第63話 シュツルム・パンツァーが普及しない理由
上機嫌で歩く麗子を案内しながらかなめの表情は冴えなかった。
『となると問題は隊長の『武悪』か……アレは司法局の予算では無く隊長の荘園の収入で動いてる機体だからな。お金の流れが司法局でつかめないだけに監査の対象にはなるかも知れないな。上はどう考えて機体の配備を許可したんだろう?それに隣の工場にはデータ収集の名目でクバルカ中佐が遼南内戦で乗ってた『方天画戟』まである。何に備えてるんだろう?』
誠にもすぐにその気がかりに気が付いた。
『武悪』と『方天画戟』は『オリジナル・シュツルム・パンツァー』と言うジャンルに分類される人型機動兵器だった。
司法局実動部隊には既存の機体として鈍足の05式特戦4機が配備されており、専用の先行試作型を機動部隊長のクバルカ・ラン中佐が、狙撃特化型をかなめが、電子戦特化型をカウラが、そして法術師対応型の05式乙型を誠が担当していた。
誠が法術の存在を宇宙に響き渡らせた『近藤事件』の後、法術師であるクバルカ・ラン中佐の機体にはハニカム装甲内に法術増幅装置を搭載して誠の機体と同程度の法術対応装備が行われていたが、『武悪』と『方天画戟』はそもそも法術師が搭乗することを前提として開発された機体だった。
『武悪』は法術師である部隊長嵯峨惟基の専用機であり、麗子やかなめの母国である甲武国にて開発された機体である。
甲武国はその多くの住民が地球系で占められているので遼州人の数は少なく、法術師の数も当然少ない。純血の遼州人で法術師である嵯峨のようなパイロットはレア中のレアと言える存在である。
そもそも人型兵器の開発は遼州系では法術師の法術を効果的に発揮するために遼州人の国である遼帝国で始まったとされている。遼州人の歴史の専門家でもあった先の遼帝国皇帝の武帝が法術師の能力を増幅し効果的に戦闘を行う人型兵器の開発の可能性に着目したことから当時同盟関係にあった甲武国はその技術提供を受けてそれに乗っかる形で甲武国の人型兵器の開発は始まったと言われている。
甲武国の軍隊は『サムライ』の軍隊と称され、甲武国の軍人はすべからく『サムライ』であるべきとの思想から、甲武国は法術の有無よりも人型で格闘戦闘が可能なシュツルム・パンツァーをその主力の兵器として開発を進め、九七式特機という傑作アサルト・モジュールを先の大戦に投入した。
武帝存命時はその名称のシュツルム・パンツァーがドイツ語から来ているようにドイツ系移民を多く抱える国『ゲルパルト第四帝国』もエンジンや、アクチュエーターの開発技術を遼帝国や甲武国に提供したものの、自国は関節などの稼働部品が多く、稼働率が低くなるだろう人型兵器などの開発は当初から考えておらす、その装甲技術や対ミサイル・対ビーム兵器技術を取り入れた飛行戦車を開発して『第二次遼州大戦』に備えることとなった。
甲武国の開発した傑作シュツルム・パンツァー『九七式特機』は機動性と運動性を重視したその機体は地球との戦いで十分な戦果をあげたが、薄い装甲と人型特有の操作性の悪さと国力の貧弱さゆえの後継機体の開発の遅れなどから遼州系で甲武国と同盟関係にあったゲルパルト第四帝国などでもシュツルム・パンツァーの開発は実験程度しか行われなかった。
20年前の『第二次遼州大戦』では甲武国とゲルパルト第四帝国、遼帝国の属する『祖国同盟』と遼北人民共和国、外惑星連邦そして地球圏の『連合軍』が戦ったわけだが、その戦場の主力はなんと言っても緒戦の電撃戦で戦果を挙げたゲルパルト第四帝国の開発した『飛行戦車』だった。
地上を走る戦車並みの装甲と火力を持った飛行戦車は装甲らしい装甲を持たず、武装もミサイル程度しかない連合国の宇宙戦闘機や大気圏内戦闘機を圧倒した。連合国もその威力に脅威を感じて飛行戦車の開発に専念したが、甲武国や遼帝国の使用するシュツルム・パンツァーについては『関節部などの可動部分が多すぎて故障が多い使えない兵器』と判断してほとんどの国が実験段階で開発を中止した。唯一の例外は遼帝国と国境を接しているために遼帝国の情報に精通していた遼北人民共和国が『殲1』というシュツルム・パンツァーを開発し、少数戦場に投入したくらいでシュツルム・パンツァーは『第二次遼州大戦』の主力兵器にはならなかった。
そんな甲武国が九七式の後継機として開発を進めていた四式に法術対応装備を付けた『特戦開発計画』だったが、先の大戦には間に合わないどころか戦後20年近くたった近年になってようやく試作機をロールアウトし、そのテストパイロットとして嵯峨が選ばれ、嵯峨が命名した『武悪』は司法局実働部隊に引き渡されることになったと誠は聞いていた。
『方天画戟』に関しては誠もアバウトな説明しか受けたことは無いが、遼帝国滅亡後、遼帝国を継いで建った遼南共和国のトップエースであるクバルカ・ラン中佐の愛機として遼帝国崩壊後に起きた遼南内戦で活躍した機体とされていた。




