第87話 カオスの場『運航部』へと一同は向う
「それにしても気に入りましてよ、司法局実働部隊。司法局一の実力機動部隊の名は伊達ではありませんのね。それでこそ私の妻が務める部隊……そして神前曹長……いいえ、初めて私が心を許した男……誠様が居る部隊……これは最高評価をつけるしかありませんわね。かなめさん、妻としては失格ですが、誠様が居るので許して差し上げます」
誠のおかげで麗子の中でこの『特殊な部隊』の株は急上昇しているようだった。その様子に誠達は胸をなでおろした。それと同時に厄介な人間に好かれてしまう自分の体質を誠は呪った。
「神前のおかげだな……これでうちの株も上がる。評価されることは良いことだ。だが、田安中佐。神前を貴様に渡す訳にはいかない。貴様のような馬鹿の傍に居れば神前に馬鹿が伝染る」
カウラはその純情さから敵意丸出しに誠に甘い視線を送る麗子に向けてそう言い放った。
「そうか?麗子に褒められても誰も得しねえと思うけどな……褒められるのは悪い気はしねえが……それと神前はうちの隊の女子の所有物だ。本局勤務のオメエが手を出していいもんじゃねえ!」
麗子に個人的な感情で敵意を見せるカウラにかなめは麗子が男に好意を持つという初めて見る光景に警戒しながらそう言った。
「じゃあ次は運航部か。あそこに行けばさすがの馬鹿の麗子もうちに愛想が尽きて逃げ出すだろう」
かなめの表情には焦りの色が見えた。自分にしか好意を持たない女性にしか興味のないはずの麗子が今、誠に興味を持ち始めている。その事実がかなめを一分でも早く麗子を隊から追い出したいという欲求に駆り立てていた。
「やっぱりそうなるのね……ああ、良いのがあった!アレをあの馬鹿な将軍様に使ってあげましょう!」
シミュレータルームを出ていこうとするかなめに向けてアメリアはため息交じりでそうつぶやいたあと、何か思い出したように手を打って薄ら笑いを浮かべた。
「運航部は美女ぞろいと聞いていますわ……楽しみですわね……でも今、私は運命の殿方である誠様とお会いしてしまった……ああ、なんと言うことでしょう?美しいということは罪なことですわね」
女好きの麗子らしい反応とどうやら自分が変な女にロックオンされたという事実に誠は苦笑いを浮かべた。
廊下は相変わらず寒かった。誠達はシミュレータルームの隣の扉の前に立つ。
「じゃあちょっと準備するから。私が良いって言うまで入ってこないでね」
アメリアは運航部の女子の滅茶苦茶ぶりを見せつけて唖然とさせて隊を追い出したいかなめの意図を察してなんとか部の内部に置いてある変なものを片付ける準備をするべくかなめに向けて警戒するようにそう言った。
「何すんだ?何をしてもオメエ等がアホなのは見ればわかるんだ。諦めろ」
かなめは時々運航部の部屋の滅茶苦茶さを見ているので呆れてそうつぶやいた。運航部は女子ばかりで全員が戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成されているが、『面白ければ全てよし』の方針で部を運営しているアメリアの洗脳で運航部の女子達は女に飢えているはずの整備班員の野郎共さえ近づかない『女の園』となっており、誠のその内実はあまり知ることが無かった。
「いろいろと片付けるんだろうな。ただ、いる人間の脳が腐っている以上、いくら表層を取り繕ってもどうすることもできない。そのくらいのことはアメリアにも分かるはずだというのに」
カウラは同じ『ラスト・バタリオン』でありながら、すでに人間失格のレベルにまで落ちている運航部の女子隊員の脳内を想像してため息をつく。
「運航部は全員戦闘用に作られた人造人間の『ラストバタリオン』の女子隊員で構成されているんですよね」
カメラを確認しながら鳥居はそう言って部屋に滑り込むアメリアの背中を写真に撮った。
「まあな……東和でアメリアと気の合う人間となると限られてるからな……普通の人間は耐えられる環境じゃねえ。生まれなんてものがどれだけ無意味で環境一つで人間がどれほど変わるのかという実験がこの部屋の中で行われている。しかも最悪の結果がこの中に有るんだ」
かなめは複雑な表情を浮かべながらそう言って閉まった扉を見つめていた。




