第88話 隠しようがないカオスな展開
「準備できたわよ!入っていいわよ」
しばらく待たされた後、中での大騒ぎの音が終わったと、運航部の部屋から顔を出したアメリアを見ると麗子は咳払いをしてそのまま部屋に入った。
「やっぱり片付けたんですね……でも僕から見たら焼け石に水ですけど」
奇麗好きの誠はいつも飾られている映画に使った衣装のマネキンやギャグに使うタライや一斗缶が目につかないのを見てそうつぶやいた。
「どう、ちゃんとしたもんでしょ。私達だってやればできるのよ」
ピンク色の髪の『ラストバタリオン』運用艦『ふさ』の管制官であるサラ・グリファン中尉が部屋の中央で胸を張った。その背後ではあきれ果てたというように艦の副長でいつもアメリアやサラなどの運航部の女子達の起こす大騒動の後始末にてんてこ舞いの苦労人であるパーラ・ラビロフ大尉ため息をつきながらサラとアメリアを見比べていた。
「自慢になるかそんなこと!紺ぐらい片付いてるのが普通なんだ!机の上に神前のアレをかたどったかえでやアメリアが業者に頼んで大量生産させて売っているものが平気で転がってる職場なんて宇宙の他のどこを探しても一つもねえ!それにアレは麗子も見慣れてるから全然フォローになってねえんだ!」
かなめは明らかにやっつけで片づけたことが分かる部屋の隅の布をかぶせた怪しげな物体や何かをまとめて放り込んだ段ボールの山を見てそうつぶやいた。
「田安中佐、ようこそ。つまらないところですがくつろいでいってくださいね」
水色のショートカットの士官、パーラはそう言ってきょろきょろと部屋を見回す麗子に声をかけた。その声からしてパーラも十分麗子の常識知らずは認識しているようで口元はいつもには無い引きつりがあるのが誠にも見て取れた。
「これはパラダイスですわね」
麗子は手を腕の前に組んで満面の笑みを浮かべてそう叫んだ。かなめはその顔を見て明らかに麗子の女好きのスイッチが入ったのだろうとため息をついた。
「パラダイスだ?だろうな、お前さんは奇麗なねーちゃんが好きだもんな。まあ、オメエには残酷な現実だがうちの馬鹿女共でもオメエの相手をするような酔狂な馬鹿は一人もいねえがな」
確かにどれも20年前の大戦で『民族を象徴する美』を形作ろうと敗戦国『ゲルパルト第四帝国』が国の威信をかけて製造した戦闘用人造人間の美女ぞろいの運航部は麗子にとってはパラダイスなのだろう。しかし、アメリアから麗子について何か吹き込まれているブリッジクルーの隊員達は麗子から距離を取っていた。その様子を見て誠はここまで誰からも馬鹿にされている麗子が可哀そうになってきた。
「聞いていたのとは違って……ずいぶん静かですわね。本局では『馬鹿女の集団』と言って笑いものにしていますが、おしとやかなヨーロピアン美女の巣窟では無いですか?どこが馬鹿女なんですか?かなめさん、妻ならば的確に夫である私に説明してみなさい」
周りの明らかにアメリアから麗子は女好きの馬鹿と聞いていていつもと違いまるで大人しい隊員達の様子を不思議に思ったのか麗子はそう言って小首をかしげる。
「どんなふうに聞いてたんだ?コイツ等はオメエを警戒してるんだ。それに『馬鹿女の集団』だ?その『馬鹿女』の中にはアタシも入ってるんじゃねえだろうな?言ってみろ」
かなめは不機嫌そうにひたすら恍惚の表情を浮かべて悦に入っている麗子に声をかけた。
「なんでも仕事そっちのけでエロゲ製作や演芸会の練習ばかりしていてろくに仕事もせずに遊んでばかりいるとか……まあ、私の側室候補がこれだけいるというのは……妻であるかなめさんもうかうかしてられませんよ。早く子をなしなさい。私もその時はあなたの子を孕むつもりです。夫として同じ日に一緒に子を産み、田安家、西園寺家の家を盛り立ててまいりましょう」
麗子は机にかじりついて彼女と関わり合いになるまいと頑張っているアメリアの部下達の顔をいちいちのぞき見る。彼女達も下心丸見えの麗子の視線を迷惑に感じているようで麗子が隣に来るたびに顔を背けて端末で管理部から押し付けられたデータ入力の仕事をしていた。




