11.残党狩り―10
確かに、と恭介は思う。そして、今の恭介の強奪では、その利点は封じてしまう事を分かっている。
強奪は、少なくとも今の状態では、超能力を奪ってしまう。そうなると、暴走は止められようが相手を無能力者にしてしまう。が、見方を変えれば、恭介がその強力な超能力を得る事になる。垣根としては、どちらでも良いのだろう。元のまま復活してほしいと願う人間も多いのだが、戦力ならば厭わない垣根達からすれば、どちらでも良いのだろう。恭介自身は、元のまま三人とも戻って欲しいと希望はしているが。結果がどうなるか分からないため、特別結果にこだわりをもってはいない。
「そうですね。実現化。超重力。不死鳥。偶然なのか、それとも決まっているのかは知りませんが、どれも特異で、強力な超能力ですし。ちなみに、この三つの超能力、他に発見された例はないんですか?」
ふとした疑問をぶつける、と、垣根は少し考える様な間を置いてから、答えた。
「完全に同一、というのはないかったような、確か。似たような能力はそりゃ、あるぞ。不死鳥なんかは俺の獄炎と似てるし、お前の着火とも良く似ている。実現化は……ないな。今の所は。超重力は結構な数、似てるモノが存在するな。それこそ、お前が倒したセツナの引力もそうだろう。それに、使い方次第ではるが、海塚の自由格納も似た効果を発揮出来る。どちらも超重力と同じくらいに珍しい超能力ではあるがな」
「それです。もう一つ聞きたい事。想定でもいいんですけど、気になったので答えてもらえると嬉しいです」
恭介の言葉に、垣根はどんとこいと頷く。
「ジェネシス幹部格は、報告書も見て全部確認しましたが、特異な超能力が多かったと思います。でも、それらを大量生産出来ていないのでしょうか? 敵の事ながら、どう考えたってそれらの様な強力な超能力を大量生産した方が部下の力も強くなって、俺達NPCを倒し安くなると思うんですけど」
すると、垣根は、それなぁ、と困った様に答えた。
「俺も海塚も、上の連中もそれは皆思って、考えたさ。で、出てきた推測は、当然、」
「適応ですかね」
垣根は頷いた。
「そうだな。それと許容量。聴いた限り、ジェネシス幹部格は能力を上げるために薬漬けにされてたんだろ? それは熟練度を上げるためだって話だが、そこに何かあってもおかしくはないわな。それに、それ以前に、ジェネシス幹部格は霧島雅を除いて全員人為的に生み出された存在なんじゃないかって説もある。当然、そんなのは常識には有り得ない。だが、相手はジェネシスだからな」
「そうですね。……それに、確かに、連中、家族なんていない、って感じしてましたよ。いかにも両親なんていないままで生まれた感じでしたし」
「そうだろ。連中、怪しすぎるからな」
垣根は言う。
NPC日本本部の上層部の中では今、ジェネシス幹部格を問題視していない。これは、恭介の暴走を止める事にも繋がると考えて、恭介に一任しているからである。
恭介の実力は確かだ。それは少なくとも、NPC日本本部の人間は認めている。
だから、NPC日本本部の上層部は次の段階に先に動かす。
やはり、一番の問題は人工超能力商品化である。これは、ジェネシスの力で恐ろしい程に発売を早めて、後三ヶ月程度で発売にまでこぎつけた。
これを、何があっても阻止しなければならない。
それは、全員の今の目的である。が、今まではジェネシス幹部格の支部襲撃等で動けなかった。が、今は違う。恭介と一部以外の人間はその本来の目的のために動ける体制を整えた。そして、幹部格の数も揃い、連携者に警察関係者も存在する。
動くなら、今だ。
「あぁ、……、なんというか、最悪ですね。これ、っていうか現実」
霧島深月は休日を使って連携者としての責務を進んで果たしていた。当然、相棒には煤島礼二がいる。
二人はカフェにいた。オープンテラスがある、全国チェーン店だ。
外のウッドデッキの一角に二人はいた。それぞれが食事と飲み物を頼んでいて、それらを口にしながら会話を交わしていた。
時間が時間だからか、客の数は少ない。どちらにせよ、二人の会話を聞いてもその内容を理解出来る人間は少ないが。
「そうだな」
苦いコーヒーをすすりながら、不満げな表情で煤島が溜息と共に吐き出した。その様子から、好ましくない結果が見えた、と察する事が出来る。
「なんですかね、これ、賄賂なんですかね」
「そうだな。金に限らず、『アレ』とか」
煤島の言うアレ、とは当然、超能力であろう。それも、戦闘用の超能力。
その言葉は、当然霧島深月も理解している。彼女も煤島と共に、この裏で動いている現実を見てきたのだから。
「どこを突っついても、ボロボロと怪し過ぎるモノが出てくるのに、公式な調査はさせてもらえない。上層部が酷い有様だから。NPCの人にも言われたけど、まさか依頼まで出してる警視庁総監までジェネシスの手先だったなんてねぇ。……本当、警察だからって下っ端は何も知らされないのね」
「そうだな。俺が思うに、上の一部の連中は既にアレを手に入れてるだろう。と、なると……銃なんかじゃ攻撃に値しなくなってるのかもな」
煤島は呆れた様に言う。
二人が警察としての特権を使ってジェネシス内部に探りを入れようとしても、上からの命令で阻まれてしまう。それをどうにかしようと上に探りを入れようとしても、無理矢理に許可下ろさない。それどころか、最近は――二人が気付く限りだが――仕事中に限っているが監視の目もついているようである。
どうしてかプライベート中の監視の目は見当たらない。
それは当然。二人が超能力者でないからだ。
視る超能力なんて、いくらでも存在する。聴く超能力なんていくらでも存在する。透明になる超能力だって存在する。相手に認識されなくなる超能力だって存在する。
二人が気づいていないだけだ。仕事中であれば、現実を知っている二人に察されても問題がない。だが、プライベートとなると話は別だ。余計な警戒心を与えてしまう。
つまり、この監視を責任を担って指揮しているのは、上にはジェネシスがいるが、直接的には警察連中だ、という事。
それに、二人はまだ気付いていない。
客数は少ない。二人が辺りを見回すと店内に二組四名の客、オープンテラスのウッドデッキに自分達を含めて三組五人の客が存在するが、実際は違う、という事実。それに二人は気付いていない。
更に、遠方から二人を監視する視る超能力所持者が一人、そして、カフェではないが、二人の近くにいる人間の中に、聴く超能力者が一人いる。
二人はそれらの一つにも気づいていない。
ここまで、されていると思わなかった。まだこの世界に入って浅い二人は、まだ、そこまで想像出来ていない。いなかった。つまり、甘かった。
今日、連中が仕掛けてくる事に、二人は気づいていない。
そんな最中でも、呑気に愚痴混じりの現状確認をする二人。
「……、一度、NPCに顔を出すか。こっちの現状を報告して、出来る事の確認をしたい。警察として特殊な動きが出来ない事も伝えておくべきだ。俺達に出来るのは、一般人よりも少し高い位置から見る事だけだってな」
「そうですね……。確かに、すっごおおおおおおい速いですけど、私達程度の人間だと、限界があるってハッキリ言った方が良いですよね……」
と、マイナス思考の二人の下に、近づく影が一つ。その影は二人の席の目の前で立ち止まった。当然、二人はその影に気付く。そして、警戒する。懐に隠してある拳銃に手が近づいた。
が、その影は二人に視線は合わせず、辺りをただキョロキョロと見回したまま、静かに、呟く様に二人に告げた。
「監視されてますよ」




