第54話 同じ女好きなのに憎みあう女達
「西園寺。お前はなにか?お前の周りの女性はみんな女好きなのか?お前はそう言う星の下に産まれたのか?日野と言いその馬鹿と言いお前は両方と肉体関係にある。つまり貴様も女好きということだ。ちなみに私は違う。クラウゼはどうだか知らないが」
さすがのカウラもかなり呆れていた。
「カウラちゃんめちゃくちゃなこと言わないでよ!私は違うわよ!それともカウラちゃんもなの?」
勝手に同性愛者認定されたアメリアはそう猛抗議した。
「私は違うと言った!私は神前一筋だ!男も女も無い!」
カウラの言うことはうれしいのだが、こんな場面でそんなことを言われても誠はどう反応すればいいか分からなかった。
「お二人とも話題がずれてますよ……つまり、西園寺さんと田安中佐は好きあってるんですね?じゃあ、結婚してください。お幸せに」
誠はとりあえずそう言うと日頃自分に銃口を向けて来るかなめが泣きそうな顔をするのが面白くなってそう言った。アメリアとカウラの会話に誠も頭が痛くなってきた。
「だったら都合が良いじゃない。かえでちゃんも嵯峨家って言う四大公家の当主なんだし、家柄的にも問題ないじゃない。結婚すれば?甲武の上流貴族じゃそういう事は珍しくないんでしょ?そんな面倒な馬鹿なんてかえでちゃんのテクニックでエロい事しか考えられない体にしちゃえばいいじゃないの……でももう何回も寝てるんでしょ?それでもできないわけ?自称『史上最強の女王様』なんて名乗ってるけどどうやら口だけみたいね」
再びアメリアがとんでもないことを言う。だが、それを聞くかなめの顔は冗談を聞く顔ではなかった。
「神前、アメリア、いい加減にしろ。それと事前に警告しとくぞ。かえでの前で麗子の話をするな。逆も同様だ」
これまでの冗談みたいな話題を続けてきたかなめの表情が久しぶりに真剣なものに変わっていた。
「怖い顔して……その二人……二人の間に何があるの?男……じゃ無かった、二人とも女好きだったわよね。同じ女の取り合いでもしたの?」
アメリアの発想はかなめの述べる麗子像のひどさにだんだん壊れてきていた。
「そんなちっぽけな話だったらどうにでもなる。あの二人は……気が合わねえ」
本格的に深刻な表情でかなめはそう言った。
「気が合わない?それこそちっぽけな話じゃないか。本当にどうでもいいことだ」
カウラはそう言って呆れたように両手を広げる。
「だって、そうとしか説明がつかねえんだよ!あの二人の不仲ぶりは!お互い理由を聞いても『アイツは嫌い』としか言わねえんだ!それ以上はどちらも一切話さねえ!そんな状況他にどう説明しろって言うんだよ!」
かなめはそう言って苦笑いを浮かべる。
「何よ、それ。かなめちゃんお得意の縄で縛りあげて鞭と蠟燭で仲良くするように調教しちゃえば?出来るんじゃないの?」
そうツッコむアメリアに向けてかなめは呆れたような表情で返した。
「実際一回試したけど駄目だった。どっちもアタシの責めに喜ぶが次の日は同じように『アイツは嫌い』で終了だ。オメエだってゴキブリが嫌いなのに理由がねえだろ?それと同じだ。アイツらが仲が悪いことに理由なんかねえ!お互い嫌いなの!アイツらの前でそのことについて、一言だって話題に出すなよ……えらい目に合う」
興奮しながらそこまで言うと、かなめは黙り込んだ。
「なるほど……それで隊長とランちゃんはかえでちゃんが馬鹿な将軍様と出会わないように非番にしたのね……まあまだ第二小隊は機体も無いから証拠隠滅の必要もないしね」
アメリアはそう言って笑った。
「しかし、それじゃあ監査の意味が無いんじゃないのか?うちで一番司法局が問題にしているのは日野の素行だ。アイツが居なければ何を聞かれても知らぬ存ぜぬで切り抜けられるぞ。まあ、アイツが居たらそれこそ目の前で変態行為を始めるから監査以前の問題なんだがな」
どことなく不安げにカウラはそう言って首をひねる。
「いいんだよ。どうせ本局はあの馬鹿に期待なんかしてねえんだから!とりあえずアイツが自分勝手な報告書とやらを製造できるだけの証拠を揃えてアタシ等が付き合ってやれば終了!難しく考えるのはやめようや」
かなめはそう言うと立ち上がった。
「西園寺さん」
「時間だ!神前行くぞ」
戸惑う誠を振り切ってかなめは部屋を出て行こうとする。誠達は今一つ納得いかないというようにかなめの後ろに続いた。
二月も半ばの空気は凍り付くような寒さを誠達に与える。それにただ耐えながら誠達は本部棟から出て入り口のゲートに足を向けた。




