第42話 公方様の超絶ラッキー
「話を元に戻すけどまあさっきカウラの言ったことは半分正解、半分不正解だ。あの馬鹿に仕事は出来ねえ。だが、アイツはとてつもない力を持っている。それは神前の法術なんて目じゃねえたぶん最強の力だ。恐らくこの地からの前ではあのランの姐御でさえ無力だろう。あんな恐ろしい能力を持っているとは……純血の地球人の割に麗子は恐ろしい奴なんだ」
かなめはそのままニヤリと笑った。
「あの馬鹿がなんとか形だけとはいえ仕事ができてるのはな……」
いかにも嫌らしい笑み。かなめに今浮かんでいる表情は誠にはそうとしか見えなかった。
「本当に仕事ができてるの?本局言っても誰もが嫌な顔している中でアホみたいな笑い声をあげてるところしか見たこと無いわよ」
めんどくさそうにアメリアが頭を掻く。それを見てかなめは顔を突き出し、誠達にささやきかけた。
「奴はラッキーなんだよ。それこそ天地の物理法則という奴を疑いたくなる程な。軍事に置いて一番大事なのは戦力でも、練度でも、国力でもねえ。運なんだ。そのラッキーだけを期待して甲武海軍はアイツを軍に置いてやっている」
そう言い切るとかなめはにんまりと笑った。
『ラッキー?』
誠、カウラ、アメリアの三人はかなめのあまりに意外な言葉に顔を見合わせた。
「そうだ。奴はラッキー、幸運なんだ。本当に嫌になるくらい。物理法則やすべての常識が覆り、見ている人間が自分が不幸な人間だと確信してしまうほどのラッキー……話は変わるが神前には言ってないがアタシは競馬が趣味でね」
得意げに語るかなめに誠は完全に呆れ果てていた。
「はあ」
かなめの独白に誠は生返事をする。かなめの競馬好きは整備班の貧乏人たちが時々かなめの気まぐれで競馬場に拉致同然に連れていかれて、そのまま数か月サラ金の返済に迫られている事実を知っていたが、かなめに逆らうとろくなことにならないのは知っていたので黙っていた。
「なんでその話とラッキーが関係あるのよ。運が大事?そんなのは知ってるけどあの無能を軍に置いとくほどのラッキーってどういうものなのよ。ああ……そう言えば誠ちゃんが配属になったころくらいから、競馬で当たったってことでおごってくれること無くなったわね。でもそれってあの馬鹿が配属された時期と一致するじゃないの。じゃあ、なんでかなめちゃんがそれから競馬で負け続きなの?全然ラッキーじゃないじゃないの」
そんなアメリアの皮肉にかなめは苦笑いを浮かべた。
「まあ、実際あれから一回も勝ってねえからな。それもこれも麗子の馬鹿がいけないんだ……アイツのラッキーは自分の為だけのラッキーだ。周りの人間はその分不幸が待ち受けている。アタシが今アイツのラッキーの余波で不幸のどん底にある。そう言うことだ」
かなめは自分自身に言い聞かせるようにそう言った。
「その様子だと神前と同時に東都の司法局本局に転属してきた田安中佐と競馬に出かけるようになってから負け続けというわけか……でもそれはおかしくないか?それなら田安中佐はラッキーというより疫病神じゃないか。自分だけがラッキーな運など迷惑なだけだぞ」
冷静な表情でカウラは指摘した。かなめはその言葉に沈黙し、そのまま頭を掻く。
「まあ、奴は競馬で金を稼ごうなんて思っちゃいねえからな。一日、朝からアタシと付き合って最終レースまでアイツが買うのは多くて3レース。ひどいときは全く買わないこともある」
かなめはタバコをふかしながら思い出すような調子でそう言った。




