第26話 諦めに近い境地での出勤
自分の立場が日々弱くなっている事実を再確認して絶望している誠を乗せたカウラの『スカイラインGTR』は工場の敷地を抜け、『特殊な部隊』のゲートに差し掛かった。
「このゲート……もっと強力なものと交換できねえかな。かえでの部屋みたいに野郎が触ると高圧電流が流れて感電死するようにするとか……ああ、アイツは女だった。というかアイツが触れたら自爆して半径十キロ四方が吹き飛ぶようになってくれりゃあ良いのに。というか今日だけは機関銃座をあそこに配置して近づくものは全て発砲して良いって言う許可はでねえのかな……アタシが許可するから」
かなめは不機嫌そうにそう言うと開きっぱなしの黄色と黒のゲートをくぐるカウラの運転を見つめていた。
「西園寺。今日のお前は変だぞ。昨日のリンへの発砲と言い、昨日の夜からどうもおかしい。貴様は人に銃口を向けることは平気でするが発砲したのは私が知る限り昨日が初めてだ。何かあったのか?」
駐車場に車を停めながら心配そうにカウラは助手席のかなめに訪ねた。
「なんでもねえよ。アイツのただの思い過ごしってこともある。まあ、アイツは年中思い過しているがな。ああ、アイツが半径5キロ以内に近づいたら爆発する核弾頭をこの基地の地下に設置しよう。そうすればアタシはアイツの顔を見なくて済む」
かなめはそう言うと素早く助手席から降りてシートを倒した。長身のアメリアと誠は狭い後部座席から解放されて伸びをしながら隊の駐車場に降り立つ。
「かなめちゃん。その『アイツ』って誰?かなめちゃんに友達なんてこの隊の隊員以外誰もいないじゃないの。三歳の時にサイボーグ化した時からその姿のままで周りに友達なんて誰もいなかったっていつも言ってるのはかなめちゃん自身じゃないの」
アメリアは不審そうにかなめに向けてそう言った。
「なんだよ、人を勝手にボッチ扱いしやがって。アタシにだって友達の一人や二人いる!というか二人しかいねえ!その中でもアイツはとんでもねえ奴だ。まったくアタシの周りにはろくな人間が居ねえんだ。妹のかえではあんなだし、オメエ等は見ての通りだし、神前は存在自体がすでに女性用大人のおもちゃのオリジナルでしかないし……ああ、アイツとは別のもう一人の奴は普通。というか今でこそ偉いが根が貧乏人。貧乏比べをしたらたぶん叔父貴にも対抗できるのは宇宙ではベルルカン大陸の難民キャンプの住人とアイツしか居ねえ」
かなめは吐き捨てるようにそう言った。
「西園寺さん!僕をそんな恥ずかしい存在まで貶めないでください!それと隊長と貧乏比べが出来る人ってどんな暮らしをしてたんですか?あの食生活は不老不死の隊長だから出来るので有ってベルルカン大陸の難民キャンプの人達は常に飢えてて時々死人まで出てるじゃないですか?死んじゃいますよ、そんな生活したら」
かなめの言う無茶苦茶にさすがに温厚な誠もキレた。
「馬鹿話はそのくらいにしておけ。早く着替えを済ませないとクバルカ中佐の雷が落ちるぞ。それと、神前。貴様は立派な女性用大人のおもちゃのオリジナルだ。どこに出しても恥ずかしくない。私はアレを見るたびに貴様を誇りに思っている。そのことを恥じる必要などないんだ」
カウラは誠にとってはまったくフォローになっていないことを言って隊の本部に向けて早足で歩き始めた。
「カウラさん……それってまったくフォローになって無いんですけど……まだ実物は見たことは無いですけど、見たら僕の地位がどんどん下がっている事実を再確認することになるんですけど……怖くてネット通販の画面が開けなくなるじゃないですか……」
そんな誠の思惑がこの隊の女性陣には一切通用しないことはこの半年で誠も学習済みだった。




