第72話 あくまでも主君を立てるあまりできの良くない家臣
「士族ってことはサムライなんですか?」
誠はとりあえずそう尋ねた。甲武と言えば『サムライの国』そう言う東和国民の典型的な発想が誠の頭にも有った。
「うちは下級士族ですから……出世の見込みもたかが知れてますし、給料もかなめ様みたいに官位のある人に比べたら……」
鳥居はそう言いながら少しうつむいた。
「身分制度が残ってる甲武の弊害だな。ここは東和だ。能力主義の国だ。もっと自信をもって生きた方がいい。ただ、その髪型はなんとかした方がいいな。これは軍人というより女性としての問題かもしれないが」
カウラはそう言って鳥居に笑いかける。
「そうよ、まああのお馬鹿なお姫様のあとをついて回るのはご苦労だけど仕事としては楽なもんじゃない」
そう言いながらアメリアは大柄な彼女から見れば小柄に見える鳥居の肩を叩いた。
「馬鹿だなんて……そんな。立派な方ですよ、田安中佐は」
鳥居はキッと目を見開いて糸目のアメリアをにらみつけた。
「アイツが立派?妙なこと言うじゃねえか。どこが立派か教えてもらおうじゃねえか。確かにアイツの胸はかえで並みにデカい。それ以外に何がある?」
先頭を歩いていたかなめがニヤニヤ笑いながら鳥居に近づいてくる。
「品があってたおやかで思慮深い方です」
鳥居の言う言葉に一同の目は点になった。
「思慮深い?アイツが何か考えているとは思えねえんだけどな……あと品があるんじゃなくてお高く留まってるって言うんだ、あれはアンなのは気に入らねえな。付き合ってやってるアタシも自分を褒めてやりたくなるねえ」
挑発するようなかなめの言葉に鳥居はさらに視線を鋭くする。
「いいえ!何も考えてらっしゃらないようでいて常に最善手を考えて行動されています!実際、あのお方のおかげでどれだけの命が救われたことか……」
笑い飛ばすかなめに鳥居はぼさぼさ頭を振り乱してそう反論する。
「そりゃアイツの『ラッキー』のなせる業だろ?ツキ以外にアイツに何か取り柄があるなんて聞いたことねえぞ……」
ムキになってにらみつけてくる鳥居をせせら笑うようにしてかなめはそう言ってタバコを取り出した。
「はいはい、喧嘩はよしましょうね……かなめちゃんニコチン切れなんでしょ?タバコ吸って来なさいよ。私達は第二会議室にいるから。早く行ってらっしゃい。イライラでまた発砲されたら迷惑だから」
空気を察してアメリアはそう言ってかなめを喫煙所に送り出した。
「西園寺は口が悪いからな。我慢してくれ。アイツはああいう奴なんだ。あの口の悪さは直しようがない」
カウラはそう言うと怒っている鳥居に静かに笑いかけた。
「麗子様は武門の棟梁にふさわしい方です。あのお方はいずれ軍でも出世して将軍になられます。その奥方に慣れるのですからかなめ姫は幸せな方です」
鳥居は真面目な顔をして一同を見回すと確信を込めた口調でそう言った。
「将軍ねえ……あの人に何か将軍らしい仕事が出来るとは到底思えないんだけど。お飾りの『征夷大将軍』だけで十分じゃないの」
深く考えまいというようにアメリアはそれだけ言って本部棟の入り口に入った。
冬の本部棟の廊下には寒風が吹いていた。




