第46話 いい加減な家系図による『貴族制』
「地球に住む日本人たちはそれに飛びついた。白人やキリスト教徒に奴隷扱いされるのはもうこりごりだってな。200万の二つの核戦争を生き延びた日本人のうち180万人が甲武に移民した。甲武は『封建制』そして田安高家亡き後は『公家貴族制』を国の看板に掲げた国だ。入国の際に甲武は地球からの移民に家系図の提出を義務付けた。最初のうちはそれこそいい加減な家系図で貴族になった連中もいる。だが、貴族だけじゃあ国は成り立たねえ。そこで徹底的に家系図の偽造を取り締まり、血筋の正しくない家系図を偽造した連中を取り締まって『ほんまもん』の名家以外は全員明治時代に庶民に与えられた名字を取り上げて平民に落した。ただ、それ以前のどさくさに紛れて貴族や士族に入り込んだ連中が居るのも事実だ。そう言うアタシがまずそうなんだよな。藤原基。そもそもが愛媛県のミカン農家じゃねえか!親父も言ってた。俺があの『悪夢の21世紀』が無ければ甲武の貴族の頂点なんぞではなくって、今頃は愛媛県で農協の組合長でもしてたんじゃないかなって。実際アタシの実家の庭にはミカンの木がやたらある。それを弄るのが親父の最近の趣味。『これが本来の俺の仕事なんだ』って言ってるよ」
かなめのそう言う言葉にどこか安心した調子を感じたのは誠の気まぐれでは無いようで、かなめの笑顔はかなめが時折油断した時に見せる本物の笑顔だった。
「うちの『西園寺家』と西園寺基の次男が興した『嵯峨家』はどちらも偽物の貴族の家だ。一方、甲武四大公家第二位の『九条家』や馬鹿な麗子の『田安家』は『ほんまもん』の血筋だ。九条家は本来江戸時代は『摂関家』と呼ばれて関白太政大臣になる家柄で、西園寺家は江戸時代でも『大臣家』と呼ばれて本来は関白にはなれねえんだ。でも西園寺基はその仕組みそのものを変えた。四大公家第一位の西園寺家が関白を独占し、本来は関白になれるはずの九条家は関白どころか太政大臣にすらなれねえ。そんな仕組みを作ったのがアタシのご先祖の西園寺基とその息子たちだ」
そう言うとかなめは大きくため息をついた。
「なるほど。あの『官派の乱』で九条頼盛が西園寺家の攻撃の口実に用いた『分不相応な家の配置』という言葉はそう言う意味だったのか……九条家は常に西園寺家の上に立つ家柄である。だから貴様の父西園寺義基は排除されなければならない。そんなところに先祖の話を持ってこられるとは貴様も迷惑しただろう」
カウラはなんとなくかなめの言葉を理解したようにそううなずいた。
「うちの家はそもそも国の形が出来て貴族制が根付いて身分制度が固まっちまうと、そんなものに関心を持ってる当主が出なかったんだ。生まれた時から関白になることが決まってる。それに三代目が中国の故事にならって西園寺御所にはたくさんの芸人を目指す居候の平民や下級士族が長屋を作って暮らしてる。そんな環境で貴族制?やってられるかってわけだ。そんなに甲武四大公家二位の地位が気に入らないならいつでも譲ってやるよって言うのがうちのスタンスだった。でも九条家は貴族主義と伝統踏襲を家訓としていた。だから西園寺家を本気で追い落とすことは出来なかったししなかった。だから今でもアタシが甲武四大公家筆頭で甲武一の貴族様なんだ」
かなめはそう言ってため息交じりに周りを見渡した。




