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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第十一章 残念極まりない『将軍様』

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第55話 風格ゼロの『将軍様』

 本部を出てゲートに向うかなめの表情がいきなり曇り明らかに絶望に包まれたようなものに変わった。


「居やがるよ……見たくもねえ顔だがちゃんと時間だけは正確なんだ。位置も正確だ……10センチ単位でズレてねえ。そこだけがアイツの取柄なんだがな」


 ゲートの向こう側に『彼女』と連れが立っていた。アジア系だが目鼻立ちがはっきりしたその顔は誠から見ても『美女』のように見えた。


 その『美女』の大きな目がかなめと出会うと一瞬で鋭い視線に変わる。


「かなめさん……遅いですわよ……26秒の遅刻ですわ。夫を待たせるなど妻としてはあるまじきこと。夫唱婦随という言葉はかなめ様もご存じですわよね。私の妻ならば夫である私を立てる。決して恥をかかせない。ましてや私は甲武国の武家を代表する『征夷大将軍』です。そのくらいのことは出来て当然ではありませんこと?」


 その女性、田安麗子はかなめに向けてそうまくしたてた。誠も言ってることが完全にずれていることを除けば長身のナイスバディの美女でどんな美男美女でも自分がモテないというコンプレックスで男女関係が疎遠になりがちな自分達遼州人とは違って恋愛に積極的な地球人の国の甲武の男なら誰もが声をかけるであろうレベルの美女にしか見えなかった。


「26秒って……秒単位で待ち合わせるって時間の感覚おかしくありません?」


 誠はその美女、田安麗子中佐の時間感覚に戸惑いながら平然と歩み寄っていくかなめに目を向けた。


「全く変わってねえなオメエは。それにアタシはオメエの妻じゃねえ!夫唱婦随だ?そんなこと知ったことか!オメエは四大公家第三位!アタシは四大公家筆頭!偉いのはどっちかなんて誰が見ても明白じゃねえか!」


 かなめはそう言うと長身の麗子の隣に立っている大きなカメラを抱えた女性下士官に目を向けた。


「麗子の部下か……大変だな。どうせ『徳川譜代』の名家の出でしかも出来が悪いからこいつの世話係を押し付けられたんだろ?この馬鹿の相手を一日中する仕事なんて同情しか感じねえな」


 とげとげしい視線を誠達に投げてくる麗子の隣で古ぼけたカメラを抱えている女性下士官にかなめは手を伸ばした。


「かなめ姫様。今日はよろしくお願いします」


 その小柄などこか抜けた感じがするショートカットのぼさぼさの頭の眼鏡女子の麗子の部下がかなめに頭を下げた。


「麗子。オメエの部下はオメエにお似合いだな。オメエもそんなに髪を整えたり化粧をしたりして気取らずに本性を現して馬鹿殿らしくしてろ。というか軍人は例え女とは言え勤務中は化粧なんてしねえもんだ。香りで集中力が削がれる。そん時何かあったらどうする?あの身なりに気を遣うアタシの妹も勤務中はすっぴんだ。そんぐらいの事は軍人の常識だ。武家の棟梁、軍人の象徴『征夷大将軍』なんだろ?そんな当たり前のことも知らねえとはいつも呆れてばかりだぜ」


 かなめは挑発するように麗子に向けてそう言った。かなめの指摘するように麗子からはいかにも上品な貴婦人が好みそうな香水がきつい芳香を放っていた。


「まあ!そんなことをおっしゃるのですか?いみじくも夫に対してそんな態度をとる妻が有りますか!気遣いに長けた出来る夫を持ったと誇りに思い涙を流す。それが妻のあるべき姿です!そんなことも分からないなんてまったくかなめさんにも困ったものですわね」


 麗子はかなめの話を半分以上聞いていなかったことだけは誠にも分かった。


「だから妻じゃねえ!勝手にそんなことを決めるんじゃねえ!」


 もはやお約束となりつつあるかなめのツッコミにカウラもアメリアも麗子の脳内がどれほど残念なものかをこの数分で理解することが出来た。



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