第81話 甲武の下級士族の東和での暮らし
「でもおいしかったですよ。自分は東和に来てからはいつもコンビニ弁当かカップ麺なんで本当にごちそうさまです」
さも満足そうにぼさぼさ頭の下のかわいらしい顔に笑顔を浮かべながら鳥居はそう言った。
「そんなんじゃ栄養が偏るじゃないの……そんなんで大丈夫なの?あの馬鹿の相手は相当ストレスたまるでしょ?栄養には気を付けないと」
アメリアは嬉しそうな鳥居にそう言って笑いかける。
「こう見えてもアパートでは自炊をしてるんです。幸い麗子様のおかげで仕事が早く片付くことが多いんでちゃんと三食食べられてますよ。でもカップ麺……便利ですよね。あんなおいしいものがすぐにできる。甲武じゃ考えられません」
得意げに鳥居はそう言ってほとんどトレードマークと化してきた旧式の大きすぎるカメラを弄り始めた。
「まあ、仕事が片ずくも何も仕事がそもそも来ないの間違いじゃないのか?それとカップ麺が好きならうちの隊長と気が合うかもね。お蔦さんが来てからカップ麺が食べられなくなったって愚痴ってるもの。良いじゃないの朝はお蔦さんが作ってくれるし、昼はお蔦さんの愛妻弁当。夜は月島屋でのまかない。これまでの食生活が異常すぎたのよ」
笑顔の鳥居にカウラは少し皮肉を効かせてそう言ってみたが鳥居にはまるで聞こえていないようだった。
「それにしても冷えますね……甲武は人工環境なので冬の設定期間でもここまで気温を下げることは有りませんよ。そんな事をしたら最底辺の平民はみんな凍死してしまいますから」
鳥居はそう言いながら制服の襟元をただした。
「ここは東和だもの。天然の冬はこんなものよ。ゲルパルトはテラフォーミングした環境だから季節は有るわよ。確かにこんなに寒暖差の激しい物じゃないけどね……春の来ない冬は無いわよ」
アメリアはいかにも自分は良い事を言ったというように胸を張った。
「良いことを言うな……いつもは変なことしか言わないアメリアの割に」
カウラはアメリアのたわごとに振り回されてばかりなのでチクリと刺すようにそう言った。
「カウラちゃん聞こえてるわよ。私だっていつもふざけてばかりじゃないのよ」
アメリアの方は相変わらずの地獄耳だった。誠は苦笑いを浮かべながら階段を降り切るとハンガーへとつながる扉の前に立った。
「じゃあ開けるぞ」
そう言ってカウラは扉の開閉ボタンを押す。寒風が本部棟のわずかな暖気も押し流して寒さが一段と身に応える。誠は彼の機体をこの寒空の中整備しているつなぎの整備班員達に感謝の意味を込めた笑みを浮かべながら歩き続けた。




