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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第九章 究極の無能『征夷大将軍』

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第36話 田安麗子中佐、通称『公方様』

「まあ、昨日の夜だ。アタシが月島屋で席を外した時が有ったろ。そん時、奴から電話があって、『明日、監査に伺うからよろしくね。オーホッホッホッホッ』てひと笑いして切りやがった。昨日の今日で電話して来るな!こっちにも心の準備が有るんだ!」


 かなめは一瞬顔を上げてそう言うとそのままうなだれた。


「やっぱりその笑い方ね。本庁に行くたびに見てるわよ、その笑い声の主の後ろ姿。誰に聞いても彼女のことを教えてくれなくて、ただ『本庁地下にお荷物がいるから早くコンクリで固めて封じろ』って繰り返すばかりで……で、隊長。何者なんですか?あの馬鹿」


 アメリアはあきらめ切った表情で顔を上げて嵯峨に尋ねた。


「おいおい、お前さんもめちゃくちゃ言うねえ。田安麗子中佐。甲武帝国海軍大学校を……主席じゃないがあ、それなりーな成績で出たエリート士官……通称『公方様』」


 嵯峨はようやくその嵯峨とアメリアが言うところの『馬鹿』、かなめの言うところの『アイツ』の名前を言った。


「隊長。それなりーの成績ってエリートなんですか?でも馬鹿なんでしょ?どうすればエリートになれるんですか?普通馬鹿はエリートにはなれませんよ」


 嵯峨の言葉に誠は思わず突っ込んでしまった。


「まあ、陸軍大学校を本当に首席で卒業した隊長からしたらそれ以外は全員それなりーの成績なんだろうな」


 カウラはそう言って苦笑いを浮かべた。嵯峨はほとんど甲武陸軍大学校に出席せずに鏡大の法科の研究室に通って首席を取った『奇才』だということは誠も知っていた。


「なんだよカウラ。それじゃあ俺が自分の成績を自慢してる鼻持ちならない奴みたいじゃねえか……否定はしないけどね」


 嵯峨は苦笑いを浮かべながらそう言った。そこには軍人の癖に軍人嫌いの嵯峨らしいいやらしい笑みが浮かんでいた。


「ちょっと待ってくださいよ。隊長、田安麗子っておっしゃいましたよね?特別監査室長は」


 ようやく我に返ったアメリアが嵯峨に目を向けてそう言った。


「おっしゃったよ。特別監査室長の名前は田安麗子」


 今度は完全に無表情で嵯峨はそう答ええた。


「ってことは甲武四大公家の田安家当主の田安麗子女公爵ってことですよね?」


 アメリアはそう言って隊長の執務机を叩いた。甲武の事情をあまり知らない誠にはそんなアメリアの態度が不思議に思えた。


「アメリア!オメエは馬鹿か?また埃が……」


 かなめがそう言って口を押える。アメリアが机を叩いた反動で再び机の上の埃が部屋中に舞い始めた。


「隊長掃除してください!」


「カウラよ今したってどうにもならねええだろ?」


 埃の嵐にもだえ苦しむ誠達をこの部屋の住人で埃にはすっかり耐性ができている嵯峨が平然と答えた。


 嵯峨は気分を変えようと制服の胸のポケットからタバコを取り出す。


「隊長!」


 カウラが責めるような視線でそう言った。


「いいじゃないのよ。タバコぐらい吸わせてよ。我慢してるんだから」


「隊長がとっとと指示を出せばよかったんです。自業自得です」


「あっそう」


 タバコ嫌いのカウラに言い負かされて、嵯峨は仕方なくタバコをポケットに戻した。


「ああ、クラウゼ。さっきの質問な。オマエさんの言う通り、田安麗子中佐はあの四大公家の当主の田安麗子だ官位は『右大臣』。甲武国では田安家は徳川宗家ということになってるから称号としては『征夷大将軍』でもある」


「やっぱり」


 アメリアはそう言うと今度は視線をかなめに向けた。


 かなめも西園寺家、甲武帝国四大公家当主を父から譲られていた。じろじろアメリアから見られていることに気づいたかなめは、スカートのポケットからタバコを取り出した。


「西園寺!」


「なんだよ、カウラ。タバコはアタシもダメなのか?この部屋喫煙可だろ?」


「隊長がダメなもの、貴様が良いわけがないだろ?」


 カウラにそう言われてかなめも渋々タバコをしまった。

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