第219話 『ウジ虫』誠、ようやく『人間』になる
「渡辺以外のここにいる女全員!オメー等渡辺に何にも反論できねーんだな?この勝負はリンの勝ちだ。素直に負けを認めろ……といいてーところなんだがな……」
ランは含みのある笑みを浮かべて再び撃沈したかなめ達を押しのけて一人自信ありげに立っているリンの傍に立った。
「アタシは人生を『義理と人情の間で悩む』ことだと考えている。オメーの義理、日野に対する義理だが……こりゃあ十分に果たしたと言えるな。日野の起こすもめ事だが、被害者である西園寺や神前、そしてほかの馬鹿達が告げ口して来るだけで警察からは何の連絡もない。すべて、オメーが内々に処理したんだろ?大したもんだ。その時点で日野への義理は果たしたと言える」
そう言ってうなだれているかえでに目を向けたランはにんまりと笑った。
「で、次に『情』なんだが……こりゃあ難しい。まず、この騒動の元になったクラウゼの馬鹿の『神前ネットオークション出品事件』で、オメーが神前を落札したわけだ。それは『情』がある行為と言えるか?アタシには金に物を言わせた非道なやり口にしか見えねーな。そこにアタシは『情』を感じねー」
ランは少し不満そうにリンに向けてそう言った。
「そうですか……そう見えても仕方がない話ですね。ですが、この30億のお金。これまでの酷い仕打ちを受ける誠様を『人間』に戻して差し上げるには仕方がない出費だったんです……」
リンはそう言って少し悲し気にうつむいた。しかし、その態度に誠はどう見ても演技の色を感じて不審そうな目でリンを見つめた。
「仕方がねー出費?どういうことだ?オメーが神前を落札するとどうして神前が『人間』に戻れるんだ?コイツは昔からウジ虫で、それがアメリアによって『アダルトグッズ』に一時的に変わった。それが『人間』に戻れる?そんなもん30億の金でどうにかできる話なのか?」
ランは相変わらず誠を『ハエ人間』扱いしながらそう言った。
「はい、私はかえで様のおかげで身請けしていただき、『人間』としての生き方を学びました。クラウゼ中佐のオークションの中に誠様が出品されていると知った時……私は同じ運命を誠様に見たんです」
リンはわざとらしい涙を浮かべてそうランに語り掛けた。
『あのー……僕はいつ誰に密輸されたんですか?僕の発売元はどこですか?リンさん、ちょっと芝居が過ぎてませんか?鈍い僕でもここまで来ると作為しか感じないんですけど……』
さすがにここまでリンの話す話が出来過ぎていると誠でもリンの誠を手に入れる為には手段を択ばないという本性が透けて見えた。
「そーか、オメーはそう感じたのか……その心。アタシはそこに『情』を見た。渡辺、オメーは『義理と人情の間で悩む』立派な女だ。そのオメーの顔に免じて今日からアタシは神前を『人間』として扱うことにする!」
ランは高らかにそう宣言した。
『僕は……これまでクバルカ中佐にとっては『人間』以下のウジ虫だったのか……これは喜んでいい事なのだろうか……たぶん境遇は何も変わらないと思うけど』
誠は諦め半分にそう思いながらリンを見た。そのリンの口元に『してやったり』の笑みが浮かんでいるのを誠は見逃さなかった。




