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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第十五章 何の為に来たのか分からない『将軍様』

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第66話 困惑する整備班長

 誠達は05式特機が並ぶハンガーへとたどり着いた。


「これが05式特機ですのね……ずいぶん恰幅が悪いというか……デブですわね。私の国甲武国の誇る最新鋭シュツルム・パンツァー『飛燕』の流麗なフォルムに比べると見る影も有りませんわ。妻ならば夫の私の言うことに同意していただけますわよね?かなめさん」


 麗子は感心しながら周りを見回す。その奥には『武悪』が堂々と鎮座してその周りを手のかかるこの法術師専用機の周りを忙しそうに整備班員が走り回っていたが、とりあえず麗子にはそこには関心が無いようだった。そのあたりがいかにも麗子が馬鹿である証明だと誠は心の奥で思っていた。


「なんだよ……そんなに実機を見るのが珍しいのか?資料はさんざん見てるはずだぞ……監査に来たんだろ?それのこいつが太って見えるのは重装甲だからだ。甲武国軍には人命優先なんて概念はねえ。だから装甲を犠牲にしても運動性と機動性と航続距離は確保しようとする。05式はその中の運動性以外の要素は全て斬り捨てて装甲と火力にすべてを賭けて開発されたんだ。だからこんな形になったわけだ。デブとか言うようなつまらねえ表現はするな」


 かなめはそう言いながら機体を見上げる麗子に声をかけた。


 そこに整備を仕切っていた島田が顔を出した。茶髪のでかい態度の彼にそれまで澄んでいた麗子の瞳は一気に濁ったものに変わった。誠は麗子は男らしい男は明らかに嫌う同性愛者なんだといつも見慣れている誠以外の男は性の道具だと公言しているかえでを思い出し苦笑した。


「またお客さんですか……西園寺さん……『武悪』が来てからずいぶんになりますが……全く。この『武悪』と言う機体。手がかかるっちゃありゃしねえ。あれじゃあ甲武が手放したのも納得の機体ですよ。何かっつうとどっかしらトラブルを起こしてるんだ。こんな機体実戦に仕えるんですか?戦闘準備だけでも相当な時間がかかる代物ですよ」


 整備班長の島田正人准尉はそう言いながら照れ笑いを浮かべている。


「そんなのは分かってた事だろ?それより今の調子はどうなんだ?」


 麗子の扱いに疲れてきたのかかなめはそう言って島田に笑顔を向ける。


「どうだってねえ……『武悪』の扱いの難しさを知ってうちの兵隊がビビっちゃって……あんなの本当に現場に出すんですか?確かにデータ上はあの装甲と重量であれだけの運動性と機動性を実現するんですから脅威とは言えますが、アレは隊長しか乗れないんでしょ?この前試しに日野少佐に頼んでエンジン回してもらったんですが、エンジンのフローを亜空間に転移させる段階で日野少佐の法術師としての力でも上手く行かなかったんで……まったく、隊長は本当に『最弱の法術師』なんですか?あの人の事だから吹いてるんじゃないですか?」


 愚痴る島田を横に見ながら麗子はただ茫然と前を見つめていた。となりで鳥居が大きすぎるカメラで機体の写真を撮っている。


「それにしても今度のお客さんは突然のことですよね。朝もクバルカ中佐から面倒な人が来るから何とか世話をしてやってくれって言われたんですけど、うちは何時だって必要人員ギリギリでやってるんですよ。そんなことまで面倒みられませんよ」


 島田はそう言いながら鳥居が写真を撮っている誠の05式乙型を見上げた。


「まあな……監査と言うかなんと言うか……」


 そう言いながらかなめはそのまま奥に鎮座している『武悪』に足を向けようとする麗子の襟首をつかんだ。


「何をなさるの!妻なら夫の三歩下がって影すら踏むことも許されない。そんな常識もお分かりになりませんの?あの機体、資料には有りませんでした!監査なら確認するのが当然の職務です!」


 そう言って歩き出そうとする長身の麗子だが、かなめのサイボーグの怪力の前ではどうすることもできずにその場に立ち止まった。


「そっちは立ち入り禁止だ。法術関連兵器は下手に関わると痛い目見るぞ。それにこの『武悪』は書類上はうちの所有になってるが資産上は叔父貴の私物のはずだ。監査の対象じゃねえはずだぞ」


 かなめはそう言って必死に自分の手から逃げ出そうとする麗子の襟首をさらに締め上げた。


「そんなこと分かってますわよ!それになんですか!その態度は!それが夫に対する妻の態度ですか!本当にかなめさんには夫を敬う態度が見受けられなくて困ったものですわ」


 かなめにたしなめられて麗子は不機嫌そうにそう言って『武悪』に近づくのを諦めるとカウラの電子戦専用機体に足を向けた。



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