずがなかった。
恭介はポケットから取り出した携帯電話で時刻を確認した。まだ、朝の九時前。恭介は今から隣り町に向かうつもりだった。
金井の件を片付けられるなら、そうしようと思ったのだ。
確かに相手が超能力関係の敵だとしたら、NPCに話を通すのが道理だろう。だが、明日からまた学校が始まり、愛も外に出ざるを得ない。相手は学校等関係なしに襲ってくるかもしれない。せめて父親か母親にでも話そうかと思ったが、帰ってきやしない。だから、恭介が動く事にした。それに、運良く今日中に片付ける事が出来るとしたら、愛は明日からも安心して学校に行くこともできるだろう。
恭介には『強奪』がある。相手が超能力関係の人間だとしたら、奪ってしまえば良い。そこで力の差を明瞭に示してしまえば、もう、手を出しては来ないだろう。
(そうだ。俺なら出来る。あいつら見たいな力を示そうとする連中には力を示してやればいい。クズなんだしな)
恭介はギャルが嫌いだ。そして、不良も嫌いだった。そして更に、恭介はそういう連中には容赦なくしても構わないと思うような人間だった。
そろそろ行くか、と恭介が踵を返すと、
「やほ」
目の前に、昨日見たばかりの顔が。長谷琴だ。目の前で並ばれて分かる。二人の身長はほとんど変わらなかった。
「おぉ、長谷さん。どうした?」
どうして琴がこの場にいるか、分かってはいたが、恭介は確認の意味も込めて訊いた。
「今から隣り町に行こうと思ってるところ」
琴も分かっているのだろう。わかっていて、敢えてそういう濁した答えで答えたのだろう。恭介はそれを察する。
「俺もだ。ついでに早めに出て、昨日言ってた基礎を見に来たってところ。どう、良かったら一緒に行かないか?」
分かっていての、誘い。当然答えは素早く返される。
「うん。今日もよろしくね!」
隣り町についたのは一○時前のことだった。日曜ということもあって、それなりに人混みも出来ていた。恭介達の住む町からこっちに出てくる人間も多いのだろう。見知った顔が見える時もあった。
「で、今日は愛ちゃんと大介くんは何してるのかな?」
アーケードへと向かいながら、琴が尋ねる。
「家で寝てたよ。昨日の事で疲れたんだろ。ぐっすりだった。それに、昨日あんな事があって、今日は休日。俺達に言われた事もあるしな。外には出ないだろう。流石に連中も自宅襲撃なんてアホな事はしないだろうしな」
「そうだねー。今日中に面倒な事が片付くといいよね」
「あぁ、そうだな。よろしくな、そしてありがとう。長谷さん」
「うん!」
二人はして、アーケードへとたどり着いた。人混みが多い。それぞれの店の前で何らかの理由で留まっている連中に加え、相当な数の通行人もいる。ここらの地域は基本的には田舎とされる場所が多いため、娯楽を求めれば自然とこの町に出てくる事になる。仕方のない光景だった。
まずどうするか、と考え、連中のその見た目、生りから考えて、いそうな場所、として昨日のゲームセンターに二人は向かった。到着すると、すんなりと入る事は出来るが、やはり混んでいた。それぞれのゲームをするためには暫く並ばなければいけないようにまで見える。
休憩所代わりのベンチに、見たような顔を見つけた。
見た事ある顔だ、と昨日の記憶をたどっている間に、琴が答えを出した。
「あいつら。アレじゃん? 恭介くんが昨日、倒した連中」
言われて、思い出す。
「おぉ! そうだ。あいつらだ」




