第25話 オリジナルがコピーに負ける事態
車は隊のある『菱川重工豊川工場』のゲートに差し掛かった。いつものように工場に出勤する車の車列の中で一人、かなめだけが不機嫌そうな顔をしていた。
「おいおいおい、それじゃあオメエの売りは何になるんだ?ランの姐御は問題外として、かえでには絶対に勝てねえ。その上、自分が力を与えたリンにすら負ける。それじゃあオメエの法術師としての強さはうちでは四番目ってことか?そのうちランの姐御もオメエを見放してリンを鍛えるとか言い出して法術師の訓練にリンを加えることになるぞ。『近藤事件』、『バルキスタン三日戦争』、『同盟厚生局違法法術研究事件』、そしてこの前の米帝に記録から抹消された『法術乗っ取り法術師確保』なんていう難事件で活躍してきた伝説の勇者も最下級の女郎にすら勝てない軟弱ものにまで落ちたってわけだ。オメエはもう女性用大人のおもちゃとしての価値しかねえ。いい加減童貞なんか捨ててその地位に甘んじてアタシ等のおもちゃになれ」
かなめは平然と誠に向けてその心をえぐるようなことを言ってのけた。
「かなめちゃん、ちょっとその扱いはひどくない?確かに誠ちゃんのアレを完全再現したかえでちゃんが最近一般販売も始めて結構通販サイトの上位に載ってる女性用大人のおもちゃは私も愛用しているし、運航部の女子で持って無いのはサラとパーラとそういうことには関心のないルカだけだけど、誠ちゃんは誠ちゃんなりに良いところがあるのよ……私はあのおもちゃじゃ満足できない。誠ちゃんの本物が欲しい」
アメリアは完全に誠の期待したフォローの斜め上を行く意見と、誠のモノを再現した女性用大人のおもちゃを運航部の女子隊員のほとんどが愛用している事実に衝撃を受けて言葉を失った。
『かえでさん……そんなものを一般販売始めたの?しかも人気なの?僕まだ童貞だよ?でもそのおもちゃは多数の女性に愛用されている……僕本当に童貞なのか?』
誠はアメリアの発言に狼狽えて我を忘れていた。そしてそんなことまでしているかえでの頭の中の構造を疑いたくなっていた。
「あのーアメリアさん。なんでそんなことになったんですか?僕何か悪いことしました?それセクハラを通り越してほとんど犯罪ですよ。僕の人権とか皆さん考えてくれていますか?かえでさんがああなのは変態だから仕方ないですけど、皆さんも変態ですか?」
誠がようやく絞り出した言葉に女性陣は一斉に沈黙した。
「私は持ってはいるが使ってはいない。ただ、口で舐めたりくわえたことは有る。私も『ラスト・バタリオン』だからな。ロールアウトした時にそうして男性を喜ばせる方法は脳に植え付けられている。ただ、アレを本当に使う気にはなれない。神前との……その……」
唯一、純情だと信じていたカウラの言葉に誠の絶望はさらに深いものになった。
「カウラさんも持ってたんですか……というかなんでそんなに大量生産されているんですか……アメリアさん。かえでさんばかりではなくアメリアさんもその廉価版とか作ってそうですね。アメリアさんはお金になるなら何でもしますから。まさか、エロゲの知り合いの業者に頼んで大量生産してその一部を懐に入れてるなんてことは無いですよね?」
誠は隣に座って黙り込んでいるアメリアに向けてにらむような視線を向けた。
「あら?バレてたんだ。だってAV女優の男性用大人のおもちゃはよく売ってるじゃないの。かえでちゃんの奴はかなり高機能だから高級で値が張るから売れると言っても限界があるかなあとか思ったのよ。だから、知り合いの業者にかえでちゃんから貰ったサンプルを持って行ったら結構受けが良かったのよ。こんな大きいのはかなりコアなマニアにしか売れませんよって言われたけど、かえでちゃんが作ってる奴の販売実績を教えて、実際売り出してみたら結構人気でそう言う物を扱っているお店でも結構人気商品みたいよ。最近、私の企画したエロゲの売り上げがいまいちなのよね。だからその分をその誠ちゃんのアレのおもちゃで補っているのよ。それだけ女性の支持を受けてるんだから少しは自信をもって!」
明るく笑い飛ばすアメリアだが、誠は自分の地位がそこまで落ちていたのかという事実を再確認して再びこの『特殊な部隊』に愛想がつきかけている自分を再発見した。
『ついに僕は人間の地位まで失いつつある……これは運命なのか?運命としたらあまりに残酷……というかただの笑いものだな』
誠の絶望は深まるばかりだった。




