12.新たな敵と目的違いの敵―12
その三島の提案には、全員が頷いた。燃え盛る工場を背後に、全員が考えは同じ、だ。と確認し合った。
罠かどうかは未だ分からない。だが、この状況がまずい、とは既に気づいていた。
「資料は少しあった。材料もあった。気づかれたとしても、多分、最近の事なんだろうね」
菜奈が現状を整理して言った。全員は歩き出し、その中で話を続ける。
72
生産工場襲撃は、失敗か成功か、曖昧な状態で終わりを迎えた。それも、本当に呆気なくだ。
そんな中で、もう一つの班、メイリア・アーキが中心となって恭介達をまとめた、研究所を襲撃する班は、その任務を成功させていた。
ジェネシスが管理する広大な土地の一角にある、研究所が、燃え盛っていた。今頃、その付近に併設されている他のジェネシスの施設から、増援が送られ、対処に追われている頃だろうか。
だが、既に、メイリア達は、ジェネシスのその敷地のを見渡せる遠く離れた山の中腹の、開けたエリアにて、落ち着いていた。
行動は早かった。メイリアが皆に「警戒して」と伝えたその直後、メイリアと奏が、何かした。本当に、何かをした、だけだった。それと同時、研究所が突如として爆発し、燃え上がった。それだけだった。
知識をと千里眼を組み合わせてその様子を見ていた恭介ですら、何が起きたのか理解できていなかった。
緊張の生唾を飲み込む。恭介だけではない。希凛も、蒼井も、二人が何をしたのか、理解できていなかった。
二人の超能力は、強力であり、そして、僅かな違いこそあれど、同じモノである。
複製。言わば、恭介の持つ強奪の下位互換と言える代物である。名前から推測出来る通り、それは超能力を複製し、保持し、使用する超能力である。
複製は珍しい超能力だが、強奪が出てくる以前は今でいう強奪のポジションにたかどうか、といえば、違う。複製は発見からすぐにもう一つが見つかり、そして数人、所持者が見つかっているため珍しさはない様に思えるが、珍しく、そして強力な超能力である。
更にいえば、奏、そしてメイリア・アーキの二人は、複製所持者の中でも、トップを張る二人である。
二人とも、単純に、複製し、そのまま保持しておける超能力の数が、他の複製所持者と比べて、圧倒的に多いのだ。
そして、彼女らはジェネシスの複合超能力者とは違い、複製の力による、複合超能力者である。
言わば、教養範囲内であれば、相手とその超能力さえ存在すれば、好きに超能力を入れ替え、保持して奥事が出来る、という『着せ替え』が可能な複合超能力者、という状態である。
強奪の下位互換と言われる事は多く、実際、そういう類として扱われ、位置しているが、詳細を見れば、強奪にはない、メリットも見えてくるのだ。
複製超能力者。ジェネシスも、NPCも、その名称を使用している。
(……複製って、俺の強奪より強いんじゃねぇか……?)
恭介がげんなりしながら、燃え盛る研究所を眺めながら、思っていたその時だった。
「……来たわね」
奏が、視線を研究所から外し、振り返り、森の木々が生い茂る中へと視線をやって、呟いた。既にメイリアも、希凛も蒼井も振り返っていた。遅れたのは、恭介だけだった。千里眼を持っていようが、発動していなければ意味はあるまい。
男だった。と、思った。
見て、判断はできなかったが、『視る超能力』を持っている奏、メイリアは既にその『下』を見て、男だと気付いたし、恭介もすぐに千里眼を発動させて、気付いた。
「『鎧』の下には男。若いね。恭介くらいかな」
「……そうですね」
メイリアの言葉に、恭介は頷いた。頷きつつ、恭介は知識も併用していた。
そして、気付いた。
(……討伐隊、か)
察した。
ゆっくりと歩いてきた鎧と兜で全身守り、隠した男を見て、恭介は、つい、足を止めた。動かす気にはならなかった。理由は当然、メイリア達の存在である。
すぐに、メイリアと奏が前に出ていた。そしてその脇を固める様に、蒼井と希凛が構えていた。
この場にいるのは全員が、強者である。全員が、視る超能力がなくとも、彼が、恭介を殺しにきた討伐隊の人間である、と気付いた。
鎧の男は恭介達から二○メートル程距離を空けた所で立ち止まり、そして、籠った声で、恭介達に、いや、恭介に言った。
「一対一で、戦おうか」




