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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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8.後天的超能力―14


 そして、振り下ろされる典明の右腕。典明の右腕が四十万の顔面を鷲掴みにした。そして、感電。四十万の体が跳ね上がる。目が飛び、口から泡を吹いて、そして、やっと、数秒の後に典明の右手が戻され、やっと、四十万の背中が床についた。

 典明は足元の四十万が動かなくなった事を確認して、やっと、彼女の首を潰していた足を退かした。

 四十万美緒、死亡。

 と、同時、中二階から二つの影が飛び出してきた。音に反応した典明が見上げると、見えてきたのは林檎と香宮の影。空中で態勢が崩れている。自分から飛び出したのではなく、飛ばされたのは見て分かった。

 そして、続けざまにもう一つの影が飛び出した。当然それは三島のその姿。態勢は崩れていない。彼は自ら、二人を追うように飛び出してきたのだ。

 典明を超えて床に落ちた林檎と香宮を無視して、典明は目の前に降りてきた三島と対峙する。

「ッ、」

「!!」

 距離はほぼ零。反応は同時、仕掛けたのも同時。

 典明の拳が三島の頬を狙い、三島の足が典明の足を狙った。

 衝突も同時だった。が、三島が一枚上手であった。三島は攻撃を受け流すように衝突と同時に首を動かした。だが、典明はそれが出来なかった。

 思いっきり横から蹴られた典明の足には激痛が走る。骨が折れる事はなかったが、態勢を崩すには十分過ぎる痛みだった。その痛みもあって典明の攻撃は尚更三島に通らなかった。

 典明が三島の目の前で膝をつく。そこに、典明の顔面に三島の膝が叩き込まれた。

 クリーンヒットというに十分な一撃。典明はそのまま倒れる様に転がり、たった今立ち上がったばかりの林檎達の足元に転がった。

 典明が立ち上がり、ゆっくりと接近してきている三島を睨む。

(攻撃に超能力の存在は感じられなかった。まだ、超能力を使ってないって事か。にしても、体術はすげぇな。一瞬手を交えただけだがぁ……こいつは面倒だ)

 典明が接近してくる三島を睨む。が、三島も典明を睨んでいる。

(四十万を殺した罪は大きいぞ。恭介君のお友達よぉ)

 三島は中二階から降りてくるその段階で四十万の死を目視で確認した。そして、典明が殺したのも分かっていた。フロアには蜜柑を除き二人しかいなかったのだから。一瞬で判断がついた。

 それに、四十万がフロアに降りてからの時間が圧倒的に短かった。典明が容赦なく四十万を殺しにかかったのは理解できる。

 ならば、こちらも容赦はしない。

 典明の体に稲妻が迸る。典明が前に出ようとした時だった。

 林檎が、典明を超えて前に出た。これは、判断。

 林檎の持つ人工超能力は超反射。先の三島と典明の一瞬の応酬を見て、三島の攻撃が肉体を使う普通の攻撃だ、と判断しての事だった。

 肉弾戦になれば、林檎の超反射によって相手の攻撃はすべて見切る事が出来る。例え林檎の攻撃が弱かろうが、相手の攻撃が当たらなければ何という事はない。

 林檎と三島が相対した――瞬間だった。

 三島の裏拳が、林檎の顎から頬にかけてを確実にとらえ、林檎を容易く吹き飛ばした。林檎の体は三島の一撃によって打ち上げられ、二、三回宙返りをして二メートル程の距離を空け、うつ伏せに床に落ちた。死んではいないが、戦闘不能。

 混濁する意識の中で林檎はパニックに陥っていた。

(どうして……!? 超反射は確かに発動していた。なのに、攻撃を避ける事ができなかったッ!!)

 この攻撃、何かがおかしい。林檎と同時に典明、香宮もそれを思った。それに気付いた。

(普通の攻撃だと思って対処しちゃいかんな……。霧絵の意識操作はまず当てにならないだろう。他の超能力でも対処が効くか?)

 仮にも典明と香宮は恋人同士だ。守る、という意思は操作されている中でもあるのだろう。典明は香宮を守る様に一歩分前に出た。

 三島は歩いて接近してくる。典明は達はそれを待ち構える。だが、攻めないわけではない。守りの態勢に入るわけではない。三島が接近してくれば、攻撃を仕掛ける気だった。

 そして、先と同時。三島が典明のすぐ目の前に迫った。

 炸裂。典明は今度は、雷撃を腕に宿した上で、三島に打撃を放った。だが三島は今度は、攻めなかった。まるで、攻撃を仕掛けるよりも前から、典明が攻めで来ると分かっていたかの如く、三島は守りに入っていた。

 典明の稲妻が宿った腕を下から掬い上げる様に、三島の腕が典明の腕に触れた。だが、しかし。

(こいつッ!! 感電しないだと……!?)

 雷撃が、効いていない。

 三島はそのまま典明の腕を組んでいなし、投げ飛ばした。そのまま横に飛んだ典明。典明が怯んでいる間に、三島は典明には目もやらずに香宮の前に立ちふさがった。そして、香宮を見下ろした。

 香宮は当然、彼を見上げて意識操作を発動させた。

 典明が立ち上がるまでの一○秒。当然、目が合っていた。だが、だが。

(意識操作が発動しない!?)

 意識操作は、効かなかった。

 そうだ、これが、三島幸平の超能力であった。

 三島はそのまま、ただの拳で香宮の頬を横から穿った。その攻撃を容易く受けた香宮は横に崩れ落ちる様に態勢を失った。

 だが、香宮も複合超能力者。三島の足元に落ちた香宮はそのまましっかりと三島を見上げて、睨んだ。

 そして、二つ目の超能力を発動。香宮の顔の横辺りから、小さな黄色い光が出現し、三島に向かってそれが数個飛んだ。

 閃光銃弾。相手を貫く程の物質ではない何かを飛ばす戦闘用超能力。

 だが、無駄。

 光り輝く閃光の弾丸は、三島にぶつかっただけで、消失した。

 これが、幹部格候補三島幸平。自身の超能力を把握した上で体術も他よりも学んで来た。

 三島には超能力による直接的な攻撃は効かない。何故ならば、それが超能力だからだ。

 ――能力否定。

 これが、三島幸平の超能力である。これもまた、珍しい超能力だ。郁坂家の持つ他人の超能力に干渉する超能力とは真逆の、超能力の干渉を許さない最強の対超能力用の防御型超能力である。

 そのまま、まるで仕返しをするかの如く、上体を起こそうとした香宮の鼻面を蹴り飛ばし、再度床に叩きつけた。そうしてから、三島が振り返ると、迫ってきていた典明と目が合った。

 ここまで来て、典明だって気付く。この男には、超能力の攻撃が否定されるのだ、と。

 つまり、そうなると、超能力での攻撃を当てないで倒せば良い。

 典明は不適に笑んだ。そして、懐からナイフを取り出した。

 これは、雷神同士がぶつかったあの立川での一戦で学んだ事。相手が超能力者だろうが、何だろうが、結局の所は人間だ。故に相対しても恐怖を感じず、戦おうと意思を持てる。

 そして、人間は、弱い。

 ナイフ一本で斬られた、刺されただけで重傷を負う。

 ジェネシスは武器の携帯を推奨していた。雷神同士の争いの中で、やはり物理的な武器が有効になると分かったからだ。

 典明はナイフを構え、その鋩を三島へと向けて、そして、思いっきり突き出した。

 三島は思わず目を見張った。まさか、武器なんて持ち込んでいるとは予想もしなかった。三島は超能力に対しては無敵だが、こういう物理的な、超能力に全く関係ない攻撃は防ぎきる事が出来ない。

「!?」

 勝った、典明は再度笑った。

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