第71話 名門の末裔とは言え結構厳しい甲武の身分制
隊のゲートでタクシーに乗り込む麗子を見送った誠達はある意味虚脱感に襲われた。
面倒な人間からしばらく解放される。全員の顔には徒労による疲労に満ちた笑みが浮かんでいた。
「やっと行きやがった……まったくアイツの妻?そりゃあ、アイツとはGⅠの度に寝てるのは事実だけどその時はアイツが主に妻役をしてるぞ……それを考えたらアタシが夫だ」
かなめはため息交じりにそう言って苦笑いを浮かべた。
「鳥居曹長。貴様はついていかないのか?」
カウラは一人取り残されたぼさぼさ頭の鳥居にそう言って笑いかける。
「呼ばれているのは麗子様だけですので……ここって食堂とかあります?」
鳥居は隊舎を見上げると申し訳なさそうにかなめに尋ねた。
「どうせかえでが持ってきたサンドイッチがあったろ?今日はアタシもそれでいいや」
かなめはそう言って本部棟に向けて歩き始めた。
「私達も食べていいの?かなめちゃんに作ったんでしょ……うちの寮のシェフ兼かえでちゃんの愛人が」
アメリアも呆れた調子でそう言うとかなめの後ろに続いた。
「いいえ、アメリアさん。たぶんあれはリンさんが作ったものだと思いますよ。シェフはああいった料理はあまり好んで作りたがらないですから。鳥居軍曹、日野少佐の副官の渡辺大尉は結構家事が上手いんだ……きっと気に入ると思うよ」
誠は気さくさをアピールしながら大きすぎるカメラを抱えてかなめに続く鳥居に笑いかける。
「それは助かります……私、実家に仕送りしてるんでそう言うのありがたいんです」
鳥居はそう言って誠に笑いかけた。
「なんだ?鳥居って言えば甲武の武家じゃあ名家だぞ。それが仕送り?変な話じゃねえか……アタシの知ってる鳥居は全部陸軍か海軍の佐官以上の階級でそれなりの給料もらってるぞ。退職したとしても軍人恩給の額はかなりのもんだ。それが仕送り?」
かなめは振り向いて不審そうに鳥居の顔をのぞきこむ。
「そんな……私の家は鳥居家と言っても分家も分家で。かなめ様の知っているような本家甲斐守鳥居家のような名門の鳥居家ではありませんよ……確かに一応士族の端くれですけど、父も定年を迎えた時の階級は少尉でしたから。その父が早いこと亡くなったもので弟達の学費とか私の仕送りと母の内職でなんとか賄ってるんです」
ぼさぼさ頭を掻きながら鳥居は恥じるようにそう言った。
「まあな、甲武の名門はやたら子だくさんで分家が乱立しているからそう言うこともあるだろうな。苦労してんだな……しかも上司がアレだろ?」
そう言うとかなめは関心を失ったというように足を速めた。




