第224話 ここは地獄だが、どうやら自分は人間に戻れたらしいと誠は思った
「かなめ坊よ。こんなところで銃撃戦か?しかも同僚に……そりゃあ困るな。でも、ここでパーラに神前を諦めてもらった方が俺としては都合がいいから結果オーライかな?」
相変わらず一切かかわりになる気は無いというように無責任に嵯峨はそう言った。
「しかし、パーラまでもが神前を狙っていたとは……この隊の女は油断も隙も無いな。それに隊長。私は最近はパチンコでは負け知らずです。決して神前に給料を貸してほしくて神前を愛しているのではありません!私のそれは他の四人とは違って純愛です!」
カウラは周りの女達を見回してそう嵯峨に言い放った。
「ベルガー大尉。君がパチンコに勝っているのはたまたまだろ?それに君の言う純愛というものはもろいものだよ。僕もそう言う自称『純愛』をいくつも壊してきた。だから言おう、君の純愛は僕の魅力の前では無力だ。僕の完璧な美はかならず誠君の心を虜にする事だろう」
余裕のある笑みを浮かべて軽く前髪をかき上げて誠に笑いかけるかえでについ惹きこまれてしまう自分を誠は情けなく感じていた。
「かえで様にはその美が誠様を苦しめる結果になることも有る事の自覚が無いようですね。このリン。その忠誠心においては他の女達の比ではありません!誠様。私の提示したプランのどれを選ばれますか?もし誠様に独自のお考えがあるようならおっしゃってください。甲武四大公家の家宰を務め、色事でしくじりの多いかえで様の数々の悪事を隠蔽し、そして何より医師としての実績のある私であればどのようなご希望も必ず叶えて差し上げますよ」
優しげでありながらどこか裏のある表情を浮かべてリンはそう言って誠に迫ってきた。
「誠ちゃん!騙されちゃだめよ!甘い話には裏があるに決まってるもの!ランちゃんがいつも特殊詐欺に引っかかってるのを見てるでしょうが!それに一番楽しい生活を送ろうと思ったら趣味の似ている私以外の選択肢は無いわ!人生楽しく生きてなんぼよ!それを一番理解しているのは私!誠ちゃんだって私のボケにツッコむのが好きでしょ?」
そう言って糸目をさらに細めて座っている誠を高い所からアメリアは見下ろした。
「みなさんの思いはうれしいんですけど……僕は普通の恋愛がしたいんであって……皆さんはあまりに特殊過ぎて……」
小声でそう言うのが誠にできる最後の抵抗だった。
「おい、神前。誰が特殊だ?うちは『特殊な部隊』と呼ばれてるんだ。それを言うならパイロットのくせに機体に乗るたびに吐くオメエの方がよっぽど特殊じゃねえのか?」
誠は確信した。この5人に理屈は通用しない。そしてこの5人から逃れるすべはない。逃げるも地獄、残るも地獄。
ただ、彼女達がようやく自分を『アダルトグッズ』や『現金自動支払機』や『ハエ人間』では無く一人の『人間』として見ていてくれているらしいことが一人だけいるらしいことが分かったのが唯一の収穫だった。
こうして誠の不幸な二日間は過ぎて行った。
了




