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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第十七章 『将軍様』と落ちこぼれ

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第84話 自信過剰な『公方様』

「準備はいいですか?」


 誠はいつもの手順でシミュレータに乗り込んでシートベルトを締めると画面の中で余裕の表情を浮かべている麗子に声をかけた。


『こう見えても海軍兵学校ではアサルト・モジュールの操縦は得意でしたのよ!かなめさん!見てらっしゃい!夫がいかに有能なパイロットであるかということを!そしてあなたは私に惚れ直して妻であることを誇りに思うことでしょう!』


 相変わらず意味不明な言葉を叫びながらはしゃぐ麗子を見て誠はただやる気も無くシミュレータの設定を続けていた。


『本当かよ。そんな話聞いたことがねえぞ。アタシが聞いてた限りでは神前と同じで『格闘戦以外は並以下』って話だったぞ』


 管制室のかなめが麗子の高慢な態度を鼻で笑っていた。


 麗子はひたすらシミュレータの火器管制システムが簡素すぎるのに困惑しているようで必死になって照準器の存在を確認していた。


「これは05式ですから……『火龍』みたいに肩にレールガンは無いですよ。だから、モニターの中に投影される照準システムを使用して射撃を行うんです。『火龍』みたいに単体の照準器はどこを探しても有りませんよ」


 誠は麗子が現行の甲武国の主力シュツルム・パンツァーである『火龍』の操縦経験しかないことを麗子の慌てぶりから理解した。


『分かってますわ!あの刀を振り回すと邪魔になる方の大砲が無いから格闘戦の自由度も高い……ああ、神前曹長は格闘戦の名手でしたわね。まあそこに気づかせてあげたのも私の気遣いあってのこと……手加減はしなくてよろしくてよ!全力で私を倒す気で向かってきなさい!』


 高慢な態度の麗子にいら立ちを感じながら誠は苦笑いを浮かべた。


『手加減しろって言われても……射撃はたぶん僕より上手いだろうから距離を取ってあげた方がいいのかな?でも負けたら西園寺さんに殺される……あの顔はマジだった。手加減なんかできない。僕は殺されたくないからな』


 そう考えながら誠は起動準備を進める。シミュレータ内部の重力制御装置の圧迫感が先ほど食べたサンドイッチを胃から食道へと逆流させるのに誠は必死に耐えていた。


『いつでも良くってよ!かなめさん!夫の勝利を妻として祈ってくださりますよね?』


 意外に手慣れた麗子の起動操作を見て誠は少し彼女を見直した。


「準備が良いですね」


 かなめに殺される恐怖で設定に手間取っていた誠はようやく設定を完了すると震える言葉でそう言った。


『常在戦場がモットーですの。それより神前曹長、声が震えてましてよ、大丈夫ですの?』


 麗子は誠がどんな心理状況に置かれているのかを全く理解していない顔でそう言った。


『常在戦場って……オメエみてえな無能が戦場に出るようになったら甲武も終わりだ……将軍様はどっかと本陣に座ってるもんだ』


 得意げな麗子にかなめが冷ややかな笑みを浮かべてそうつぶやく。


「準備終わりました!」


 誠はそう言うと操作レバーに手を伸ばした。


『戦場は地上だ。ベルルカン中央部の砂漠というシチュエーションで行く』


 カウラがそう言うとシミュレータの画面が一面の砂丘で覆われる。


『砂漠か……砂漠なら障害物も無いから飛び道具が有利だもんな……手加減する必要も無いかも……でも射撃の的になる……そしてそのあと僕は西園寺さんの射撃の的になる運命……最悪だ』


 誠はカウラ達の配慮を察しながらも自分を待つ過酷な運命に恐怖していた。


『05式の手持ちの武装は……230ミリカービン……威力は……まあ『火龍』のレールガンには劣りますわね』


 麗子は装備を確認しながら一人納得がいったような顔をしている。


『状況はつかめた?』


 これまで黙っていたアメリアが急に画面に大写しになる。


「分かりました!」


『よろしくてよ』


 誠も麗子も緊張した面持ちでアメリアに視線を向けた。


『それでは模擬戦開始!』


 カウラの第一声に合わせて二人は操縦桿に力を込めた。



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