第216話 どこまでも先を読む女
「いかがでしょうか、クバルカ中佐。クバルカ中佐が常々言ってらっしゃる嫁として当然あるべき条件をすべて備えているのはこの隊の女では私しかおりません。そして、私も誠様のおかげで法術師となりました。共に成長すればいずれ誠様は私の手でクバルカ中佐の理想とする『漢』となるでしょう。ですので、私と誠様の結婚をお認めいただけないでしょうか?」
リンはいつもの無表情に戻って淡々とランに向けてそう言った。
「オメーの言うこと……一々筋が通ってる。アタシは筋が通った話に文句をつけるのは主義に反する。しかし、オメーにはその手順……順番を甘く見ているところがねーか?」
ランの思考の単純さは『義理と人情の二ビットコンピュータ』とあだ名されるほどなので、自分の信条である筋が通った話をされれば反対などできるはずがない。そして部下である誠は自分には絶対服従すると信じているランにとっては誠がどう考えていようとまったく関係のない話だった。
「まったく、おっしゃる通りです。その点でも私に抜かりがあるはずが有りません。私は誠様に無理を申すつもりは毛頭ございません。それに誠様にはいくつもの可能性と提案したいと思います。その可能性の中から誠様好きな私との関係を選んでいただければ幸いです。私はこの『社会不適合者』の駄目女達とは一味違うということがこのことからも分かるでしょう」
そこでリンは誠を向き直った。
「可能性?何ですかリンさん」
誠はいつも夜這いに来る強引なリンのイメージしかなかったので怯えながらそう尋ねた。
「はい、まず一番経済的に豊かになる方法。それは、私の婿として渡辺家の別家当主となっていただくことです。甲武の武家は夫婦同姓が原則なので名字も渡辺になります。別家ということですが、屋敷は私の所有する今は使っていない甲武の渡辺家の屋敷をお預けします。そして、そうなれば官位は私がかえでさまよりいただきました『弾正小弼』が空いておりますので、その官位と所領は当初かえで様よりいただきましたものがありますのでそこをお分けいたします。誠様は甲武海軍に籍があるとか……甲武海軍は西園寺家に近しい『民派』の牙城として知られます。当然、西園寺家に近しい存在であり優秀な法術師である誠様の出世は約束されたも同然……いかがでしょうか?悪い話では無いと思うのですが?いえ、私はこの駄目女達のように自分の価値観を強制したりはしません。甲武海軍勤務となれば宇宙での行動も増えるもの。どうしても宇宙酔いに弱い誠様には向いていないことは重々承知しております。ですが、経済的なこと、社会的地位を考えればこれが最上の道かと存じます」
理路整然とリンはそう言った。誠はそのあまりに具体的に先々の計画を立てているリンに感心せざるを得なかった。




