第47話 冗談のような本当の話
「そんなわけで所詮はインチキ貴族に過ぎねえアタシには『ほんまもん』の武家の棟梁『征夷大将軍』である麗子にはコンプレックスを感じてた。だからアイツが持ち前のラッキーで競馬に勝ちまくるのを指をくわえて見つめるのがいつものこと。その後もアイツが行きたい言うからホテルで寝てやってるのもそんなアイツの気まぐれに逆らえねえ血筋ゆえの苦悩なんだ」
かなめは複雑な表情を浮かべてそう言った。
「なんだよ、カウラ。まだ分からないみたいだな。アイツのラッキーと周りにもたらす不運が競馬なんて趣味的なもので終わると思ってるのか?」
かなめはさらに麗子の恐ろしさを付け加えようと話を続けようとした。
「じゃあなに?ほかにもあるの?それ以上何があるのよ。もうお腹いっぱいよ」
挑発するようにアメリアはそう言った。かなめは余裕の笑みを返す。
「まあ、あの馬鹿は海軍大学校をそのラッキーと成績を『徳川譜代』の連中が教師を脅してなんとか卒業した後、中佐になって駆逐艦の副長として遼州軌道の警備任務に就いたんだ。まさに親の七光りの典型だな。まあ、アイツの両親はアイツが生まれてすぐに事故で死んでるけど」
落ち着いた調子でかなめは切り出した。
「士官学校出たての新米がいきなり中佐になって駆逐艦の副長?凄いものね。アタシが東和海軍で護衛艦の副長になるまで何年かかったと思ってんのよ!」
アメリアは自分を馬鹿にされたように感じたらしく少し腹を立てながらそう言った。
「アメリアよ。アイツは田安家の跡取り娘だぜ。ああ、アイツの親父もお袋もアイツが小さい時に事故死してるから跡取り娘もなにもねえな。田安家は甲武の武家の棟梁、『征夷大将軍』だ。アイツがまともならいずれは海軍大臣ぐらいになって当然なんだ。まあ、駆逐艦の副長ぐらい妥当だろう?別に驚くような話じゃねえ。甲武は貴族制の国だ。『サムライの国』だ。その『サムライ』の頂点でる『征夷大将軍」なんだから駆逐艦の副長なんて当たり前すぎるくらいの地位だわな」
かなめの言葉に飲まれて誠達は静かにうなずいた。
「しかし、そこで奇妙な現象が起きた」
かなめの顔に突然緊張が走った。
「奇妙な現象?なんだそれは?それも田安中佐のラッキーと関係があるのか?」
思わせぶりなかなめの言葉にカウラが引き込まれる。それに待っていたかのような笑顔を向けるとかなめは話を続けた。
「あの馬鹿の艦は何ともないが、同じ作戦に従事する艦に必ずトラブルが起きる。エンジンが壊れた、砲塔が動かなくなった、補給物資が足りなかったといった具合だ。演習をするとアイツの艦以外は全部行動不能になっているなんてことは当たり前。殉死活動をすれば護衛のシュツルム・パンツァーが故障してそもそも発進できないなんてことも普通に起きる」
かなめの話す言葉の内容はもうすでにオカルトのレベルだと誠は思っていた。
「それが田安のお嬢様のせいだと?ただの疫病神じゃないの。迷惑なだけだわ」
かなめの言葉を鼻で笑いながらアメリアがそう言った。




