第97話 身勝手なかなめ、絶望する誠
「そうだ、神前が使えるな。しかもあの反応……麗子の馬鹿は神前に一目ぼれをしたみてえだ。そこにさらに傷跡に塩を塗り付ける……そうすりゃあ、あの疫病神とも縁が切れる……我ながら一石二鳥のいいアイデアだ」
かなめの表情が悪意を込めた笑みに染まる。誠はそのおぞましさに身の毛のよだつ思いがした。
「西園寺さん、その顔何か考えてますね?しかも僕絡みで面倒なことを?面倒なことにいつでも僕を巻き込むのは止めてくださいね。西園寺さんの冗談は命にかかわる可能性が高いんで」
誠は恐怖に駆られながらかなめにそう尋ねた。
「アタシは甲武一の貴族だ。金はある。神前……いくら欲しい?」
かなめは誠のまったく予想の指定ない話をし始めた。
「は?なんで突然お金の話になるんですか?西園寺さんの金持ち自慢ですか?そんな事では誤魔化されませんよ」
かなめの突然の言葉に誠は言葉を失った。
「だからオメエを買うにはいくらかかるかって聞いてるんだ。今日、アタシはオメエを買うことにする。というかアタシの所有物にする。だからそのためにオメエがいくらもらえば納得するか聞いてるんだよ。言え、言わなきゃ射殺する」
かなめはそう言うと再び銃を取り出し躊躇することなく実弾入りのマガジンを挿入した。
「僕は商品じゃありません!甲武では人身売買は合法かもしれませんがここは東和です!僕にも人権が有ります!」
誠は必死になって銃口を向けて来るかなめに向けて叫んだ。
「オメエの人権?そんなものはアタシがアイツの妻になる屈辱に比べたら安いもんだ。と言うわけで金は払うと言ってるんだ。オメエはいくらだ?それにオメエをアタシのものにすればアタシは法術師になれる。オメエも常々嘆いてる死ぬまで童貞という境遇から脱出できる。すべてが丸く収まるわけだ。なんか文句があるか?ねえよな?当然だよな?何しろこのアタシが言ってるんだから」
かなめは無茶苦茶な理屈をこねて銃の引き金に指をかけた。
「かなめちゃんの言ってること滅茶苦茶!そんなの私達が許すと思ってるの?誠ちゃんはおもちゃじゃない……ああ、おもちゃだったわね。でもみんなのうちの隊の女子のおもちゃであってかなめちゃんの専有物では無いわ!」
アメリアは反論するが誠から言わせるとアメリアの反論は論点がどこかズレていた。
「アメリアさん!なんでおもちゃな部分は否定しないんですか!僕は人間です!おもちゃじゃありません!」
誠はアメリアのどこかズレたかなめへの反論に涙ながらにそう叫んだ。
「いいえ!誠ちゃんはおもちゃです!立派なおもちゃ!運航部の女子もみんなそう思ってるわよ……ああ、いいこと思いついた!」
アメリアに反論しようとする誠に背を向けたアメリアは携帯端末を取り出すと何か入力を始めた。
「そんなこと言いだしたのはどうせアメリアさんなんでしょ?アメリアさんとかえでさんで僕の大事な部分をリアルに再現した変なものを作って売って回ってるそうじゃないですか!そんなこと許されると思ってるんですか!」
誠は真っ赤になって反論したがアメリアは携帯端末の操作に夢中でそんな話は一切聞いていないようだった。
『僕の周りの女性はみんな勝手なんだ。この環境……ある意味地獄だな。いっそのこと『将軍様』の婿にでもなった方が……でもあの人の会話に一日中ついていくのもある意味地獄だ。ここはどこなんだ……『生き地獄』なのか?』
誠はここにいる女子には絶対利かせられないような内容の妄想に囚われて頭を抱えた。




