第86章 奇妙な友情そしてまた発動した誠の『変な女にフラグが立つ現象』
「なかなかやりますわね……神前曹長は射撃は苦手と聞いていましたもの……格闘戦は得意と言う裏返しですわね。それにあなたは珍しい体質の持主ですわね。私、男性を見ると鳥肌が立ちますのにそれが立たない。不思議なこともあるものですわ……こんな男性に出会ったのは初めてです。なんと言うことでしょう」
シミュレータから出た麗子はそう言って苦笑いを浮かべる誠に右手を差し出した。その笑顔に誠はただひたすらかなめの射殺から逃れたという安心感だけに囚われていた。
「これでも一応本職のパイロットなんで……僕には格闘戦しかありませんから」
誠はおずおずと右手を差し出し麗子と握手をした。麗子の瞳がまるで初恋の男性に出会った時のそれ、すなわちかえでが誠に向けているそれと同じものであることを鈍い誠は気づかなかった。
「なんだなんだ……素人相手に苦戦しやがって……負けたら射殺だったのによ。久しぶりに人が撃てる機会を無くしちまった。損した気分だぜ」
そんな誠を殺す気満々だったかなめの声を聴いて誠は冷や汗を流した。
「そう?予備パイロットの私から見ても本職じゃない割に上手かったわよ、田安中佐の操縦。それにかなめちゃんだって初戦のシミュレータでは誠ちゃんに負けてるじゃないの。格闘戦限定で。あんまり人の事をどうこう言わない方がいいわよ」
かなめとアメリアは管制室から出て誠達を見つめていた。
「さすが中佐は何をやらせても一流でらっしゃる。この鳥居、ひたすら感服させられました!さすがは中佐です!お仕えしてきたかいがあります!」
鳥居は感動したように麗子を見つめていた。その疑うことを知らない純朴な笑顔に誠は少し好感を持った。
「当然ですわ……武門の棟梁たるもの武器の扱いに精通していなければなりませんもの。あの暴走した身分の低い士族の反乱を軽く粉砕した神前曹長にはさすがに負けますけど……ああ、なぜか心が神前曹長から離れることが無い……私にはかなめさんという妻がいるというのに……初めて殿方に魅力というものを感じてしまった……この思いどう説明すればいいのかしら……」
麗子は身もだえながらそう言って甘えるような視線を誠に向けてきた。
『この視線……あのかえでさんが僕に向けてくる視線と同じだ……ということは?もしかして?いや、これ以上面倒なことは御免だ。なんで僕に好意を持ってくる女性はどこかしら性格や人格に問題が有るんだ?僕は何か前世で悪い事でもしたのか?これが僕が望んだハーレムエンドなのか?こんな人格破綻者の女性ばかりに囲まれたエロゲのハーレムエンドなんて聞いたことが無いぞ』
誠は麗子の酒も飲んでいないというのに酔ったような目で誠を見つめてくる視線からわざとらしく目を逸らした。
「まあどう考えても神前が不利な状況を設定してあったからな。それで互角だった。つまりそれだけ神前が成長しているという証だ。私は小隊長として誇りに思う。そして思いを寄せる女として……」
得意げな麗子に向けてカウラは小声でそうつぶやいた。誠はこれが時々闇金にまで手を出してパチンコを打つ依存症患者の言う言葉でなければ最高の気分になれるだろうと考えていた。




