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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第十六章 『将軍様』の居ぬ間に

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第75話 甲武国貴族の暮らし

「話は変わるんだけどさ。沙織ちゃんを見ていてずっと気になってたことが有るのよね」


 場の雰囲気を変えようというようにアメリアは明るい口調でそう切り出した。


「なんだよ、改まって。オメエが気になってること?そんなことアタシが何で聴かなきゃなんねえんだよ」


 かなめはどうせろくなことを言い出さないアメリアを警戒するような視線で見ながらそう言った。そんなかなめを完全に無視してアメリアはいつもの糸目で鳥居を見つめた。


「沙織ちゃんはその恰好、そのまるで人目を気にしていないような髪型。つまりは甲武の普通の庶民なのよね?」


 アメリアはにこやかな笑みを浮かべながらかなめと鳥居を見比べる。


「士族は庶民じゃねえよ。士族はサムライだ。甲武で庶民と言ったら平民のことを指すんだ。そんな事も知らねえのか?ロールアウト時に甲武の社会情勢はオメエの頭にインプットされてたはずだぞ。庶民と言ったら平民の中でも食えねえ連中の事を言うんだ。平民でも会社をやってたり大地主だったりする連中がいるからな。連中は下手な貧乏貴族よりよっぽど金を持っている」


 かなめは明らかに不服そうにそう言うと鳥居に目をやった。


「そうですね……士族と言ってもとりあえずその恩恵で優先的に軍に入れてもらえるくらいしかできないくらいの身分ですから。豊かでない甲武国の軍の下士官なんて給料なんて知れてますし。武士は食わねど高楊枝って亡くなった父も言ってましたから。下級士族とは言え下駄を履かせてもらって軍に入れた私なんか……」


 どことなく寂しげな表情が鳥居の顔に浮かんでいた。


「そんなの関係無いじゃない。つまりはお金持ちでも身分で良い暮らしをできるわけでもないんでしょ?かなめちゃんみたいなお姫様って沙織ちゃんからどう見えるのかしら?うちの西君はまさにかなめちゃんが指摘する通りの貧乏な平民の出だけど、あの子は気を使って絶対本音なんて言わないから。そんな甲武の庶民から見た最上級の貴族の姿ってものを知りたいのよ。いわゆるちょっとした好奇心って奴」


 アメリアは屈託のない笑みを浮かべながら尋ねてくる。


「確かに麗子様にお仕えするようになってからは『徳川譜代』の偉い貴族の方々とよくお会いする機会も有るのですが……まあ西園寺様は……これまで会った貴族の方とはかなり違うような……こんなに乱暴な口の利き方をする方は一人もいませんでした」


 鳥居はそう言いながらサンドイッチを口に運んだ。


「言うじゃねえか。アタシが口が悪いのは親父譲り。ラジオやテレビが無い甲武じゃあの親父が国会で野党の貴族主義者を言い負かしている時の口調なんて流れねえからな。そん時の親父の口調はアタシのよりもっと汚ねえぞ。アイツは外交官で上品な言葉も使えるが、うちに帰るとべらんめえの典型的な江戸言葉で話す。西園寺家は代々そんな感じの家なんだ。それにうちの実家の西園寺御所には数万人の食客の平民が暮らしている。連中と大して似ていない暮らしをしていればそんな色にも染まってくるもんだ」


 かなめは自分の柄の悪さを全てを父親と居候の責任にしてとぼけて見せた。


「確かに見た目はそうだが、コイツにも貴族らしいところがあるぞ。こいつの吸ってるタバコは一本千円以上するんだぞ」


 カウラはそう言ってタバコのにおいの抜けないかなめを嫌な顔をしながら一瞥してそう言った。


「そんな高いんですか!一本千円……」


 誠は呆れたようにそう叫んだ。


「悪いか?アタシは貴族なんだ。それぐらいの贅沢をして何が悪い。他の事はどうでもいいがアタシは酒とタバコにはこだわるんだよ……どっちも地球の中南米の奴に限るな……土が違うんだ」


 かなめはそう言いながら厚焼き玉子を口に運ぶ。


「でも確かに田安中佐の何と言うか……貴族らしい貴族と言う雰囲気は西園寺には無いな。まあ有能無能は別として」


 カウラは淡々とそう言って見た目だけは上品な麗子を思い出した。



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