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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
NO,THANK YOU!!
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9.襲撃―3

 崩壊しかけの建物から琴の先導で出る。菜奈も桃も目に入る砂塵を疎ましげにしていたが、僅かでも目を開けてなければ琴の姿を終えないため、薄く眼を開いて琴の背中を負った。

 建物が切断されてから数分が経過していたが、まだまだ砂塵は引かない。この敷地一体を囲んでいる外壁のせいもあるだろう。まだまだ暫くは視界が悪いままの様に思えた。

 暫く進んでいくと、琴が不意に足を止めた。そして振り返らずに言う。

「ここから後五メートル程の所が出口。入ってきた所ね。で、その前、ここから四メートル程の所に、そのイザムって奴が立ってる。辺りを見回している所をみると、私達を見つけてはいないみたい」

 琴の表情は悪い。が、後ろにいる二人がそれに気づく事はない。

 桃は菜奈の様子を見て、敵の力量を図っていた。当然、見えてきた答えは相手は強い、の一つのみ。

 とにかく何でもぶった切る超能力。菜奈の説明を聞いて戦闘前から超能力を把握できるのは良かった。だが、対処方がない。

「とにかく私の超能力で指示を出す。私は奴とは戦えそうにないから。視界の悪い今の内に不意打ちで勝ち取る。最悪、逃げる」

 琴が言う。その指示には二人とも頷いた。

 琴は逃げ出すのがベストだと考えていた。相手の超能力が分かった今、そして対処法がない今、視界の悪い内に逃げ出してぶつける事の出来る超能力者を連れてきた方が良い。だが、今のNPC日本本部の現状では、それは好ましくない。この班には幹部格が二人に、神威菜奈がいるのだ。ここで引いて、誰が相手をするというのか。

 だが、念の為。琴は携帯電話を取り出し、メールを送っておいた。確か彼は近場で任務にあたっていたはずだ。任務が終わっていれば、もしかすると。

 期待は抱かない。砂塵が捌けて視界が良くなる前の不意打ちで、奴を無力化しなければならない。時間は限られている。

「菜奈ちゃん。一撃で無力化出来る技ってあるかな?」

 琴が訊くと、菜奈は首肯した。

「ある。だけど効くかはわからない」

 分からない、というのは、ヒットさえすれば通るが、イザムの戦闘力の高さから避けられる可能性があるから、という意味である。その意味を組んだ上で、琴は指示を出す。

「距離はさっき言った通り、お願い」

 言うと、菜奈はうなずいて、そして、右手を振るった。するとその右腕から、真っ白な白い、ピンポン玉くらいの何かが真っ直ぐ飛んだ。

 それは何か、と目を疑ったが、琴も桃もそれを知っている。

 威力圧縮。恐ろしい程の威力を球体状に圧縮し、それを飛ばしてぶつける力。正確には威力を圧縮する超能力で、飛ばすのは力の応用である。

 それは砂塵の中、イザムに向かって真っすぐ、とても速い速度で飛んでいった。

 と、同時。琴達三人は後方へ数歩分逃げた。

 その直後、恐ろしい程の衝撃音、衝撃、そして、地鳴り。砂塵がそこだけ吹き飛んだのだろうが、琴達の前にはまだ、砂塵が漂っていて、視界が晴れる事はなかった。むしろ、吹き飛ばされてきた砂塵が目の前に増えた事で視界はさらに悪くなったように思えた。

 まるで巨大地震が来たかの様に地面が激しく揺れていたが、それは数秒で止んだ。その間も、琴は『視ている』。

「跳んだ? ……跳んだ! 右に跳んだ。けど、相手もまだ砂塵の中だ」

 琴が舌打ちをした。一撃、ミス。相手に存在を、近くにいるという事を気付かれた。

 イザムは飛んできた威力圧縮の球体を見て、一瞬で判断を下した。まず、避ける。地面を蹴って大きく左に飛んで再度砂塵の中に入って身を隠した。そして、その超能力を見て、確信した。

(神威菜奈の威力圧縮だな。当たりだ。ついてるぜぇ……)

 砂塵に紛れたイザムは辺りを見回すが、砂塵のせいで当然視界はない。イザムには切断の超能力しかない。視る力はないのだ。だが、ある程度接近されれば、イザムは気配で気付く事が出来る。ある程度だが、方向くらいは分かる。それだけの実力はある。が、まだ連中との距離は縮まっていない。

 入口付近が開けた。だが、琴達はそこを通ることは出来ない。イザムに近づく事になるし、イザムだってそれくらい把握して警戒しているだろう。

 琴の判断は早かった。

「右前方に七メートル。菜奈ちゃん!」

「うん!」

 追撃。菜奈の腕から威力圧縮の球体が跳ぶ。そして、即座に琴が先導して、移動を開始する。威力圧縮の飛んできた方向から位置を割り出されて接近されてしまうと面倒なことになるからだ。菜奈が威力圧縮を飛ばすと、琴達は右に駈け出した。今の攻撃をイザムが避けたとしても、その避ける方向は入口方面と予想できたからだ。もしイザムが琴達が移動した方に避けたら、入口付近が空いて琴達に逃げられてしまうからだ。

 案の定。琴達の目の前にイザムは現れなかった。イザムは先の威力圧縮の攻撃により視界が既に開けていた入口の前に戻っていた。直後、衝撃。地鳴りがする。自身の様な揺れと同時、先ほどまでイザムが立っていた場所一帯の砂塵が一気に捌けた。入口前と、その右側の視界が捌けて明瞭になった。

 視界の捌けた部分にイザムは視線をやるが、当然琴達の姿は見えない。

 入口前にイザムは留まり、辺りを警戒しながら詮索する。

(今のも威力圧縮だな。菜奈の存在は確定だろう。が、菜奈には視る超能力はない。それに今まで一応ながら神威家の娘として俺達よりは優遇されて協力な人工超能力を与えられて圧倒的な力でしか任務をこなしていない。戦闘経験と勘があいつには足りない。そんなアイツがこの砂塵の中で正確に動き回れるはずがないわな。もう一人、『視える』人間がいるな。千里眼とかか。これは誰でも構わない。戦闘用の超能力じゃない時点で対峙すれば俺が勝つ。だとしても、もう一人は戦闘用超能力を持った人間がいるな。そもそも、戦力ではない視る超能力者だけに複合超能力者の菜奈を見張らせるはずがない。NPC連中が圧倒的な馬鹿で菜奈を味方だと信じ切ってるならあり得るだろうが、あり得ないな。連中もプロだ。本当に菜奈が寝返っているとはいえ、疑いを消すにはタイミングが早すぎる)

 イザムの読みは誰にでも出来る読みだったが、判断が早かった。イザムには琴達が最悪逃げ出す選択肢を持ったまま砂塵の中を移動している事が分かっていた。

(絶対に逃がさねぇぞ。神威菜奈。千里眼はいたとして、イニスに残してやんよ。問題はいるはずのもう一人、だな。二人いるかもしれないが)

 イザムは睨む。問題は菜奈ではないと思っていた。狙いは菜奈だが、菜奈には勝てると踏んでいた。問題は、もう一人ないし二人。残りの人間が、イザムに対抗できる力を持っている可能性がある。先の二撃、どちらともが菜奈の攻撃だったのはその力をいざという時、もしくは接近した時まで隠している可能性がある。

 そう考えている間にも、イザムは次の一撃が飛んでくる前に右の方の砂塵の中に身を隠した。これで、威力圧縮の攻撃が飛んできても、避けてしまえば入口前から建物までのこの校庭の様な広いエリアの半分の視界が開ける事になる。

 案の定、左前方の方から威力圧縮の球体が恐ろしい程の速度で真っ直ぐ飛んできた。察したイザムがそれを避けるのは容易い。イザムは地を蹴って再度入口の前へと戻った。自身の左の方で衝撃音が炸裂し、砂塵が完全に捌けたのが分かった。

 威力圧縮の威力は恐ろしい。見た目からは推測できない程の威力を秘めている。当たればイザムといえどただでは済まない。が、当たらなければ何という事はない。

(さて、視界も大分よくなってきた。入口方面半分はもう砂塵はない。残りは施設側の半分に残ってる分だけだ。それにそっちも時間の経過と威力圧縮の衝撃で大分薄くなってきてやがる。見つけるのも時間の問題だ。逃げない所を見ると連中じゃあこの外壁は超えられないようだ。そろそろ、攻めても良いかぁ?)

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