9.襲撃―13
「ッ、くそ……あぁ」
三島はそのままゆっくりと立ち上がった。今の一撃と反応でイザムも霧島雅も三島の状態をしっかりと確認し、勝ちを確信したのだろう。二人ともゆっくりと歩いて、三島の下へと向かってきた。
立ち上がって距離を詰めてくる二人を確認する三島。視線を右往左往させて確認はするが、勝機は見えてこない。
(あぁ、くっそ。あの透明ギャルさえいなけりゃ、もう少しまともに戦えた気もすっけど、まぁ、後悔先に立たず……ってね。どうしたモンか)
諦める気はないが、自分でうまいこと状況を転がせる選択肢がない事を理解していた。
三人の距離があっという間に縮まった。三島が苦笑していた。ここまで来てついに諦めが着いた。
「参ったね。降参するしかねーわ」
そう言って三島は両手を上げた。完全な降伏宣言。苦笑が表情からはがれない。
が、しかし。三島は望んだ通りではないし、理想には、最初の想定に全然届かなかったが、確かに時間を稼いだ。
「……チッ、ミヤビ」
イザムが忌々し気に言って、霧島雅に何かを確認する様な視線をやった。それに頷いて答えた霧島雅は、言う。
「分かってる。ここは引こう」
言って、霧島雅とイザムはそのまま三島を置いて入口へと向かった。
その入口には三つの影があった。当然、琴、桃、菜奈の三つの影である。が、二人は三人に攻撃する事もなく、その脇を抜けて出ていった。イザムが菜奈を睨んで、菜奈もイザムを睨み返したが、動きはなかった。
そのまま二人が去ったのを確認して、琴がすぐに携帯電話を取り出し、回収班に連絡を入れた。
琴が倒れた笹中に駆け寄った。桃と菜奈は三島へと駆け寄った。
「大丈夫かな? いや、大丈夫じゃないよね。霧島さんが相手だったのか……」
琴は笹中をとりあえず仰向けに起こしてやった。笹中は苦し気に表情を歪めていたが、命に別状はなさそうだ。意識もしっかりしているし、呼吸もできている。問題は痛みと関節の状態だろう。
「助かったよ。ありがとう」
そう言ったのは桃だった。
「いやいや、助かったのは結局俺達だった。秋山は見たか?」
三島の言葉に、菜奈が答えた。
「私は秋山って人の事は分からないけど、一人、入口の外で、死んでた」
言われて、三島はすぐに走り出した。入口のそこで、死体となった秋山のその姿を見つける事になる。秋山のその姿を見てまず思ったのが、死んだか、という率直すぎる感想だった。
命はいつ落としてもおかしくない世界にいるのは重々承知だ。秋山もまた、その一つになったに過ぎない。
三島は戻った。琴が回収班を呼んだのは見ていた。
「笹中の方は大丈夫か?」
「命に別状はないよ。暫くは動けないだろうけどね」
琴が言って、立ち上がった。後は回収班が来るのを待つだけだ。
痛手を負った。結局こちら側が死者を一人、戦闘不能を一人出しただけに終わった。
イザムの強さ、そして霧島雅の成長を実感させられた。
(ジェネシス幹部格、本当に面倒な相手だ)
そして、三島も負傷していた。三島の怪我がまだ、笹中のそれに比べてしまえば軽いモノだろうが、それでも重症である。治るまでには時間を要するだろう。
「とりあえず、三島君も、早く帰って治療しないと」
琴が言って、肩を貸して座らせた。
回収班が来たのは、十数分後となった。




