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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第八章 すべてを誠達に押し付ける『人類最強』幼女

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第29話 『人類最強』が口に出すのもはばかる『アイツ』

 カウラ、かなめ、誠、アメリアの四人がランの執務机の前に並んだ。


「お説教か?」


「いつものことだ……で、西園寺が何を壊した件ですか?」


「カウラ!アタシは最近は何も壊してねえ!……どうせ『アイツ』の件だ……姐御は『アイツ』の取り扱いを全部アタシ等に押し付けるつもりだ……」


 そう言いながらいつも強気なかなめはどこか怯えたような表情で泳いだ目をあちこち動かしていた。


 ランの機動部隊長の大きな執務机の隣に並んだ、普通サイズの三つの机の島。その向かい合った机に座って四人をニヤニヤ笑いながら見つめているのは、機動部隊第二小三番機担当予定の『男の娘』のアン・ナン・パク軍曹である。


 かえでとリンだけが休みでアンは出勤。誠はこの時点で何かおかしいと少し気になった。


「アン!手が止まってるぞ!この前のシミュレーションの時のレポート。提出は明日だぞ!それとも何か?今日も残業したいのか?オメーの定時制中学の先生からオメーが学校帰りにラブホに寄るのをなんとかしてくれって言われててアタシも迷惑してるんだ。学生の本分は勉強だ!ホモセックスじゃねー!」


 そう言ってランは部隊最年少の十八歳の新人隊員であるアン・ナン・パク軍曹を叱責する。


「話を戻そう。オメー等に特命だ」


 手をその小さな胸の前で組みながらランは切り出した。


「はい、クバルカ中佐」


 真摯に聞き入る姿勢ができているカウラはそう言ってランの言葉を待つ。


「隊長室へ行け。以上!」


 ランの顔は脱力感に満ちていた。要するにランは隊長である嵯峨が誠達に命令する内容は知っているが口にもしたくないということらしい。


「えーそれだけ?かなめちゃんを怖がらせている『アイツ』の話をしてくれるんじゃないの?つまんないわね」


 明らかに不服というようにアメリアが叫ぶ。


「なんだ?クラウゼ?もっと難しい指示がいいか?そのままジャージに着替えて、グラウンドを百周しろとかか?それとも……」


 ランがめちゃくちゃな指示のたとえを繰り出そうとした時、とつぜんかなめが首を垂れた。


「どうしたんですか?気分でも悪いんですか?」


 落ち込んだ表情でうつむいているかなめに誠が心配して声をかけた。


「やっぱり夢じゃねえんだ……やっぱり『アイツ』が来るんだ……逃げていいか?神前、すべてをオメエに押し付けてアタシは逃げていいか?」


 かなめは悲壮感をたたえた声を吐き出した。それは隊長室に行くとろくでもない要件を押し付けられることを予見していることを示しているように誠には見えた。


「おい、西園寺。クバルカ中佐は『隊長室に行け』としか言っていないぞ。貴様は何か知っているのか?それと貴様は『アイツ』を知っているんだろ?どうせ友達なんだろ?だったらなんでそんなに怯える?私には理解不能だ」


 こちらも心配そうにカウラがかなめの肩を叩きながらそう言った。


「西園寺。テメー、隊長が何を指示するか知ってるのか?そうか、『アイツ』から事前に連絡が会ったのか……でも、西園寺、よく『アイツ』と意思疎通が出来るな。アタシにゃ無理だ。その点だけは褒めてやる」


 ランは相変わらずサディスティックな笑顔を浮かべながらかなめの落ち込んだ様を眺めている。


「すごいのねえ、かなめちゃん。予知能力?サイボーグにそんな力あったかしら」


 アメリアがからかうような声を掛ける。かなめは幼い時に元宰相の祖父を狙ったテロで脳と脊髄の一部を除いてすべて機械化されたサイボーグだった。


「嘘であってくれ……そんなことはあり得ない……と昨日から願っちゃいたが……」


 相変わらずうつむきながらかなめはそうつぶやいた。


 カウラ、誠、アメリアはただうつむいて落ち込んでいるかなめを眺めている。


「まあ、隊長が何を言うかはアタシも知ってるから……その内容を予想がついている西園寺が落ち込むのも無理ねーよな……なにせ『アイツ』だもんな。ご愁傷様」


 そう言うランの口調には全く同情の色はこもっていなかった。


「クバルカ中佐!その口調だと中佐は隊長が私達に何を指示するのか知っているみたいですね?」


 誠から見ても真面目で一本気なところが売りな第二小隊長のカウラは怒気を孕んだ口調でそう言った。


「知ってるよ。でもなー。アタシはそんなこと口にしたくねーから。アタシも西園寺と一緒で『アイツ』とは関わりたくねー!『アイツ』は言葉は喋れるが人の話は聞きゃあしねえ!理解不能な生き物だ」


 それだけ言うとランは椅子をくるりと回転させて壁に背を向けてしまった。小さなランが座るには背もたれが立派すぎる椅子にさえぎられて、誠達からランの姿は完全に消えてしまう。


「ランちゃん……もしかして……アタシ達……解雇?」


 あまりに落ち込みの激しいかなめを見つめていたアメリアが見えないランに声を掛ける。


「安心しろ。それはねーから。ちゃんと隊長に無茶を押し付けられて来いよ!たぶんこれまでアタシ等が押し付けられた仕事でも一番困難な仕事を押し付けられる。ご愁傷様」


 ランはそう言うと手を挙げて、誠達に部屋を出ていくように促す。


「それでは失礼します!」


 こんな時でもカウラはランに向けてきっちりとした敬礼をして部屋の出口へ向かった。

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