第56話 頭の残念な将軍様の頭の残念な家臣
「これは……西園寺のお姫様。ご機嫌麗しゅう。本日は田安中佐と一緒に一日お世話になりますのでよろしくお願いします」
麗子の『妻』扱いに怒り狂うかなめに向けて、カメラを左腕で抱え込むと女性下士官は必死の形相で敬礼する。ぼさぼさの頭とどう見てもかしこそうとは言えないもののかわいらしい顔立ちが特徴の小柄な女性下士官の姿は麗子とは対照的に誠達に好印象を与えた。
「いいんだよ気にしねえでも……麗子の部下だろ?苦労してんな。名前は?」
理解ある上官の風を装って右手を差し出すかなめに向けて女性下士官は相変わらず固い敬礼を続けていた。
「は!鳥居と申します!階級は曹長です!」
鳥居曹長はそう言ってかなめの顔色を窺った。
「鳥居ねえ……『徳川譜代』じゃよくある名字だ。あれか、麗子の被官の鳥居か?大名家の武家貴族の甲斐守の鳥居か?旗本クラスの上流士族でも何家か鳥居は居るが……大名クラスの武家貴族ならこんな馬鹿の相手なんかしない逃げ口上はいくらでも考え付くだろうから上流士族で仕方なく押し付けられたってところか?面倒な仕事ご苦労様だな。アタシなら二秒でやめる仕事だ」
かなめの言葉の意味を理解できずに誠はしばらく呆然と立ち尽くした。
「あれよ、田安家は武門の棟梁、徳川家の末裔だから……鳥居と言えばそれこそ『徳川譜代』では重臣中の重臣として知られているはずなんだけど……それが曹長ってことは……」
アメリアは上級士官だけあって甲武の内部事情にも詳しいのでそう言いながら首をひねった。
「神前と同じでどこか問題児なんだろうな。上司と一緒でどこか抜けているとか、なにがしかの問題行動があるとか。甲武の上流士族なら普通は士官学校に行くはずだ。曹長ということはそこに行っていないで軍に入ったということだな。つまり士官学校の受験で落ちたんだろうな……なるほど、馬鹿の相手にはちょうどいいと『徳川譜代』の連中は考えているらしい」
アメリアとカウラはそう言いながら誠を見つめてきた。
「僕ってそんな問題児ですか?僕にはそんな自覚は無いんですけど……」
自分の胃腸以外に思いつくところの無い問題児扱いに誠は戸惑いながら女性上司達を見回した。
「これだから誠ちゃんは何時まで経っても女性用大人のおもちゃなのよ。これまでも自分がした問題行動を思い出してごらんなさいな。そうすれば理由も自然と分かってくるから。あれだけ功績をあげながらいつまでたっても昇進できない理由の」
アメリアはため息交じりに誠を見つめた。




