第45話 時代を変えた歴史的な『茶』
「まあな、西園寺基……本来の名前は『藤原基』……そいつの本当の生まれはアメリカ信託統治領ジャパン愛媛郡出身のミカン農家の子倅だ。貴族でもなんでもない普通の農家の倅……とても名門だなんて言えた代物じゃねえ。こいつはアメリカが今でも引いている『ネオアパルトヘイト』で日本人である自分には選挙権も人権も無いという事実に気付いて14歳の時に地球を離れた。その後、そいつは地球圏の勢力下の植民惑星を流浪した。その結果、そいつが気付いたのは『文化』のもたらす政治的効果ということだった。アイツは自分が藤原姓だということから戦国時代に愛媛郡……戦国時代は伊予国と呼ばれていたな。そこを支配していた公家大名西園寺家の末裔を名乗ることで血筋をまず塗り替えた。そして、茶道、能楽、連歌、その他公家の教養を学ぶことで当時独立戦争で台頭しつつあった初代遼帝国皇帝で当時はただの遼の六国の崇拝を集める巫女の村の生き残りに過ぎなかった遼薫とそれを旗印に遼州人の半地球勢力として戦っている軍閥に近づいたんだ」
かなめは静かな調子で誠には理解不能な遼州独立戦争時の話をした。なぜか東和共和国では遼州の歴史は一切教えない。遼帝国などただの農業だけが取り柄の貨幣経済すら通用しない後進国で、そんな歴史を教えても仕方が無いと社会の教員が言っていたのを誠は覚えていた。
「藤原基はその文化的知識と巧みな弁舌を軍閥の幹部となにより遼薫に気に入られて他の軍閥への軍使として活躍し、次々と同盟や服属を命じてその多くを成功させて頭角を現した。その藤原基の一番の見せ場が地球からの離反を考えていた地球圏連合宇宙軍遼州方面軍総司令だった田安高家中将との会見だ」
ここまで行ったところでかなめは一瞬笑みを浮かべた。
「あれよね、『6月23日の茶会』よね。知ってるわよ、そのくらい。田安高家は軍人であると同時に当時は地球を代表する茶人でもあった。そこにその目にかなう人物として藤原基が現れた。二人は茶を通じて本音を語り合い、田安高家は甲武星の地球からの独立と復古主義を望んでいる自分の本心を語り、藤原基は遼薫から託された『御鏡』を手渡すことで地球からの独立の象徴的意味をそれに持たせることで政治的裏付けを与えることになった。結果、藤原基が遼帝国に戻った三日後に田安高家は地球圏からの離反を宣言して甲武国を打ち立て、甲武の地球からの独立と遼帝国の『御鏡』を中心とした国づくりを始めると宣言した……一杯の茶が歴史を動かした瞬間。一応は茶人である隊長もいつも言ってるじゃないの。『あのような歴史を動かす茶を立ててみたい』ってそれは単なるかなめちゃんの先祖の自慢?いい加減聞き飽きたわよ」
不満そうにアメリアはそう言った。
「そんなんじゃねえよ。ただ、藤原基の立てた茶が歴史を変えたのは事実だ。そのおかげで田安高家は甲武国を復古主義の貴族制国家へと変えることに決めた。デジタル封建制の地球から真の封建制度の国へと甲武を変える。その決断を迫ったのがアタシの先祖で、その功により、後に遼帝国から甲武国宰相に引き抜かれた藤原基は西園寺基と名を変え、初代甲武西園寺家の祖となった。そして、当時の甲武の最高権力者の『征夷大将軍』である田安高家の三女を嫁に迎えて公家の最高位の地位を獲得した。そして二度にわたる21世紀に起きた東アジアでの核戦争で21世紀が始まる前は1億2千万人いた人口から当時200万人まで人口を減らしていたアメリカ信託領ジャパンの日本人たちに甲武への移民を呼び掛けたんだ。ここ甲武にはデカい顔で支配者を気どる白人のキリスト教徒やユダヤ教徒は居ない。日本人が主の国があるとな」
かなめはそう言って笑みを浮かべた。




