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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第九章 究極の無能『征夷大将軍』

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第31話 多少はマシになった『駄目人間』

「ちょっと待て……心の準備が……てか、やっぱアタシだけ逃げるってのはダメ?」


 こんなに弱気なかなめを見たことが無い。誠はその弱気になったかなめがこんな顔をするという典型を見てそう思った。


「ダメに決まっている!これはクバルカ中佐の命令なんだ!」


 左手で逃げ出そうとするかなめの襟首をつかむと、カウラは扉をノックした。


『いるぜ』


 中からいつもの渋い声が響いた。


「失礼します!」


 カウラはそう言って静かに扉を開けた。


 カウラを先頭に、アメリア、誠、そしてうなだれたかなめが続く。


「ああ……ダメだな、この靴下。とうとう穴が……お蔦に言って買ってもらおう。アイツほっとくとブランド品とか手を出すからな。格安の5足で千円とかのでいいって言わないとな」


 司法局実働部隊隊長の机。その主は侵入者である誠達に背を向けたまま、窓のへりに乗せた左足の靴下を脱いでいた。


「隊長……」


 その身なりは立派、そして見た目は20代、そしてやってる事が子供以下の隊長に一同はあきれ果てていた。


「ちょっと待てよ……やっぱこのままでいいや」


 ランのそれより明らかに格上とわかる立派な椅子の主はそう言って親指に穴の開いた右足の靴下を無理に履いくとそのまま靴を履く。


「隊長……」


 嵯峨のあまりにも情けない姿に嘆息するようにカウラが口を開いた。


「おう!なんだ。来てたのか」


 まるで気にしていないというように嵯峨はいつものように緊張感のない顔をあげた。


「来てたのかじゃないですよ」


 入ってきたときの厳しい表情はどこへやら、カウラは明らかに軽蔑した表情で司法局実働部隊部隊長の嵯峨惟基特務大佐をにらみつけた。


「ベルガーよ。そんな怖い顔で見つめないでよ。俺、気が小さいんだから」


 いつものポーカーフェイスは何を考えているのか誠にもさっぱりわからない。誠は真面目な顔で決めて見せればどんな女性でも惹きこまれるような美形でありながら以前はまったく持てなかった嵯峨を諦め半分の視線で見つめた。


「隊長が気が小さかったら世界に気の小さい人なんかいませんね。『千人斬りの悪内府』。それより気の小さい人がこの世に居るんですか?」


 アメリアは20年前の戦争で嵯峨が鬼の憲兵隊長時代に母国である甲武の新聞たちが戦意高揚のために名付けた嵯峨の二つ名を挙げてそう皮肉を言った。


「クラウゼ……皮肉か?まあいいや。そんな新聞のデマを今更どうこう言っても仕方がない。確かに俺は千人以上斬ってるが、人殺しの数を自慢する趣味は俺には無いんでね」


 部隊長、嵯峨惟基は内縁の妻、お蔦と暮らすようになってからきちっと分けられるようになった黒髪を掻きながら椅子に座りなおした。



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