第92話 『駄目人間』の減らず口
「ここは俺の部隊。どんな隊長室にしようが俺の勝手だ。ここは俺の部隊。そしてここは俺の部隊長の部屋。そこについて他からどうこう言われる筋合いなんて誰にも無いの。分かった?」
嵯峨は勝利を確信してそう言い放った。
「まったく……これでは甲武の恥です!」
明らかに不機嫌そうな表情を浮かべて麗子はそう言ってため息をついた。
「別に一般公開されてるわけじゃねえんだから恥はねえだろ?ここがどんなに汚かろうが麗子には関係無いと思うけどな」
そう言うと嵯峨は再びスナック菓子に手を伸ばす。
「よくこんなところで食べ物を口に……」
麗子の軽蔑の視線はさらに冷たさを増した。
「菌は入ってねえよ。しけっていても腹は膨らむ。入ったところで人間そう簡単に死なないって……まあ俺は不死身だけど」
いつもの調子の嵯峨に誠はせっかく上がった部隊の株が急降下していく様を見つめるだけだった
「それよりご苦労さんだな。監査とか面倒だろ?」
嵯峨の策はこの汚い部屋を見せびらかして一刻も早く面倒な麗子を部屋から追い出そうとしているのだとこの場に居る一同は理解した。
「この部屋で息をすること自体が面倒ですわ」
麗子は汚いものを見るような目で自然体でお菓子を食べている嵯峨にそうつぶやいた。
「そう言いなさんな。軍なんて言うものはキツイ・汚い・危険の三拍子そろった職場だぞ。死人の腐敗集の中じっと敵を待ち伏せしたりとか、他に飲むものが無くて戦友の血を飲んで渇きをしのぐだの出来なきゃ立派な武門の棟梁にはなれねえよ」
嵯峨はそう言って目の前の哀れな闖入者をあしらった。
「それはそうなんですが……」
麗子も嵯峨にそう言われてしまえば何も言い返すことはできなかった。
「じゃあ、勉強になったろ?帰って良いよ」
そう言うと嵯峨は誠達に背を向けてタバコに火をつけた。
「叔父貴……もっと言いようがあるだろうが」
嵯峨のあまりにも淡白な物言いにさすがのかなめも苦言を呈した。
「かなめ坊。俺の言葉に間違いがあったか?俺は事実を言っただけ。戦場なんてそんなもの。代々、司令室の片隅でデータばかり見てきた軍人さんとは俺は相性が合わないの」
背を向けたまま嵯峨はかなめにそう言って部屋を出ていくように手を振る。
「仕方が無いわね……じゃあうちで一番問題ありそうなところに行きましょ」
アメリアは気を利かせてそう言うとドアを開いた。
「失礼しますわ」
麗子は不機嫌そうにそう言うとアメリアに続いて隊長室を後にした。




